陥穽 
《5》















不二が部屋からいなくなると、耐え難い沈黙が部屋を圧した。
自分の心臓の鼓動だけが、がんがんと響いてくる。
------どうしよう!
桃城は、殆どパニック状態に陥っていた。
駄目だ。
部長と-----なんて、できるわけがない。
話しかけるのさえ、憚られるほどなのに。
その部長と、セックスをする…………?
---------無理だ!















「じゃあ、始めるか?」
その時、低く良く通る声が聞こえてきて、桃城はびくっとして声のした方を振り向いた。
手塚が、感情の伺い知れない瞳で、じっと桃城を見つめてきた。
呆然としたまま手塚を見ると、手塚は視線をずらして立ち上がり、パーカーを脱ぎ始めた。
「…部、部長…………」
パーカーを脱ぎ、シャツを肩から滑り落として、それからズボンに手をかける。
カチャ。
軽い金属音がして、手塚がベルトを外すのを、桃城はただ見ていた。
頭が働かない。
何か言わなければ、とは思うものの、身体が全く動かなかった。
手塚がズボンを下ろして、それからトランクスを脱ぐ。
眼鏡を外して、ことん、と軽い音をさせて、ベッドサイドのテーブルに置く。
「………どうした?」
静かな声。
手塚が近寄ってくる。
手塚は、一糸纏わぬ裸だった。
筋肉がバランス良く付いた、美しい肢体。
艶やかな乳白色の肌が、電灯に照らされて柔らかく光っていた。
手塚の裸体を見たことが、ないわけではない。
合宿で一緒に風呂に入ったり、或いは日常的に部室で着替えたりしているから、それなりに見てはいた。
しかし、今、手塚の裸体を見て、桃城は身体中の血が沸き返るように昂揚した。
どくん、と津波のように大きなうねりが襲ってくる。
電灯に照らされて微妙に陰影の付いた身体が、淫靡な雰囲気を醸し出して、桃城を誘惑してくる。
筋肉の美しい上半身から、細い腰、そして、その中心のほの暗い翳り。
重そうに垂れ下がっている、手塚自身。
(………………!)
ズキン、と性器が疼いて、桃城は顔を顰めた。
痛いぐらいに、血が集まって脹れている。
どうしよう---------!
身体はこれ以上無いほど興奮しているにも関わらず、桃城は恐怖を感じた。
怖くて、どうしたらいいか分からなかった。
手塚が近付いてくるのに連れて、桃城は後ずさった。
「桃城………」
手塚が、低い声で桃城の名を呼んできた。
呼びながら、そっと桃城の服に手をかけてくる。
「ぶ、部長………駄目っス………」
手塚に服のボタンを外されて、桃城は必死の思いで声を振り絞った。
「……やめて、下さい………」
手塚の匂いがした。
松の樹のような、清涼な匂い。
くらり、と眩暈がした。
手塚の指が微妙に動く。
ボタンを一つ一つ、丁寧に外してくる。
「………嫌なのか?」
掠れた声で、囁くように言われて、桃城はぎゅっと目を閉じて頷いた。
「……俺が嫌いなのか?」
「……ち、違います!」
嫌いなんかであるはずがない。
思わず叫ぶように言うと、手塚が囁いてきた。
「じゃあ、俺と、してくれ……」
「ど、どうして……部長は……部長は……」
「桃城………」
「……うぁッッ!」
突然ズボンが引き下げられたかと思うと、そこに手塚が顔を埋めてきたので、桃城はたまらず叫んだ。
自分の勃起した性器を、手塚がすっぽりと咥えてきたのだ。
「や、やめて下さいっ!!」
悲鳴のように声をあげながら、手塚の頭を引き剥がそうとする。
しかし、手塚に咥えられた部分からの快感が電光石火の如く全身を走り抜けて、手に力が入らなかった。
「あ……あ……ッ!」
桃城は、他人と性的接触の経験がない。
自慰は、中学一年の時に覚えてから頻繁にしてはいたが、いつも自分の手で擦るぐらいで、感じる快楽もあっさりとしたものだった。
それに比べると、今手塚から与えられている快感は、信じられないほど大きかった。
「あっあッ………ッッ!」
瞬く間に絶頂の階段を駆け昇って、桃城は呻いた。
しかし、イく寸前で、桃城の其処は手塚の手によって強く根元を握り込まれた。
「うッ……ッ!」
寸前で止められ、桃城は顔を顰めて呻いた。
「悪いな、桃城……」
手塚がいつもの声で言う。
いつもの、コートで聞く声で。
「ぶ、部長……」
生理的に涙が滲んできて、桃城は涙声で言いながら手塚を見上げた。
眼鏡をかけていない手塚は、少々雰囲気が違っていた。
理知的な冷たい印象が薄れ、その代わりに他人を誘惑でもしそうな色香が漂っている。
桃城は、もう何も考えられなかった。
手塚が、桃城の服を全部脱がせて桃城の上に乗ってくるのを、ただ呆然として眺めていた。
桃城の腹の上に跨った格好になって、手塚がローションを手に取り、それで挿入の準備をしている。
指を後孔に入れ、僅かに眉を寄せて、そこを慣らしている。
桃城の腹に、手塚の勃起したものが当たり、熱く弾力のある感触と、柔々とした陰毛の感触が直に伝わってきた。
頭の中でがんがんと、うるさく音が鳴っていた。
わんわん、と地鳴りのようでもあった。
身体中が熱くて、血が逆流していた。
「桃城…………」
低く濡れた声で名前を呼ばれて、ぞくっと背筋が強張る。
自分の勃起したものの先端に、熱い肉輪が触れてきた。
「ぶ、部長…………!!」















次の瞬間、手塚がぐっと腰を沈めてきた。
ずぶずぶと、温かい肉の孔に自分がめり込んでいくのが分かって、桃城は硬直した。
柔らかく蠕動する肉襞が、桃城自身に絡みついてくる。
「あ、あッッッ………!」
たちまち、先程中断された時以上の興奮が襲ってきて、桃城は呻いた。
「だ、駄目っスッ……部長……ッッ!」
耐えようのない快感が、鋭い錐のように脳に何本も突き刺さってくる。
どくん、と熱いうねりが襲ってきて、身体中の血が性器に流れ込む。
手塚が、腰を動かし始めた。
腰を浮かせて、桃城自身を抜けそうになるほど引き抜いたか思うと、腰を廻しながら、ぐっと落として、更に深く結合してくる。
「部長ッ、………あッあッ!!」
全身の感覚が自身に集まった。
熱い肉に擦られて、たちまち絶頂が訪れる。
「……部長ッッッ!!」
経験のない桃城は、堪えきれなかった。
手塚が深く腰を沈めたと同時に、桃城は喉を仰け反らせて激しく痙攣しながら、熱い奔流を手塚の最奥に放っていた。




















というわけで 襲われました…………