忍足の災難 
《1》












「なんや岳人、さっきから暑っ苦しいわ」
忍足は疲れていた。
今日の練習は、後衛の忍足にとってはハードなレシーブ&ボレーだった。
それを延々と何回もやらされて、岳人は暇そうにしていたが、その分忍足に負担がかかってきた。
なので、さっさと着替えて早く帰宅したかった。
部室に戻った忍足は早々にシャワーを浴びて、濡れた髪をごしごしとタオルで拭いた。
しかし、ちょっと一休み、とソファに座って一息吐いていた所に、あとからシャワーを浴びて出てきた岳人が五月蠅くまとわりついてきたのだ。
「なぁ侑士ぃ、最近冷てえよ……」
岳人がそう言いながら、忍足の首に手を回してくる。
「岳人、いいなッ!オレにもやらせてっ!」
その時、もう一人、とんでもなく五月蠅いヤツがやってきた。
やはりシャワー室から出てきた、明るい茶色のくしゃくしゃとした髪が特徴のジローだ。
「ジローもさわりてえ?」
「もっちろん! だって、忍足、感触いいんだもんね〜!」
言いながらジローが、忍足を岳人と両端で挟むようにして座ってきた。
「……ね、キスしていい?」
………………またや。
忍足は溜め息を吐いた。
なぜだか知らないが、この二人はやたらと自分と接触を持ちたがる。
しかも、接触を持ちたがる、ぐらいの言葉では済まされない事までしてくる。
「忍足…好き〜!」
「ちょっと待てって、ジロー! オレが先っ!!」
「どっちでも構わへんよ……」
この二人がすると言い出したら、もうどうにも止めようがない。
以前は忍足も、『なんでそないな事させなならんのや』と、岳人やジローに抗議した事もあったのだが、『忍足冷たいっ!』とか、『侑士ってオレの事嫌いなのかよ』とかうるさく言われているうちに、反論する気力もいつの間にかなくしてしまった。
まぁ、別に、……酷くされるわけでもないし。
二人がそれで楽しいんだったら、しょうがないか。
とか思って、今はもう、忍足はあきらめている。
俺なんか相手にして、何が面白いんやろ。
忍足は真面目にそう思うのだが、二人が本当に楽しそうにやるので、ついつい許してしまっているのである。
「忍足----っ!」
ジローが忍足の首に手を回すと、唇をぶちゅ、と押し付けてきた。
「………………」
そのままじっと我慢していると、ジローが舌を滑り込ませてくる。
「おい、ジロー、早く替われよ〜」
隣で岳人が苛立った事をあげている。
これが可愛い女の子だったりしたら、ええんやけどな…………。
忍足は心の中で溜め息を吐いて、目を閉じた。
まぁ、ジローや岳人だって、可愛いと言えば可愛いが。
「んーん、ごちそうさまっ!」
唇を離したジローが嬉しそうに言う。
「侑士っ、こっち向いてっ!」
ぐい、と頭を掴まれて、忍足が岳人の方を向くと、岳人がちゅ、と口付けをしてきた。
そうしてる間にもジローが、忍足の肩に引っかけたままのシャツの中に手を入れてくる。
「忍足、胸勃ってるよ?」
ジローが笑いながら言って、忍足の乳首を指でつぶしてきた。
あーあ、こいつら、どうしてこう悪ふざけばっかりするんや………。
忍足がげんなりした時。














「あの----、先輩方。………そこどいてくれませんか?」
部室のドアのほうで声がした。
「あ、鳳だっ!」
忍足の胸の弄っていたジローが顔を上げて、歓声をあげる。
「うらやまCだろ----!!」
「あの〜、恥ずかしいんで、止めて下さいよ………」
鳳が顔を赤くして、顔を背ける。
「ふーん、こんなトコ見ただけで恥ずかしいんだ、鳳。そっか、鳳ったら、まだ宍戸と全然進展してないんだ?」
ジローがにやにやした。
「ジ、ジローさんっ!!」
「えへ、鳳って随分と奥手なんだね〜」
忍足から唇を離した岳人もにやにやする。
「まーだ宍戸に手を付けてないんだ? それじゃあ、身体が辛いんじゃん? うちで抜いてんの?」
「む、向日先輩っ!」
「………ね、侑士でやってみねえ?」
突然岳人がそう言うと、忍足をソファに突き飛ばした。
「……うわっ!!」
突き飛ばされて、反対側に座っていたジローの腕の中に仰向けに倒れ込んだ所を、ジローがすかさず忍足の両腕を掴んでがっちりと拘束してきた。
間髪を入れず、岳人が忍足の下半身を覆っていたバスタオルを剥いで、両脚をぐいっと、広げてきた。
「ガ、ガクトっ、なにするんや!」
「いーじゃん、侑士、鳳に経験させてあげなよ」
岳人が肩を竦めてそう言いながら、忍足の足を抱え上げて、
「はい、こっちも押さえてて」
とジローにその足を渡した。
ジローに腕ごと足まで拘束されて、忍足は足が胸に付くほど折り曲げられ、鳳の眼前に思いきり秘部を晒す格好になった。
「ちょ、ちょっと、向日先輩…………」
さすがに顔を真っ赤にして、鳳が口ごもる。
「ほら、鳳、ちょっとやってみそ。何事も経験だからさ。宍戸が痛い思いしたら可哀想じゃん? その点、侑士なら広がってるから大丈夫だぜ?」
岳人はさらりとそう言うと、自分のロッカーの中から、チューブ状のジェルを取り出した。
「侑士、いいよな?」
「嫌やっ! なにすんねん!」
とか言ってみたが、ジローは細身のように見えて、実のところ腕の筋肉とかものすごく鍛えているのだ。(なにしろ、彼の得意技はボレーである。)
がんじがらめに拘束された体勢では、とてもその戒めから逃れることはできなかった。
「ほら、やってみ?」
岳人の嬉しそうな声と、
「そうですか?……じゃ、じゃぁ、すんません。………忍足先輩、やらせてもらいます」
という、鳳のおずおずした声を、忍足は脱力感とともに聞いていた。

















氷帝のアイドル忍足という設定ですv