「……なぁ、どうして浴衣着なくちゃならねぇんだよ?」
------そりゃあ、宍戸さんの色っぽい生足が見たいから。
……なんて、勿論声に出しては言えないので、オレは心の中でそう答えながら、宍戸さんの困ったような顔を眺めた。
相変わらず、なんて可愛いんだろうと感動しながら。
夏祭り 《1》
今日は夏祭りだ。
オレは宍戸さんと御神輿を見にいく約束を取り付けた。
いわゆるデートってやつだ。
前々から宍戸さんの好きなものをデータ収集して、意外に屋台のやきそばとかいか焼きとか、そういうものが好きだって事を知ってから、密かに一緒に行く機会を狙っていたんだ。
で、夏祭り。
オレの住んでる区は、生粋の江戸っ子と、後から引っ越してきた新住民が混在している。
相互の交流を図ろうっていうんで、ここ数年来、祭り等の行事が盛んなんだ。
今日の御神輿もその一つ。
神社に埃被っていた御輿を修理して担げるようにして、盛大に道路を練り歩くらしい。
屋台もいっぱい出るっていう話だ。
オレは、屋台の話をそれとなく宍戸さんにしてみた。
お好み焼きも美味しいんですよ、とか、やっぱり五平餅っスよね、とか。
醤油をこんがり焼いて、香ばしい匂いの立っている様子などを微に入り細に入り話したら、案の定、宍戸さんが行きたそうな顔をした。
「……行きませんか?」
と、そこですかさず誘うと、ちょっともったいつけていたけど、
「……まぁ、暇だし、いいか」
と言って、承諾してくれたっていうわけだ。
もっとも、宍戸さんは、デートだとは微塵も思ってないようだけどね。
ところで、オレは宍戸さんの浴衣姿が見たかった。
どうしても見てみたかった。
元々、女の人の浴衣姿とか、色っぽくてしっとりしていてステキだよなって思っていたから、それが最愛の宍戸さんだったりしたら、もう、鼻血モノだ。
だって、夏祭りっていったら、浴衣っスよね。
普通の服じゃ風情もないし。
せっかく夏なんだし。
宍戸さんが面倒くさそうに浴衣は嫌だと言ってきたので、オレは意気込んで反論した。
「宍戸さん、浴衣持ってないんですか?」
「……ああ?……いや、なんかおフクロが勝手に買ったやつあるけどよ」
「じゃあ、着なくっちゃ勿体ないですよ。お母さんがせっかく買ってくれたんでしょう? 祭りででもなくちゃ、着る機会ないですよ?」
「……そうか?」
「そうですよ。オレも浴衣なんで、大丈夫っスよ」
そう言ってにこにこして宍戸さんを見ると、宍戸さんは肩をすくめて、しょうがないな、という仕草をした。
「……分かったよ。じゃあ、おフクロに言ってみるよ」
「約束ですよ!」
宍戸さんの浴衣姿が見られる!
オレは嬉しくてぞくぞくした。
あ、実のところ、浴衣姿の宍戸さんを見るだけじゃなくて、浴衣の裾あたりから、そっと手を忍ばせて、宍戸さんの恥ずかしいところを触ってみたいとか、そういう欲望もあるんだけどね。
………どうかな、やらせてくれるかな?
考えると、ドキドキした。
宍戸さんとは、まだキスをしたっきりだ。
そのキスだって、何度もお願いして、やっと許してもらった。
宍戸さんって、ものすごく恥ずかしがり屋なんだ。
好きですって告白して、その後付き合って下さいって言って、面食らっている宍戸さんに強引に承諾させた。
宍戸さんの正レギュラー復帰にオレがすっごく貢献したから、その辺で押してみたら、義理堅い宍戸さんのこと、断るのは義理が立たないって思ったらしい。
……ま、宍戸さんらしいけどね。
オレ、きっと宍戸さんが断れないだろうと思って、わざと特訓の事とか口に出してみたんだ。
で、付き合えるようになって数回、やっとのことで軽いキスをした。
その度に、宍戸さんは顔を真っ赤にして、オレの腕の中から逃げてしまう。
そんなに初な反応されると、ますますオレ、やりたくなっちゃうんですけど。
でも、宍戸さんは、自分の仕草が無意識にオレを誘ってるなんて、思いもしないらしい。
そういう所がまた、たまらないんだけどね。
柔らかくって、ちょっとひんやりして、ほんのり甘い唇。
-----ああ、考えたら勃起してきちゃった。
オレって、ホント、身体は正直だから。
早く、宍戸さんと深い関係になりたい。
キスだけじゃ、物足りない。
宍戸さんにキスして、それから触って、愛撫して--------。
最後には、セックスしたい。
当然だよね、そう考えるの。
セックスの時の宍戸さんを想像するだけで、オレはもう何度も自家発電していた。
それもいい加減限界だ。
今日は夏祭りだし、宍戸さんだって、ちょっとは開放的な気分になるだろうし、浴衣だし。
浴衣って、太股まですぐに触れるし。
胸から手を入れるのも簡単だし。
今日は、宍戸さんの乳首とか、ペニスとか、触ってイかせてみたい。
そんな不埒な思惑で、オレの心は一杯になっていた。
ちょっと夏なのでこんな季節モノを。