夏祭り 《2》
「……うわぁ、宍戸さん、似合いますね!」
浴衣を着て、うきうきして宍戸さんの家に迎えに行くと、宍戸さんが恥ずかしげに中から出てきた。
濃い紺色の、格子模様の浴衣を着た宍戸さんに、オレはくらくらしてしまった。
中学生にしてはちょっと渋い色合いと模様が、宍戸さんのストイックさを強調していて、反対に、内部から滲み出る色気が増している。
-----あぁ、可愛い!!
つんつんと立った短髪とか、うなじとか、浴衣の合わせ目からほの見える、日に焼けた健康そうな胸とか。
歩く度に裾から見える、すらりとした脚とか。
「………ヘンじゃねえか?」
オレが押し黙っていたので不審に思ったのか、宍戸さんが不安げな声を出してきた。
「あ、いえ、………すっごく似合ってますよ!」
「……そうか? 長太郎のが似合ってねえか?」
褒められちゃった。
思わず頬が緩んで、オレはにやけてしまった。
「じゃ、じゃぁ、行きましょう」
とりあえず、宍戸さんを押すようにして、路地に出る。
出ると、既に夕方で、空は青色から紺色に変わるところだった。
通りの向こうからは、賑やかな囃子の音や人々のさんざめきが聞こえてきた。
祭りは、区の中心の神社で行われる。
神社を中心に御輿が練り歩いて、最後に神社に戻るってわけだ。
参道にあたる道路は歩行者天国になっており、道の左右にはさまざまな屋台が軒を連ねていた。
初めは浴衣で歩くことに戸惑っていた宍戸さんだったが、道行く人々とが結構浴衣を着ていることと、道路の左右に店を開いている屋台に興味が移ったようで、少し歩くと、いつものちょっと粋がってる宍戸さんに戻ってきた。
「なぁ長太郎、あれやんねえ?」
肩を並べて歩いて、オレが横目で宍戸さんのうなじとか襟の合わせ目とか見ながら悦んでいると、不意に宍戸さんが話しかけてきた。
「えっ、どれですか?」
宍戸さんが指さした方角を見ると、そこはヨーヨー釣り屋だった。
「そうですね、やりますか?」
そう言うと、宍戸さんが嬉しそうに笑った。
こういうの、好きなんだよね、宍戸さん。
いそいそとヨーヨー釣りの店に駆け寄って、店のおっちゃんから釣り具を受け取る宍戸さんを見ていると、オレも思わず顔が綻んでくる。
宍戸さんは、ヨーヨーを2つ釣り上げて、3つ目に挑戦したところで、釣り具が破れてしまった。
「……ちぇっ!!」
「いいじゃないですか、2つとれたんだし」
「俺、こういうの巧いんだぜ。この間は4つ取れたのにな……」
真面目に悔しがっているところが、本当に可愛い。
オレは思わず宍戸さんを抱き締めたくなってしまった。
------------我慢我慢。
周りにたくさん人がいるし、宍戸さんを警戒させちゃ駄目だ。
今日は-------今日はオレは宍戸さんともっと接近するつもりではあったが、『急いては事をし損じる』。
ここは慎重に、少しずつ宍戸さんを安心させていかないと。
「……ね、あれ食べましょう?」
オレは、宍戸さんが好物だと言う(これは忍足先輩から聞いた)大判焼きの店を指さした。
店に寄って、大判焼きを二つ買う。
実のところ、オレは甘い物はちょっと苦手なんだけど、でも宍戸さんと一緒に食べるなら、全然平気だ。
「アツッ……」
とか言いながら、宍戸さんが大判焼きにかぶりつく様を見て、おれはまた目尻が下がってしまった。
すっごく、可愛い。
ちょっと顰めた眉とか。
熱かったんだろうか、下唇を舌で舐めてる仕草とか。
そういうの見せられると、オレ我慢できないっスよ、宍戸さん。
そうやってオレのこと、誘ってるんですか?
ああ、…………触りたい!!
触るだけじゃなくて…………今日は、最後まで、行きたい!
宍戸さんの中に、…………入りたい!
恥ずかしがる宍戸さんの足を思いきり広げて、その中心に、オレのペニスを突き立てて、宍戸さんを泣かせてみたい!
「……おい、どうしたよ?」
「あ、す、すいません………」
不埒な妄想で呆けていたらしく、はっと気が付くと、宍戸さんがどうした、というような顔をしてオレを覗き込んでいた。
オレは慌てて笑顔を作った。それにしても。
なかなか、宍戸さんとの仲を進展させるきっかけを掴めない。
御神輿も見終わって、屋台で、大判焼きの他にたこ焼きとリンゴ飴も買って、射的で玩具を当てて、結構上機嫌な宍戸さんを尻目に、オレは小さく溜め息を吐いた。
宍戸さんが機嫌がいいのは嬉しいけど。
でも、オレはもっと、こう…………しっとりとした雰囲気にして、宍戸さんと………。
「長太郎、そろそろ帰っか?」
宍戸さんからそう切り出されたとき、オレは思わずがっくりと俯いてしまった。
「……どうしたよ?」
「い、いいえ、何でも無いっス……」
とは言っても、元気のないオレに、宍戸さんは不審に思ったようだった。
「疲れたのか?」
「あ………はい、そうです……………宍戸さん、あそこでちょっと休んでいきませんか?」
このままではどうしても帰りたくなくて、オレは道沿いの公園を指さした。
住宅街の一角の公園で、広い園内には常緑樹がたくさん植栽されており、ベンチや遊具が並んでいる。
お祭り帰りの人や、広場で花火を楽しんでいる子供たちが数人いた。
「そうだな、んじゃ、ちょっと寄ってくか」
もう、この公園を過ぎたら、宍戸さんの家に戻るしかない。
そう思うと、オレはどうしても、ここで宍戸さんとどうにかなりたかった。できるだけ人気のない端の、木に囲まれたベンチまで宍戸さんを連れていって、そこに座る。
「暗くねえか?」
木に遮られてあんまり光が届かないので、宍戸さんが不審気に言ってきたけど、暗い方をわざわざ選んで来たのだから、当然だ。
オレは疲れた振りをして、ベンチに座った。
「珍しいよな、長太郎が疲れるなんてよ……」
オレの隣に座りながら、宍戸さんが話しかけてきた。
「そうっスか?」
「ああ、だっておまえ、いっつも元気いっぱいじゃねえか?」
せっかくこうやって暗い所で二人きりでいるというのに、宍戸さんは全くオレの気持ちとか分かってないようだった。
普通、付き合っている者同士でこういうとこに来れば、何をするかって分かりそうなものなのに。
なのに、宍戸さんったら、オレが本当に疲れてるんだって思いこんでいる。
あーあ……………。
オレはなんだか腹が立ってきた。
今日は宍戸さんともっと親しくなるんだ、とか。
宍戸さんを抱き締めて、キスするんだ、とか。
いろいろと期待していただけに、反対に、ムカついてきた。
それというのも、宍戸さんが鈍感なせいだ。
オレがこんなに宍戸さんを好きだっていうのに…………。
-------全然、分かってない。
オレの事なんて、やっぱりちょっと仲のいい後輩、くらいにしか思ってないんじゃないだろうか。
キスだって…………あれだって、ちょっとした悪ふざけ、ぐらいで。
-----真剣に考えてくれてないんじゃないだろうか?
そう思ったら、猛然と腹が立ってきて、理性が働くよりも前にオレは行動を起こしてしまっていた。
つまり、宍戸さんを抱き締めて、ベンチへ押し倒してしまったのだ。
「ちょ、長太郎!」
熱く火照った身体の感触と、宍戸さんの甘い吐息を身近に感じて、オレは頭に血が上った。
「宍戸さんっ!!」
そのまま、浴衣の裾を乱暴に捲り上げて、中に手を突っ込む。
「な、なにすんだ!!」
宍戸さんが慌ててオレを押しのけようとしてきたけど、オレが本気になれば、宍戸さんはかなわない。
宍戸さんはオレより背が低いし、体格も華奢だからだ。
オレは宍戸さんの脚を太股まで撫で上げ、それから、トランクスの隙間から手を突っ込んで、宍戸さんのペニスを直にぎゅっと握りあげた。
「…うわっっ!!」
宍戸さんが裏返った声をあげた。
「よ、よせって、……長太郎!」
宍戸さんのソレはまだ柔らかかったけれど、熱くて、握るとほど良い弾力があって、オレは我を忘れた。
ドクン、と熱いうねりが身体の中を駆けめぐる。
オレ、いま宍戸さんのを掴んでるんだ………!!
そう思ったら、感激と興奮で目が霞んだ。
そのまま、根元から先端まできゅっきゅっと扱くと、宍戸さんが呻き声を上げながら、オレの腕を掴んできた。
「離せったら、長太郎!」
「いやです!」
「長太郎?」
「オレ、もう我慢できません、宍戸さんっ!……宍戸さんを抱かせて下さい!」
暴走チョタ