誕生日 
《2》













で、今日は9月28日。土曜日だ。
明日は俺の誕生日だ。
日曜日に泊まると次の日学校に行けなくなっちまうからって、俺は前の日に泊まることにした。
まぁ、前の日ったって、泊まってるんだから、誕生日には長太郎と一緒ってわけだ。
一応お泊まりの用意なんか持参して、俺は夕方、迎えに来た長太郎と一緒に電車に乗った。
長太郎の家は、俺の家からは電車で10分ぐらいの、閑静な高級住宅街にある。
広い洒落た塀が巡らされた広い敷地に、チューダー調のシックな邸宅が立っている。
周りの家々もみんな雰囲気が似ていて、綺麗に舗装された歩道には、値段の高そうな犬を連れて散歩している女の人なんかがいる。
俺はちょっと気後れしてしまった。
俺んちは、氷帝学園の中じゃ庶民なんだ。
クラスの友達にもそんなに金持ちはいねえし、まぁ、跡部んち行った時も度肝を抜かれたが、長太郎の家も結構凄かった。
「どうぞ」
にこにこしながら招かれて、俺は恐る恐る家の中に入った。
内部もシックで、イギリス調っていうのか、家具がみんな落ち着いた色合いで重厚だった。
長太郎の部屋の中は、長太郎らしく明るくてちょっとほっとしたけど、でもやっぱり広い。
俺の部屋の3倍はあるな。
俺の部屋は、建て売り住宅の2階の6畳だ。
一応洋室だけど、クローゼットとは名ばかりの実質押入とかあったりして、そこはかとなくダサい。
それに比べると、長太郎の部屋は完璧に洋室で、高そうな家具と、シンプルだけど大きなベッドがどんと鎮座していた。
壁には油絵とか掛かっているし、なんか、俺の部屋とは違う。
「今日は、誕生日のお祝いをしましょうね、宍戸さん」
俺を部屋に案内すると、長太郎が機嫌良さそうに笑いかけてきた。
「食事、ここで食べましょう。俺運んできますから、待ってて下さい」
なんか、ホテルのルームサービスみてえじゃん。
俺がぼんやりしていると、長太郎はそのまま出ていって、すぐに本当にホテルみたいに、食事の載せられたカートを押して戻ってきた。
「………どうしたんだよ、これ?」
「あ、これ、頼んでおいたんです、配達」
飲み物からオードブル、ステーキまでほかほか湯気が立って載せられていて、俺は呆気に取られた。
「温かいうちに食べましょう」
部屋にある洒落た二人用のテーブルに、長太郎が皿を手際よく並べていく。
ぼけっと見ているうちに、あっという間に食卓の用意が調った。
「………宍戸さん?」
「あ、ああ……」
どぎまぎして椅子に座ると、長太郎がにっこり微笑んできた。
「……はい、どうぞ!」
「……おい、酒じゃねえのか?」
洒落たグラスに、紅く透き通った液体が注がれる。
「ワインなんですけど、度数あまり高くないですから……」
長太郎って、いっつもこういうの飲んでるのかな?
俺は………うちで日本酒とかたまにこっそり飲んだりするけど、でもワインとか飲んだ事ねえ。
押し黙って、グラスに綺麗な紅い液体が注がれるのを見る。
「お誕生日、おめでとうございます!」
カチン、とグラスをくっつけあって、それから俺はどきどきしてそれを少し飲んでみた。
(………ニガ!)
でも、後味はほんのり甘くて、舌がすうっと冷たくとろけるような感じだ。
冷たいワインが喉越しに心地良く、俺は長太郎をちらちらと窺いながらグラスを傾けた。
「飲みやすいでしょう?」
「ああ、そだな………」
初めて飲んだけど、結構うまいや。
ちょっと飲んだら空腹なのに気が付いて、俺は早速オードブルやらステーキやらを食べ出した。
順番がいい加減だけど、一緒にテーブルに載ってるから、かまわねえだろな。
俺んちは和食が多いんで、こういうのを食べるのは久しぶりだった。
ステーキとか大好きなんだけど、なかなか食べる機会がなかったから、これ幸いと俺は肉にむしゃぶりついた。
程良く柔らかくて、ジューシーですっげえ美味い。
ホントに肉の味がするし。
長太郎っていっつもこんなの喰ってるのかな?
いや、今日は俺の誕生日だから、特別かな?
それにしても高そうだよな、このメニュー。
俺奢ってもらっちゃってるよな。悪いな。
「そう言えば、おまえんとこの家の人に挨拶してねえよ。してこないとな」
高そうという連想から、お金を出してるのは家の人だろうと思って、俺は慌てた。
長太郎の家に来るなり部屋に入っちまったから、まだ家の人の誰とも会ってないんだ。
勝手に上がりこんで勝手に食事してる奴なんて、すげえ礼儀知らずじゃねえか。
長太郎の家の人に常識知らずとか思われたら嫌だし。
「あ、今日はうち、両親いないんです」
ところが長太郎はさらっと言ってきた。
「……あ?じゃあ、これは……?」
「配達してもらったし、家政婦さんが用意してくれたんです」
長太郎はにこにこして、何でもない事のように言う。
おいおい、跡部んちだけじゃなくて、長太郎んちにも家政婦さんいるのかよ。
まぁ、家の雰囲気からして、いそうだなとは思ったけど。
「両親旅行中なんですよ。だから、夜は宍戸さんと俺と二人きりです………」
長太郎が何気なく言ってきた。
俺はどき、としてフォークが止まった。
食事に夢中になってて忘れてたけど、そう言えば俺は………今日は長太郎とセックスする約束だったんだ。
(………………)
突然どきどきして、俺はフォークを取り落としそうになった。
------どうしよう。
急に怖くなってきた。
だって、誰もいねえんだろ?
って事は、夜中っていうかずうっと俺、長太郎と一緒で、二人きりで………んで、長太郎が俺の事………だ、抱くんだろ?
-----------考えられねえ!
やっぱ駄目だ!
だって俺、男だし。
男同士って尻の穴使うんじゃねえか。
そんなトコ見せられねえ!
………って、違う、そんな問題じゃねえよ。
そうじゃなくて、…………長太郎とやるって事が…………怖いよ。
「宍戸さん………」・
俺がいろいろパニクってるのが分かったのか、長太郎が低い声で囁いてきた。
「今日はあなたのこと、抱かせてもらいますからね」
---------ドクン!
今度こそ、本当に心臓が跳ね上がった。
や、やっぱ、恥ずかしい…………信じられねえ……!
「ぼっちゃま、ケーキでございます」
その時ドアがあいて、家政婦さんだろうか、中年の女性が入ってきた。
「あ、ありがとう!」
ぱっと表情を明るくして、長太郎が言う。
「宍戸さん、誕生日のケーキですよ」
「お誕生日おめでとうございます。ぼっちゃまと仲良くしてやってくださいね」
家政婦さんににこにこと笑いかけられて、俺はどぎまぎして頭を下げた。
人の良い、明るい家政婦さんの出現で、俺はこっそり胸を撫で下ろした。














蝋燭の火を吹いて消し、家政婦さんがケーキを取り分けてくれて、美味しい紅茶とともにそのケーキを食べる。
きっと、いいとこのケーキ屋さんから買ってきたんだろう。
ケーキは甘ったるくなくてふわふわで、すごく美味しかった。
甘い物が苦手な俺でも、いくらでも食べられちゃうような感じだ。
ケーキ自体もあんまり家では食えない俺は、美味いケーキについついがっついてしまった。
思う存分食って満足して、家政婦さんが食器を下げに来て、それから長太郎に勧められて風呂に入って……。
全部済んじまった。
一応持参のパジャマ代わりのTシャツとハーフパンツを着て、俺は所在なくテレビを見ていた。
長太郎が風呂に行ってるので、部屋には俺一人だった。
…………どうする?
どうするって言ったって、ここまで来たからには、後は長太郎と寝るしかねえ。
…………でも、ホントにするのかよ!
準備万端になっているのに、俺はまだ迷っていた。
迷っているというか、………やっぱり、信じられねえ。
そりゃ、長太郎とはキスもしたし、……キスされて感じちまったけど。
-------別に、今日じゃなくても良くねえか?
まださ、俺、決心ついてねえし。
俺がもっと覚悟決めるまで、待っててもらえねえかな。
別に、長太郎のこと嫌ってるわけじゃねえんだし。
なぁ、…………今日じゃなくても、いいよな?
「宍戸さん、お待たせしました」
俺がそんな逃げ腰な事を考えていたとき、風呂から上がった長太郎が入ってきた。
「あ、ああ………」
慌てて振り向いて、俺はどきっと胸が鳴った。
長太郎が、真剣な表情で俺を見つめてきたからだ。
食い付くような視線で。
まるで俺を虎視眈々と狙っている、獣のような目で。
……………怖え…………。
一瞬怖じ気づいた俺の気持ちが読みとれたのか、長太郎は黙ったままいきなり俺に近付いてきた。
「宍戸さん、もうすぐ12時ですよ。………日付が代わる時には、あなたの中に入っていたい………」


















宍戸がオトメ過ぎっ!