忍足の災難−出会い篇− 
《2》












「おしたりぃ……!」
今日もジローがべたついてきた。
部活後疲れた身体をソファで休めていたら、忍足の後を追ってジローがやってきたのだ。
ジローは元々、部活にはそんなに熱心に出ていなかったらしい。
氷帝テニス部は、レギュラーはかなり自由(と自己責任)があるので、休んでも注意されない。
それで実力が落ちれば、自分の責任という事になっている。
ジローは天性の才能と、集中力がすごい。
欠点は、大方の時間寝ぼけているという事である。
部活に来ても、よく正レギュラー用の部室でソファに転がって寝ていることが多い。
そんなジローが、忍足が転校してきてテニス部の練習に加わってから、覚醒していることが多くなった。
練習にもまじめに顔を出すし、ちゃんと起きて活発に活動している。
「忍足、よっぽど気に入られてんのな?」
と、あまり話さない宍戸にまで言われるほど、傍目からも分かるらしい。
「忍足、あんまり甘やかさない方がいいよ?」
と、滝にも言われた。
「……そか?」
忍足は、そう言うときは苦笑いすることにしている。
いろいろ忠告されても、忍足はジローにつれない態度を取ることは出来なかった。
まだ転校してきて間もない自分を、クラスでも部活でも、難なく溶け込ませてくれたのがジローなので、忍足はジローには感謝していたのだ。
今でも何かと勝手の分からない自分を助けてくれる。
こんなに親切にしてもろたこと、今まであらへんし………。
自分のどこが気に入ったのか分からないが、でもジローがいてくれて良かった。
そんな風に思っていたのだ。
-----だから。
ジローがやたらスキンシップを求めてくるタイプなのには少々閉口していたが、まぁ、きっといわゆる外国風なんだろうとか、軽く思っていたのだ。














------が……。
忍足が転校してきて3ヶ月、すっかり学校にも慣れてきた頃、ジローは本性を現したのである。
「えへへっ、忍足って、気持ちいい……」
「…な、なんや、ジロー!」
ある日の放課後、突然部室で、ジローが忍足をソファに押し倒してきた。
「なにって………ね?」
「………………?」
いつものようにべたべたしたいのかと思って、忍足はジローに圧し掛かられたままじっとしていた。
ジローは部活が終わったあと、よくこうして自分にべたべたしてくる。
大抵は向日がいて、なぜかジローと自分の取り合いになるのだが、忍足はそれまで、きっとジローや向日は自分を兄のように思って甘えているのだろうと思っていた。
どちらも、いかにも甘えっ子の弟、という雰囲気があったからだ。
対する忍足は、これまで転校や引っ越しを重ねていろいろと苦労してきたせいで、年より大人びて見える事を自覚している。
他人にわがままを言ったり、感情を露にすることも控えるようになっている。
だから、ジローや向日みたいに、天真爛漫に他人に甘えることの出来るような性格を、ちょっと羨ましいとも思っていたのだった。
ところが……。
「あ……っジロー!」
身体の上に圧し掛かっていたジローが、突然自分の唇を覆ってきたのだ。
「んっ…………!」
びっくりして抵抗もできないでいると、ジローは、それまでのちょっとぼんやりしたような外見とは裏腹に、力強く自分を抱き締め、しかも大人がするような、熱烈なキスをしてきた。
男とキスするのは、初めてだった。
忍足は外見が大人びて見えるから、年の割にはある程度異性との交際を経験している。
たいていは年上の女性で、遊びの延長のような、軽い身体だけの付き合いだったが、それなりに経験もこなしていたし、キスも何回もしていた。
だから、これがファーストキスというわけでもないが…………しかし、相手がジローとなると話は別である。
「ジ、ジロー!」
しかも、ジローは深く口付けて忍足の口腔内を思うさま味わったかと思うと、今度はまだ着替えていなかった忍足のシャツをたくしあげて、乳首に吸いついてきたのだ。
更に、右手を下ろして、いつのまにか忍足の短パンの中に手を突っ込んで、信じられないことに、直に下半身を握り込んできている。
「な、にしとんのや、ジロー!」
「えっへへ、忍足、でっかいね!」
思い切り掴んで扱かれて、そこはあっという間に大きくなってしまった。
男の生理的現象だからどうしようもないのだが、忍足は狼狽した。
「バカな事せんと……!」
「バカな事じゃないもんね! 俺、今日は忍足を食べようと思ってるんだもんね」
「………はぁ?」
忍足は一瞬、ジローの言っている意味が分からなかった。
「あれ? 忍足って、結構ウブ?」
ジローが悪戯っ子のように目を輝かせる。
「忍足のぉ、ここ、もらおうと思ってるの!」
そう言って、ジローが指でつんつんとつついてきたのは、
「……な、なんやて!」
まさか、信じたくはないが、………忍足の肛門だった。
「こっち、使ったことある?」
「………あるわけあらへんやろ!」
「そっか!やった-------! じゃ、忍足の最初のオトコって事?」
「き、喜色悪いこと言うなや!」
背中一面に鳥肌が立った。
忍足は渾身の力を込めて、ジローを突き飛ばそうとした。
「だーめ!」
ジローが、笑いながら忍足をぐっとソファに押し付けてきた。
忍足の方が体格がいいにも関わらず、狼狽しているという事と、ジローは腕の力が並外れて強いせいか、なかなかジローを押しのけることが出来ない。
それでも、なんとか少しずつ力勝負でジローを押しのけつつあったとき、
「あ、あれ? なにしてんだよ!」
突然、ドアが開いて、向日が怒鳴りながら入ってきた。
「あ、ガクトっ、いいとこにきたっ! ちょっと忍足押さえるの手伝ってよ!」
「なにやってんだよ、ジロー!」
「これから忍足を犯すとこ………てへ!」
ジローが笑う。
「でも、忍足ったらなかなかヤらせてくれねえんだ。ガクト、一緒にやらねえ?」
「ガ、ガクトっ、ジローなんとかしてや!」
天の助けとばかりに、忍足は向日に向かって叫んだ。
向日がつかつかと近寄ってくる。
「俺が最初ならいいぜ、ジロー」
……………は?
「えっ、ガクトが最初---?」
「いやなのか?」
「……しょうがないか。分かった、いいよ。じゃあ、ガクトが一番な、俺二番ね!」
「よし、商談成立! でも侑士がえらく抵抗してるじゃないかよ?」
「そうなんだよね----! もう、大変で! 縛っちゃおうぜ!」
「俺、縄持ってくる!」
呆気に取られているうちに、ガクトがロッカーからロープを取り出してきた。
「ガ、ガクト………」
まさかガクトがジローに協力するとは思わなかったので、愕然として抵抗も忘れているうちに、忍足は服を剥かれ全裸にされた上に、上半身をぎちぎちにロープで巻かれてしまったのだった。

















忍足君危機一髪っていうかもう遅いか(笑)