磊塊-rai-kai- 《1》
「あ……ああ……う……ッッ」
背後から思い切り突き上げられて、跡部は指が白くなるほど力を込めて窓枠を掴んだ。
快感に霞む目に、部室の窓の下の何面もあるテニスコートが揺れて映る。
夕方でぼんやりと宵闇が忍び寄ってきたテニスコートは、部活が終わってかなり経つせいか、もう誰もいなかったが、その中でも部室に一番近いテニスコートに、ボールを打ちあう影が二つ見えた。
「何、外なんか気にしてるんや?」
さっきから、跡部の腰を掴んで後ろから彼を貫いている忍足が、声を掛けてきた。
「誰かいるんか?」
「ああ……宍戸と……鳳……ッ」
揺さぶられながら、跡部は喘ぎの混じった返答をした。
跡部と忍足は、部員達がみな帰った部室でセックスとしている最中だった。
跡部がコートの最終確認をし、樺地と共に正レギュラー用の部屋に戻ってきたところ、先に上がっていた忍足が、跡部を待っていたのだ。
「よぉ………」
跡部が部室のドアを開けて中に入ると、忍足が右手をちょっと挙げてにやりと笑った。
「ちょっと残ってかへん?」
というのは忍足の合図で、セックスをしていかないかという事だった。
そう言えばここのところ忍足とご無沙汰だったな、と思い起こして、跡部は頷いた。
「樺地、今日は先に帰れ」
樺地が頷いて部屋を出る。
忍足がにやにやしながら跡部を抱き寄せ、慣れた様子で跡部の唇を塞いできた。
跡部は忍足の口付けを受けながら、身体の力を抜いた。跡部にとってセックス、特に男とのセックスは珍しいことではない。
元々モラルの低い環境で育ったせいか、異性との初体験も早かったし、テニス部に入部してからも、少女のような外見の跡部に恋をするテニス部の上級生たちと、節操無く関係を持っていた。
上級生が卒業していくと、同級生、更には下級生が跡部の寝る相手となった。
現在は、跡部は3年でテニス部の部長だから、誰もが跡部に憧れていると言っても過言ではない。
テニス部に入部した頃は相手が跡部を誘ってきたが、現在は恐れ多いのか、向こうからは迫ってこず、もっぱら跡部が気に入った相手を選ぶような形になっていた。
現在跡部が継続的に寝ているのは、忍足である。
その他一度でも寝たことのある人間は、正レギュラーでは滝、宍戸、向日、芥川、日吉だった。
跡部は誰彼構わず寝ていたが、好きだの惚れただのという面倒くさい事は嫌いだったから、後腐れ無く寝られる相手が気に入っている。
忍足は、その中でも特に気軽に誘える相手である。
忍足自身も気が向けば誘ってくるし、現に今日は忍足が誘ってきた。
いつものようにジャージの下だけ脱いで忍足を待つと、忍足が手慣れた様子でバッグからコンドームとジェルを取り出した。
「そこに、手ぇついてみ?」
忍足は後背位が好きで、跡部も特にそれに対して異を唱えるわけでもなかったから、大人しく忍足の言うがままに、窓枠に手をついた。
忍足が、跡部の背後から、跡部の性器を左手で扱きつつ、後孔にジェルを塗りつけてくる。
「最近誰かとヤったんか?」
「なんだよ、気になるのか?」
「別に……あんまり最近は派手な行状聞かんからなァ……」
振り返って忍足を見ると、忍足がにやにやしていて跡部はちっと舌打ちした。
「能書きはいいから、早くやれよ」
忍足の指が内部を掻き回す感覚に腰がじんじんと痺れて、我慢ができなくなる。
跡部がそう言うと、忍足が肩を竦めて手早く自分の性器にコンドームを装着すると、跡部の腰を抱えて後ろから挿入してきた。
「ぅ…………ッ!」
覚えのある快感がずしんと頭の先まで突き上げてきて跡部は喉を仰け反らせて呻いた。
「ほら、しっかりつかまっててや?」
そう言うと忍足が、跡部の身体を揺さぶりながら抽送を始める。
「あ……あ……ッッ!」
微妙に角度を変えて内部を抉ってくる忍足の性器に、跡部はたちまち脳が蕩けた。
忍足と跡部は、セックスの相性がいい。
それが、続いている理由の一つにもなっている。
「侑士……ッッ!」
快感のままに甘い声をあげると、忍足が応えて更に突き上げを激しくしてくる。そんな時に跡部は、窓の下の二人を見付けたのだ。
「鳳と宍戸か……」
忍足が跡部を揺さぶりながら言ってきた。
「熱心やな。宍戸のヤツ、レギュラー落ちしてからえらい心入れ替えたんやないか?」
忍足が感心したように言う。
「それにしても、鳳も健気やなァ」
「……鳳が?」
「そうや。知っとるか、景吾。鳳、宍戸のこと好きなんやて?」
それは跡部のあずかり知らぬ事だったので、跡部は眉を寄せて不審げに忍足を見た。
「鳳が?」
「そうや。景吾、おまえ、鳳はまだ食ったことないやろ? あいつ、一途やからな」
そう言えば………。
跡部は宍戸とは何回か寝たことがあるが、鳳とは一度もなかった。
たいていの場合、跡部が部員と関係を持つようになるには、相手が跡部になんらかの性的関心を寄せてくるという前提がある。
跡部に関心のない部員に対しては、跡部は自分の方から誘ったりはしない。
それは、例えば跡部が今一番側に置いている樺地がそうだった。
他の部員は何らか跡部に対して性的関心を寄せていて、それが感じられるからこそ跡部は自分とやらないか、と誘うのである。
考えてみると鳳は、自分に対して全くそういう関心を寄せてこなかった。
だから自分も鳳を、そういう対象として見たことはなかった。
「鳳なぁ、穴戸がレギュラー落ちしたとき、自分の方から一緒に練習しましょうって言ったらしいで?」
抜き差しを繰り返しながら、忍足が言ってきた。
「がっくりしている穴戸をな、優しく慰めてやったんやて。鳳は穴戸のことしか目に入ら
んからな。純愛やで、偉いな」
本当にそう思っているのかどうか分からないが、忍足が感心したような口調で言った。
「何としても、穴戸にレギュラーに戻ってきて欲しいんやろうな。愛する穴戸先輩のためってか?」
「……おい、集中しろよ」
忍足が珍しくべらべらしゃべるのが妙に頭に来て、跡部は振り返って忍足を睨んだ。
「おや、景吾ちゃん、ご機嫌斜めやな。悪い悪い……」
忍足がくすくすと笑いながら、跡部の腰を掴み直すと、
「ほな、真剣にやるわ」
と言って、激しく抽送を始めた。
「う………んッッ……もっと………ッッッ」
窓枠ががたがたと言って、跡部は目を閉じた。
目を閉じて、頭を窓枠に押し付ける。
痺れるような快感が腰全体から広がって、うねるように脳天まで突き上げてくる。
「は……あ……ん……ッッッ!」
閉じた目の裏に、コートの様子が浮かんだ。
熱心に二人だけで練習をしている、鳳と穴戸の姿。
跡部は頭を振って、忍足を飲み込むように腰を突き出した。
ちょっと跡部を意地悪系?にしてみました。