love affair 
《4》













どうやらその日は、オレはそのまま寝てしまったらしかった。
ふと目を覚ますと、オレは忍足のベッドで寝ていて、隣に忍足がぐっすりと寝ていた。
目を開けてしばし呆けて、それから周りを見回すと、ブラインドの隙間から、明るい朝の光が細い筋になって流れ込んできていた。
朝なんだ……………。
まだ霞の掛かっている頭でそう思って、それからオレは自分がちゃんとパジャマを着ていて、身体も綺麗になっている事に気が付いた。
確か、昨日セックスしたときは、自分の出した精液とか、忍足のやつとか、汗とか、そういうので結構べたべたになっていたはずだった。
終わった後、忍足もべたべたで、べとついた身体同士で抱き合ってるのもすごく気持ちが良かったのを覚えている。
その後の記憶がないから、きっと抱き合っているうちに寝ちゃったんだろうな。
オレが寝た後、忍足君が後始末してくれたんだな。
パジャマまで着せてくれたんだ……。
「忍足君………」
心が温かくなって、オレはそっと忍足の名前を呟きながら、オレの方を向いて眠っている忍足の顔をじっと覗きこんだ。
間近で見ると、一層端正さが際立っていた。
形の良い、男らしい眉。
長くて黒い睫毛。
細くて高い鼻。
赤い唇。
「………………」
なんとなく胸が詰まって、オレはそぉっと忍足の腕の中に入り込んだ。
忍足の胸に、自分の顔を押しつけるようにして、忍足の背中に手を回す。
トクントクン…………と規則正しい彼の鼓動が耳に響いてきた。
優しくて、いい人だよな。
それにエッチもうまいし。
オレのこと、好きだって言ってきてくれるし。
こんな素敵な恋人が居たら、幸せだよな…………。
その時、オレは心からそう思った。
--------でも。
オレは悲しくなって、忍足にしがみついた。
でも、オレ…………。
忍足がすごく優しくしてくれるのが、辛かった。
だって、やっぱり、…………オレ、跡部が好きなんだ。
こうして優しく愛してもらっているのに、頭の片隅には、いつも跡部がいる。
跡部に会いたい。
ひどくされていもいいから、彼と…………したい。
そう思っちゃうんだ。
------ごめんね、忍足君。
オレも、キミみたいな素敵な人を好きになれたら、幸せになれたのに。
オレって、バカだよな………。
どうして、こんなステキな人じゃなくて、跡部なんだろう。
忍足君が恋人だったら、絶対オレ、幸せになれるのに。
オレは切なくなって、目を瞬いた。
「ん………」
その時、忍足が身じろぎをして、薄く目を開いた。
「………キヨ……」
目の前にオレが居るのが分かって、忍足が微笑む。
「おはよう……」
ちゅ、と頬に優しくキスされて、オレはどっと涙が溢れてきてしまった。
「……なんや、どうしたん?」
忍足がオレの頬に流れた涙をそっと舐め取ってきた。
「なんで、泣くん?……いややったの?」
「違うよ………気持ちよくて、嬉しかったよ……」
「……ほんま?」
忍足が嬉しそうに囁いた。
オレは涙で曇った目を瞬いて、忍足を見た。
「ごめんね……」
「………なんで?」
「だって、オレ………オレさ………」
----跡部じゃなくちゃ、駄目なんだ………。
そう言おうとして、オレは言葉が詰まった。
こんなに優しい彼に、そういう残酷な事を言うなんて、できない。
でも、言わないと、忍足が誤解してしまう。
ちゃんと、言わなきゃ。
「あのね、オレ………」
「……ええよ、言わんでも……」
その時、忍足が寂しげに笑いかけてきた。
「分かっとる、キヨの気持ちは。跡部のことが好きなんやろ?」
「……忍足君……」
「キヨは優しい子やから、俺に気ぃつこうてくれてるんやね?……ええ子やね、キヨ……」
忍足に優しく頭を撫でられて、オレはどうしようもなく悲しくなって、忍足の胸に顔を埋めて泣き出した。
「ご、ごめんね、ごめんね……」
「ええったら……俺のことは気にせんで…………な?」
どうして、こんな優しい人のこと、好きになれないんだろう。
どうして、オレを平気で別の男にやらせるような、そんな酷いヤツのこと、好きになっちゃったんだろう。
「跡部と、うまくいくとええね……」
そんな風に言ってくれる忍足がいじらしくて、オレは更に涙が溢れた。














忍足とは、その後、朝食を食べて別れた。
別れ際に、忍足は、
「悩みとかあったら、気軽に相談してや? それからなぁ、たまには俺ともデートして? そのくらい、ええやろ?」
そっと肩を抱かれてそう言われた。
オレが、
「うん」
と頷くと、忍足はオレの顎をそっと持ち上げて、触れるぐらいのキスをしてきた。
「キヨの事、いつも考えとるから。……俺、ずうっとキヨのこと、好きやからね……」
「忍足君……」
忍足が無理して笑っているのが分かって、オレは胸が疼いた。
「……さよなら」
そう言って、忍足の家を出る。
午前の太陽の光が、柔らかくオレに降り注いでいたけれど、オレは俯いて地面ばかり見ていた。
----------プルルルル。
その時、測ったように、オレの携帯が鳴り出した。
取り出して表示部分を見ると『跡部景吾』と文字が出ていた。
心臓が、ドキン、と跳ね上がった。
「……はい………」
恐る恐る出ると、
「おい千石、今日暇か?」
遠慮のない言い方で、跡部の声が聞こえてきた。
「う、うん、暇だけど」
「よし、じゃ、今から1時間後に、××の前で待ってろ」
「……え?」
「いいな」
「あの、どっか行くの?」
「……ああ? うるせえな、映画見るんだよ、いいな」
ツーツ−。
あっという間に電話は切れてしまった。
××は、若者スポットとして有名な雑居ビルで、ビルの最上階が映画館になっていた。
同時に5本上映できて、結構いつも賑わっているところだ。
今から1時間後といったら、すぐに家に戻って着替えないと、間に合わない。
まさか、このまま、昨日のままの制服で行くわけには行かなかった。
制服には忍足の匂いとか移っていたし、それにオレの身体も忍足に抱かれたままだったからだ。
忍足と別れたばかりなのに、もう、跡部と?
いや、今日は映画だし。
なんか、普通のデートみたいだ。
そう思うと、オレはわくわくしてしまった。
忍足に、辛い思いさせたばかりなのに。
でも、跡部と会えると思うと、嬉しい。
なんて現金なんだろう。
(忍足君、ごめんね………)
オレは電話をしまうと、その場から駆け出した。

















忍足の方がいいのに……