love affair 《6》
喫茶店は、映画館の向かいに何軒かあって、俺達が入ったのは、その中でもよく言うと落ち着いた、悪く言うと薄暗い、大人な感じのする所だった。
奥の席に跡部が座る。
オレはどうしたらいいものか、ちょっと悩んだ。
お姉さん方は、跡部と話したいようだし。
オレ、ちょっと邪魔者って感じだったから。
オレは跡部の隣に浅く腰掛けて、地味に畏まっていることにした。
「……ね、何がいい?」
お姉さんの一人が跡部に話しかける。
「千石、どうする?」
突然話を振られて、オレは困った。
「あ、すいません、……オレたち、なんでもいいです。……コーヒーとか、……あ、ケーキセットとかでもいいかな?」
オレはへらへら笑いながら、お姉さん方に愛想良く返事した。
「じゃ、セットでいい?」
お姉さんの一人が返答したオレじゃなく、跡部に向かって言った。
あーあ………なんか、ちょっと、むかつくかも。
別に、跡部がモテるのをひがんでる訳じゃないけど、でもさすがに……オレだって男だからね。
跡部君がいなければ、オレのほう向いてくれるのにな。
顔じゃ絶対勝てないもんね、跡部君には。
なんて思いながら、運ばれてきたケーキをつつく。
跡部は、……誘われたくせに、あんまり楽しそうじゃなかった。
しらっとした雰囲気で、ケーキを横目で見て、コーヒーを飲んでいる。
向かいのお姉さんたちの熱い視線を受け流して、見られるのが当然っていう感じで、長い睫毛を伏せたり、形の良い唇をちょっと開けたり。
仕草一つ一つに、お姉さん方がうっとりしているのが分かる。
跡部君、綺麗だもんね。
お姉さんの気持ちも分かるよな。
--------でもさ。
跡部君ってすっごく冷たいんだよ。
平気で酷いこと言うし、今日の映画のチケットだって、跡部君の事好きな女の子から取り上げたんだよ。
そういうやつなんだよね、跡部君ってさ。
なのに、オレったら…………。
つい溜め息が出そうになって、オレは慌てて息を飲み込んだ。
ケーキをガツガツ食べながら、意味もなくお姉さん方に話しかける。
跡部をうっとりとして見ていたお姉さん方も、跡部があまりにも無愛想なんで、困ったらしい。
オレの方を見て話してきた。
「今日の映画は、やっぱり最後が良かったですよね!」
最後なんてあんまりよく見ていなかったくせに、オレはそんなことをにこにこしながら話していた。
「……そう思う? 最後感動して、私涙出ちゃったのよね〜」
お姉さんの一人が話に乗ってきた。
オレの向かいに座っているお姉さんだ。
彼女は、ちょっとぽっちゃり型だけど、胸が大きくて、盛り上がった胸元が色っぽい。
それに色が白くて、シャネルのピアスが結構似合っていた。
「あら、そう? 私は最後でちょっとがっかりしちゃった」
隣のお姉さんも話に加わってきた。
「だって、すっごくパターンじゃない?」
まぁ、この手の映画はみんなパターン決まってるんだって。
とオレは内心思いながら、お姉さんに合わせて笑っていた。
「千石、帰るぞ」
と、突然、跡部が立ち上がった。
「……え?」
お姉さん方が呆気に取られる。
跡部は、お姉さん方を一顧だにせず、つい、と通路を擦りぬけて、あっという間に喫茶店の外に出てしまった。
「あ、あれ?……ご、ごめんなさいっ! じゃ、失礼しま〜す!」
跡部の姿がどんどん小さくなるのに慌てて、オレはガタン、と椅子を鳴らして立ち上がると、呆然としているお姉さん方に謝って、喫茶店を飛び出した。跡部は、エレベータに乗ろうとしているところだった。
ぎりぎりで追いついて、オレは閉まろうとするエレベータに乗り込んだ。
エレベータにはオレと跡部の二人だけしか乗っていなかった。
もしかして、オレが追いつかなかったら、跡部君、一人で帰っちゃう所だったんだろうか。
オレにお姉さん方の相手させて、勝手に帰っちゃうわけ?
それも酷いよ。
オレは壁に凭れてはぁと息を吐いた。
と、突然、オレは胸ぐらを強く掴まれた。
「あ、跡部………くん?」
跡部がオレを壁に押し付けて、睨んできた。
と思う間もなく、跡部の顔が近付いてきて、噛み付くように口付けされてオレは瞠目した。
跡部の舌が、乱暴にオレの中に入ってくる。
熱くて、ほんの少し、コーヒーの香りがした。
舌を絡められ、激しく吸われて、オレは眩暈がした。
こんな激しいキス、されたことがなかった。
目を開いたままだったので、跡部君の白くて滑らかな肌とか、長くて艶やかな睫毛とか、吸い込まれそうな灰青色の瞳とか、そういうものをぼんやりと至近距離で見て、ぞくぞくっと背筋が粟立った。
跡部の息づかいとか、くちゅ、という濡れた音に、かぁっとなる。
「……あ……ッん……ッッ」
跡部の右手がオレの股間を掴んできた。
力一杯握られて、痛みと共に脳天までずきん、と快感が突き抜ける。
あっという間に大きくなったペニスを、形をなぞるように扱かれ、先端を指先できつく絞られる。
「……あとべ……くんッ!」
たまらなくなってオレは呻きながら跡部にすがりついた。
すると跡部は唐突に離れた。
(………え?)
-----シュン。
エレベータの扉が開いた。
オレははっとして、乱れた着衣を直した。
「……バーカ」
跡部がくすっと笑った。
「行くぞ」
そう言って、さっさとエレベータから出ていく。
慌てて後に続くと、エレベータには、オレ達の代わりに1階から乗り込む人たちがどっと入っていった。
ちょっとすねた跡部君v