love affair 
《7》













「ちょっと待ってよっ」
すいすいと路上の人混みを掻き分けるようにして、跡部が歩いていく。
街はお昼過ぎで、オレぐらいの中学生から大人まで雑多な人々で溢れていた。
今日は休日だから、特に人が多い。
楽しそうに笑いながら連れだって歩くカップルとか、きょろきょろしながら歩いている三人連れとか、いろいろな人を追い越して、オレは跡部にやっとの事で追いついた。
「ね、どうしたの、さっき?……突然出てっちゃったりして……向こうに悪いじゃない?」
息を切らしながらそう言うと、跡部がふんと笑った。
「なんだ千石、別にテメェは出てこなくても良かったんだぜ? なんなら今から戻ればいいんじゃねえ?」
「……跡部君……」
こう言うとき跡部はすっごく意地悪で、オレはどうしていいか分からなくなる。
ああそう、って言って怒って帰っちゃえばいいんだろうか?
『キミってほんと、我が儘だよね』
とか言って。
でもそんな事をしたら、もう二度と跡部はオレを誘ってくれないだろう。
誘うどころか、オレと会うことも、……セックスだって勿論、してくれないよね。
結局、惚れてるぶん、オレの方が立場が弱いんだよな。
オレは俯いて、跡部の手をおずおずと握ってみた。
振り払われるかと思ったけど、跡部はオレに握られてるままだった。
「跡部君………」
でも跡部はオレの方を見なかった。
「……ごめんね……」
オレは謝ってしまった。
別に、オレ全然悪くないんだけどさ。
でも、跡部君が怒ってるみたいだったから。
「……バーカ」
跡部がちらっとオレを見た。
少し笑ってるようだったので、オレはほっとした。
「ごめんね………」
もう一度言ってみる。
すると、跡部は、
「こっち来いよ」
と突然オレを引っ張った。
ぐい、と手を引かれて、跡部に引きずられるままにオレは表通りから裏通りへ入った。
















跡部がなにげなさそうに入るので、思わずオレもついていってしまったが、裏通りを少し歩いて跡部が入った建物は、いわゆるラブホテルだった。
入ったことがないわけではないけれど、こんな昼間から、しかも男と一緒にというシチュエーションは初めてだったので、さすがのオレも恥ずかしくなった。
跡部はこういう時、全然気にする様子もなく堂々としている。
入り口で眉を顰めて部屋を吟味して、グレードの高そうな部屋のボタンを押した。
「あの、………あんまりお金持ってないけど……」
ご休憩10000円とか書いてあって、オレはびびった。
「……ああ?……だれがテメェに払わせるよ?」
自動会計の所で、1万円札を二枚無造作に放り込んで、跡部がバカにしたように笑った。
「で、でも………」
オレが過去ラブホを利用した時は、たいてい相手は年上のお姉さんだったから、お姉さんの方で払ってくれていた。
だから、実はオレはこういう所でお金を払った経験がない。
でも、跡部とオレは同い年だし、片方にだけ払わせるのって……気分が良くない。
「うるせえな。黙ってろ」
跡部に睨まれて、オレは押し黙った。
機械から出てきたカードをさっと取って、跡部がさっさとエレベータに乗り込む。
「あ、待って…」
置いてかれそうになってオレは慌てた。
跡部君、一人で入るつもりなんだろうか?
オレがいなかったら、困るくせに………。
でも、絶対そういう素振りを見せない跡部は、いかにも跡部らしかった。
最上階まで上がって、上品な室内光の点いた廊下を歩いて、部屋に入る。
部屋は、淡いグレーを基調にまとめられた上品な部屋だった。
重厚な家具で占められた部屋は、値段が高いだけあった。
オレはこんなに高そうで広い部屋を利用したことがなかったので、思わずきょろきょろしてしまった。
「なに見てんだよ」
跡部が肩を竦めて、ソファに腰を下ろす。
「あ、うん。……オレね、こんなすごいとこ、初めて。………跡部君って、いっつもこういうとこ利用してるの?」
「バーカ……もっとたけえとこだよ、普通は」
「あ、そう………なの?」
「今日は近ければ何処でもイイかってんで、ここにしただけだ」
跡部がソファの背もたれに頭を乗せて、伸びをする。
もっと高いところか………。
………誰と行くんだろう。
きっと、可愛い女の子とか、素敵なお姉さんとか………どっちにしろ、跡部君にふさわしい綺麗な女の人だよね……。
そう考えたら、オレは悲しくなった。
オレなんかと来て、楽しいのかな?
女の子と比べられたりしたら、やだな………。
だってね、女の子の柔らかくて感触のイイ身体と、オレのごつごつした固い身体を比べられたら、勝つわけ無いじゃん。
「おい、こっち来いよ」
跡部に言われて、オレは跡部の隣に座った。
「ねえ、……テレビ見る?」
正面に巨大なテレビが設置されていた。
カラオケやビデオがあり、それからテレビの隣にはパソコンが設置されていて、インターネットがし放題と書いてあった。
「それとも、なんか飲む?」
そう言って立ち上がろうとしたところを、跡部にぐいっと引き寄せられた。
「なに今更、ぶってんだよ?」
ソファに押し倒されて、跡部が上から圧し掛かってくる。
「……あ…ッ!」
乱暴に下半身をズボンの上から握られて、オレはびくっとした。
「はじめてきた女みてえな事、言ってんじゃねえよ」
「跡部くん……」
カチャカチャ、と手際よくベルトを外して、跡部の手が直にオレのものを掴んできた。
「……おい、自分で脱げよ」
「う、うん……」
ズボンを脱がそうとして上手く行かなかったのか、跡部がいらついたように言ってきたので、オレは急いでズボンを脱いだ。
トランクス毎引き抜いて、それから靴下も脱ぐ。
「……これでいい?」
跡部によく見えるように、大きく足を開いてソファに座ると、跡部がにやにやした。
「物わかりいいじゃねえか、千石」
---------だって。
跡部君が怒るのはいやなんだ。
跡部君に楽しくなってほしいから。
せっかく跡部君がラブホに誘ってくれたんだもんね。
「そこじゃなくてベッドでしようぜ、千石」
跡部がそう言ってきたので、オレはソファからベッドに移動した。
広大なダブルベッドで、皺のないぱりっとした真っ白なシーツに覆われている。
「上も脱げよ」
跡部が自分も服を脱ぎながらそう言ってきたので、オレは頷いて上も脱いだ。
全裸になって、ベッドに座る。
………どきどき、した。


















どきどき千石君v