first love 《4》
「……そんな事は……」
「そんな事ないっていうんスか? アンタもいい加減、往生際が悪いよね……」
リョーマが肩を竦めて、それからすっと手を伸ばして手塚の手に触れてきた。
----------びく。
リョーマの方を見られず、手塚は身体を硬くしたままで、じっと俯いて自分の手を見た。
硬く握った拳を包むように、リョーマの手が覆ってくる。
触れられて、そこから電流が走ったように肌がぴりぴりとした。
「……ね、本当の事、言って下さいよ。俺、結構気は長いッスけど、でももう半年以上待ったんスよ。……そろそろ限界ッス」
「え……ちぜん……」
手塚は息を吸い込んだ。
身体が震える。
眩暈がする。
リョーマが手塚の手をぎゅっと握ってきた。
思わずリョーマの方を見ると、焦げ茶の視線が瞬きもせず、じっと手塚を凝視していた。
「俺は……………おまえが………好きなんだ…」
無意識のうちに言葉が出ていた。
言った後で、その言葉の意味にかあっと頬が熱くなる。
リョーマが薄く笑った。
「………そんだけ? ねえ、どんな風に俺のこと好きなのか、ちゃんと言って下さいよ」
「どんな風にって………俺は………」
「ただの後輩として、好きなんスか?」
手塚は首を振った。
「ねえ部長……どんな風に好きか、態度で示して下さいよ」
リョーマが囁くように顔を近づけて言ってきた。
「アンタからキスしてくれると分かるんだけどな……」
ぎくっとリョーマを見ると、リョーマは笑っていなかった。
真剣な瞳で、射抜くように見つめてくる。
磁石に吸い付けられるように、手塚はふらふらとリョーマの顔に自分の顔を近づけた。
ほんの少し顔を傾けて、おずおずとリョーマの唇に自分のそれを触れ合わせる。
触れた途端、ぴりっと唇に電流が走ったような気がして、手塚はさっと顔を離した。
「……よくできました」
リョーマが満足そうに笑った。
「アンタってホント、じれったかったッスよ……」
「越前……」
「俺の気持ち、ずっと前から分かってたっしょ?」
…………そうなんだろうか?
「アンタが高嶺の花だって事は最初から分かってたッスからね、アンタが部活に来なくなって、結構あきらめてたとこがあったんスよ、やっぱ駄目かなって。……でも、この間の文化祭の時のアンタを見て、やっぱりアンタ俺のこと好きなんだって確信したんス。……ね、そうっしょ?部長……。俺のこと、好きっしょ?」
「……ああ、……好きだ………」
手塚は頷いた。
リョーマから事実を告げられると、心のもやもやがすうっと消えていくような気がした。
--------そうだ。
俺は越前の事が好きなんだ。
ただの好きじゃなくて。自分からキスしてしまうような、そんな好き……なんだ。
認めてしまうと、気が楽になった。
肩の力を抜いて、溜め息を吐くと、リョーマが笑った。
「なに緊張してるんスか?」
「いや………」
「じゃあ、部長………」
突然、リョーマが立ち上がると服を脱ぎだしたので、手塚は驚愕した。
「……越前?」
「なにやってるんスか? 部長、はやく脱いで下さいよ?」
「ど、どうして?」
「どうしてって……お互い、両想いだって分かったんだから、あとはやることならないと」
「やる事って……」
リョーマが肩を竦める。
「やることって言ったら、一つっしょ? 今日アンタんち誰もいないんだし、絶好のチャンスじゃないッスか?」
そう言ってリョーマがぱっぱっと学生服を脱いでいくのを、手塚は呆然として見つめた。
以前より背が伸びて、体つきもしっかりしたのだろう。
健康そうに日に焼けたしなやかな裸体を目にして、手塚は全身がかっと熱くなった。
心臓がどきどきと、早鐘のように打ち始める。
---------どうしよう。
まさか、こんな状況まで予想していなかっただけに、手塚はパニック寸前だった。
ようやく自分がリョーマのことを好きだというのを認めることができたばかりだというのに。
「部長、早く」
すっかり服を脱いで全裸になったリョーマが、ベッドに腰掛けて手塚に話しかけてきた。
リョーマの事が正視できずに微妙に視線をずらして、手塚は口ごもりながら言った。
「で、でも……」
「でももなにもないッスよ。部長、さあ、服を脱いで俺の所に来て下さい」
言葉は丁寧だったが、口調は厳しかった。
有無を言わせぬ調子に、手塚は背筋がぞくっとなった。
手塚がこうするのが当然、という強い物言い。
そんな言い方をされて、逆らえるはずがない。
自分は一体何をしようとしているのか。
……………駄目だ、そんな…………!
とは思うものの、いつしか手塚は立ちあがって、服を脱いでいた。
どきどきと、頭の先まで鼓動が鳴り響き、視界がふらつく。
目を閉じて、最後の一枚を下ろして、おぼつかない足取りでリョーマに近寄る。
リョーマの隣に恐る恐る腰を下ろすと、リョーマが手塚の肩を掴んで、ベッドに押し倒してきた。
「……越前!」
「怖いッスか?」
驚きに目を見開いてリョーマを見ると、手塚を組み敷いて、リョーマが真剣に手塚を見つめてきた。
微かに頷くと、リョーマが表情を和らげた。
「アンタは何もしなくていいッスよ。でも、俺のこと好きっしょ?」
畳みかけるように聞かれて、手塚は更にこくこくと頷いた。
「……だったら、おとなしく俺に抱かれて下さい」
言うなり、リョーマが手塚の首筋に顔を埋めてきたので、手塚はびくり、と身体を震わせた。
「アンタにずうっとこうしたいと思ってた。……ねえ、俺、今すっごくどきどきしてるんスよ。部長もッスよね?」
「え……ちぜん…………」
リョーマの手が手塚の左胸をまさぐってくる。
くすぐったいようなじっとしていられないような、なんとも言えない感覚が身体中に広がって、手塚は掠れた声を上げた。
「あ……よ………よせ…………ッ」
「駄目ッス。いやがるのはなしッスよ。アンタに抵抗されたら、俺なんもできないッス。アンタのがずっと大きいんスから。恥ずかしいんだったら、目瞑ってて下さい」
容赦なく言われて、手塚は硬く目を瞑った。
恥ずかしくて、どうしていいか分からなくて、
自分の部屋で、裸になってこれからする事を考えると、息が止まりそうだった。
「いろいろ考えないで、部長。気持ちいいっしょ? ねえ………俺に触られて、嬉しいっしょ? 気持ちいいとか嬉しいとか、そういう事だけ考えて下さい」
リョーマの手がすうっと下に伸びて、手塚自身をぎゅっと握ってきた。
「……ほら、もうこんなになってる……」
其処は既に硬く張り詰め、リョーマの手の中でびくびくと脈打つまでに成長していた。
「あっ……く……ッ!」
他人にそんな所を触られるのは生まれて初めてだったので、手塚は仰天した。
思わず逃げようとする身体を、リョーマが上から押さえてくる。
「駄目ッス。アンタに抵抗されたら、俺、できないって言ったっしょ? ね、部長?」
そんな風に言われても、本当にどうしらいいのか分からない。
「目、つぶってれば、……ね?」
硬く目を閉じ、シーツを両手でぎゅっと握りしめてた体勢で、手塚はリョーマが自分の性器をぎゅっぎゅっと扱いてくるのに耐えた。
自慰の時とは比べ物にならないほどの激烈な快感が、間断なく手塚に襲いかかってくる。
「あ……あ…………っ越前……ッ!」
羞恥も手伝ってか、手塚はあっというまに絶頂を迎えた。
一瞬、脳裏に閃光が煌めいて、リョーマの手の中に白濁した粘液が迸る。
「部長、好きッス………」
宥めるような声音でリョーマに言われて、手塚は涙が溢れてきた。
恥ずかしいやら、気持ちいいやら、自分の感情が収拾つかない。
それでも、リョーマにそんな事をされても、嫌悪感は微塵もなく、それどころか心の底からなんともいえない幸福感が湧き上がってきた。
「越前……………」
涙声でリョーマを呼ぶと、リョーマがそっと手塚の髪を撫でてきた。
「好きッス。……部長…………俺も気持ちよくなりたいッス。……ねえ、ここ、使っていいッスか?」
手塚自身を握っていたリョーマの手が、その奥のひっそりと隠れた入り口をつついてきたので、手塚は身体を強張らせた。
「越前…………」
手塚が乙女過ぎッスね^^