忍足の災難-千石編- 
《1》














忍足は喘いでいた。
ここはデパートのトイレの個室。
部活が終わった後、ジローに買い物に付き合ってくれと頼まれたので、特に用事もない忍足は快く承諾して、一緒にデパートにやってきたのだが。
スポーツ用品や、新しく出たゲームやマンガなどを二人で見て、そろそろ帰ろうかという時に、突然ジローがやりたいと言い出したのだ。
「ねえ、忍足ぃ、…俺、勃起しちゃった……」
書店で背後から抱き付かれて、忍足は狼狽した。
「ちょ、ちょっとジロー、ここどこだと思ってんねん! 人が見とるやないか?」
大慌てでジローを引き剥がしにかかったが、興奮した時のジローは本能に忠実で、始末に負えない。
元々、本能の命令に弱く、いくら注意しても寝てしまうヤツである。
ヤりたくなると、どこにいても忍足に抱き付いてきてしまうのにも、たいがい忍足は慣れていたが、さすがに他人がたくさんいるデパートとなると閉口した。
「でも、俺我慢できないんだもん…」
「ま、まずいって……ジロー、我慢しいや!」
「だーめ、我慢できないもん…」
「む……じゃぁな、……トイレいこ? ここは駄目やって」
「うん!」
尻の当たりを触ってくるジローをなだめすかして、なんとかトイレまで連れてきて、車椅子専用のトイレに二人でしけこんだ。
「じゃあ、いい?」
ジローなりに我慢していたのだろうか、個室に入った途端、ジローが忍足のズボンを脱がしてきた。
「自分で脱ぐからええって……」
他人に脱がされるのはぞっとしない。
慌てていって、もそもそと制服のズボンを脱いで、溜め息を吐いて後ろを向く。
「ほら、はよやって、出よ?」
ジローがすっきりすれば万事解決だ。
忍足は小さく溜め気を吐いて、ジローに向かって尻を突き出した。















「んあ……ん………ッッ」
「忍足っ、気持ちいい?」
気持ち悪くはないが、しかし、ここはデパート。
そうそういつまでもトイレに入っているわけにも行かない。
それにトイレの壁は結構薄くて、声とか音とか筒抜けなのだ。
忍足は気が気でなかった。
ジローも少しはそういう所に気を使ってくれればいいのに。
ジローに突き上げられて、声を殺して喘ぎながら、忍足は心の中でそう思った。
トイレに入っていられる制限時間は、せいぜい10分だろう。
それ以上入っていたら、不審者として通報されるかもしれない。
「ジロー、はよ出んと……」
「んーん、そうだね………じゃあ、頑張る!」
脳天気なジローに、忍足ははぁ、と溜め息を吐いた。
「ほら、はよう……」
しかし、そうは言ってもジローだから、今更注意して治るような性格ではない。
それに、いろいろ心の中ではらはら思っていても、忍足はジローの事が可愛いのである。
ほおっておけない弟のようなものだ。
だから、ついつい甘くなってしまう。
ジローを促すように自分から腰を振って、忍足はジローを深くくわえ込んだ。
「忍足ぃ……!」
ジローが甘えるように言って、次の瞬間、忍足の中で熱い粘液が迸ったのが分かる。
「はぁ………もう、ええな?」
短時間では自分はイけなかったが、とりあえずジローの欲求は満たした。
(あとは、………まあ、自分はうちで抜けばいいんやし)
そう思って、ティッシュで後始末をして、ジローを促して外に出る。
外には運良く誰もいなかった。
(良かったわ……)
忍足はほっとした。















しかしながら。
その後、デパートの出口でジローと別れ、ほっと息を吐いた忍足に、突然声をかけてきた人物がいた。
「やぁ、忍足君」
ぎょっとして声のした方を向くと、
「………山吹中の千石君やないの…」
そこには、明るいオレンジ色の髪を揺らして、見覚えのある中学生が立っていた。
「奇遇だねえ………こんなとこで会うなんてね!」
何やら機嫌が良いらしく、千石はやたら笑いかけてくる。
忍足は、千石とは直接二人きりで話したことはないが、大会で何度も顔を合わせているし、千石は跡部と知り合いだから、その関係で二言三言は言葉を交わしたこともある。
しかし、どれも大会での、ほんの少しの間のことであって、こんな所で出会ったことはなかった。
千石は、山吹中の白い学生服を着ており、肩に大きなテニスバッグを担いでいるところを見ると、やはり部活の帰りらしい。
「ここ、氷帝から近いもんね。君に会ってもおかしくないかぁ?」
千石がふんふんと頷きながら言ってきた。
「山吹中からは、ちょっと遠いんやない?」
「まぁね。ちょっとこっちに用事があったから、ついでにここに寄ってみたんだよね」
千石がにこにこした。
「でも、寄ってみて本当に良かったよん。お陰ですっごい事実を知ったしね〜」
と言いながら、千石が自分を射るように見つめてきたので、忍足はどきっとした。
「……な、なんやの?」
「ふふーん………ね、忍足君、ちょっとお茶しない?」
何やら嫌な予感がした。
「え、ええよ……」
ごくり、と唾を呑み込んで、忍足はこわごわ答えた。


















千石にまでヤられちゃう忍足君^^総受け^^