法悦 
《3》















手塚は呆然としたまま、それから数日を過ごした。
不二の態度は一過性のものではなく、………これからずっと自分を無視し続けるつもりなんだ。
そう思うと、手塚は居ても立ってもいられなくなった。
無視されて、どうでもいいような存在として見捨てられるのだけは、どうしても我慢できなかった。
まだ、嫌われたり憎まれたりしたほうがマシだった。
どうしたら不二が機嫌を直し、以前のように俺に話しかけてきてくれるだろうか。
手塚は必死で考えた。
何日か悩んで、不二の様子を窺って、どうしても不二が自分を無視し続けるつもりで、今のままでは、最後まで無視すべき存在としか扱われない、と言うことが分かって、手塚はショックが押さえきれなかった。
最初に不二に無視された時にも既にショックを受けていたが、更に続くに連れて、そのショックがボディブローを何回も受けるように、だんだん手塚の精神を蝕んでいった。
不二に無視されることが、自分にとってこんなに辛い事だったとは。
そんなにも、自分は不二を必要としていたのだろうか。
不二がいないと、どうしようもないほど。
不二を、愛しているのだろうか。
--------これが、愛なのか?
分からなかった。
愛とは………違う気がする。
が、とにかく手塚にとって、不二は自分が生きていくのにどうしても必要な存在だと言うことが、改めて痛いぐらいに認識させられた。
…………どうするか。
どうしたら、不二が機嫌を直してくれるか。
何日も何日も考えて、とうとう手塚は、不二の家へ行くことにした。
その時の手塚は、もう部室で不二の言葉に激昂した時のような気概は、微塵も持ち合わせていなかった。
不二に冷たくされて、手塚はすっかり弱くなっていた。
どうしてあの時-----部室で不二が乾とセックスをしろと言ってきた時。
あの時、乾とセックスしないで、怒ってしまったのだろうか。
……そんな事まで考えた。
不二に冷たく無視されるぐらいなら、誰とだってできるではないか。
そんな事、たいしたことじゃない。
そこまで思うようになっていた。
不二に全て謝るつもりで、手塚は部活が終わった金曜日の夜、不二の家へ向かった。


















緊張して不二の家へ行った手塚だが、不二は少なくとも表面上は手塚を玄関先で追い返したりせず、迎え入れてくれた。
もっとも、外面のいい不二のこと、家族の前で自分を無視したり拒絶したりするわけにはいかなかったのだろう。
「どうぞ、ゆっくりしていってね」
と、不二の母ににこやかに言われ、手塚は黙って頭を下げた。
不二の部屋に入って、不二が部屋のドアを閉める。
すると不二は、それまでのにこにこしていた表情を一変させて、しらっとした冷たい雰囲気になった。
……やっぱり不二は俺を許してくれないのか。
「……何か用?」
感情のこもらない素っ気ない声で言われる。
手塚は、不二の前に膝と手を突いて、頭を絨毯に付くぐらいに土下座した。
「……許してくれ、不二」
震える声で必死に言葉を紡ぐ。
「俺が悪かった、不二。なんでもするから、……だからどうか俺に冷たくしないでくれ」
言って頭を絨毯につけて、じっと不二の返事を待つ。
「ふーーん………」
不二がしれっとした調子で言ってきた。
「本当になんでもするから、だからお願いだ…」
「そう………じゃ、乾とセックスするの?」
「勿論する!」
意気込んで言うと、不二がくすと笑った。
「へぇ、随分態度が変わるんだね。じゃ、キミの気が変わらないうちに、乾の家行こうか?キミの態度で、どうするか決めるよ」
「分かった」
とにかく不二が自分と話をしてくれた。
それが嬉しくて、手塚は涙が滲んだ。
不二が携帯から乾の家に電話を掛ける。
乾は在宅のようで、二言三言不二が乾と話をして、乾の家にこれから行くと言ったようだった。
「じゃあ、行こうか?」
こんな風に話をしてきてくれるのをずっと待っていた。
不二に話しかけられるだけで、今までの辛かったことが消えていくような気がする。
こくこくと頷いて、手塚は不二と乾の家に向かった。





















まぁ、手塚だからこの辺で限界ということで…v