譎計 
−kekkei- 《1》















乾貞治はまだ中学2年生だが、既に自分の依って立つ基盤というものを確立していた。
それは、データ収集と分析、及び実験である。
どのような事柄であっても、データを正確に収集し、それに基づいて分析をし、実験をして推論を立てれば、解決しないことなど殆どない。
中学2年にして、乾は既にそのような持論を展開していた。
勿論、集めたデータが粗雑だったり、或いはそれを分析し使いこなす自分の才能が足りなくて、不可能ということは大いにあり得る。
しかし、乾は、学校の成績にしろ、部活動のテニスにしろ、自分の能力を最大限に発揮できるだけの力を備えていた。
データを確実に収集して分析し、そこに自分の才能を加味すれば、ほぼ成功した。
テニス部においては、レギュラーの座を勝ち取り、学校の成績では、常に学年で5本の指に入る優秀な成績を修めている。
学校の成績や部活動において、華々しい成功を収めていると言える乾だが、それまで彼が興味を示さなかった分野があった。
それは、生きている人間についての観察だ。
最近の乾の興味関心は、もっぱら人間の行動の分析、及び感情の分析に向けられていた。
成績や部活はそんなに精魂傾けなくても、今までの経験に基づいて比較的容易にデータを収集し分析して成果をあげることができる。
余裕ができた分、乾は身近な人間の心理や行動に興味を持つようになった。
特に、乾が興味を惹かれている人間がいた。
-----------手塚国光。
現在、テニス部副部長にして、生徒会副会長。
中学入学時の初対面の時から、乾は手塚に興味があったが、それを人間観察のデータ収集という対象に置き換えることで、更に興味が高まった。
もしかしたら、それはただ興味というのではなく、恋愛感情かも知れないと乾は思っている。
乾の場合の恋愛感情とは、相手を慈しみ愛したいという気持ちではなく、相手を分析し、相手が隠しているものを奥の奥まで晒け出して裸にしてやりたい、という邪な欲望だった。
手塚は、----------少なくとも、乾の知っている手塚は、いつも感情を表に出さず、落ち着いた物腰で、常に冷静で品行方正である。
学校の先生からも信頼を置かれ、クラスメイトからも一目置かれ、テニス部の中でも2年生にして既に上級生を圧するほどの威厳と落ち着きがあった。
生まれてこの方、挫折したことも、悪事に手を染めたことも、欲望に負けたこともありません、というような表情を見ると、乾はたまらなく彼を観察し分析して裏を見てやりたい、という気持ちになるのだ。
一体、手塚には欲望、---------例えば中学2年ともなれば誰もが悩む、…性欲、……そういうものがあるのだろうか?
乾は、体格も良く、身体も発達していたから、中学入学してすぐに精通があった。
170センチを越す長身のため、年よりも4、5歳は上に見られることが多く、既に年上の女性、大学生やOLと、その場限りの関係を結んだことも何度かある。
乾にしてそうなのだから、乾より背が低いとは言え、やはり体格の良い手塚が全くそのような性の欲望など感じたこともありません、というような風情で居るのを見ると、乾は訳もなく苛立った。
真面目で、品行方正な人間ほど、その心の裏は淫乱だという話を良く聞くが、果たしてそうなのだろうか?
乾は、手塚を分析してみたくてたまらなかった。
一体彼は、どのくらい乱れるのだろう。
もしかしたら、あの澄ました表情の裏に、途轍もなく淫乱な手塚が隠れているのではないだろうか。
あの、そんな汚れた欲望など一つもありませんというような表情を、壊してみたい。
彼を汚して、貶めて、本当の彼を突きつけてやりたい。
もしオレが手塚を犯したら、彼はどうなるだろうか。
あの端正な表情を歪めて、あの切れ長の黒い瞳から、涙を流して懇願するのだろうか。
やめてくれ、お願いだと、オレに頼むだろうか。
それとも反対に、手塚の方から快感に表情を歪めて、もっととオレに強請ってくるだろうか。
考えるとたまらなく興奮した。
乾は、自分が手塚を犯すことを想像しては、自慰に耽った。
手塚で興奮を静める術を覚えてしまうと、女とのセックスなど、全く乾にとって面白くも楽しくもないものになってしまった。
自分の大人びた物腰や、がっしりとした身体を見て、欲望に濡れた瞳で誘ってくる女など、たとえ、実際に熱い肉に包まれ、濡れた女性器に男根を突き入れて蹂躙しても、妄想の中で手塚を犯す方がずっとずっと快感だった。
乾の妄想の中では、手塚はある時は頑なに乾を拒絶して最後まで抵抗したり、或いは驚くほど淫乱に乾を誘ってきたり、千変万化した。
本当に、現実の手塚はどうなのだろう。
そう思うと、乾は身体の芯から震えるような衝動が突き上げてきた。
なんとしても、手塚を犯してみたい。
その堪えようのない欲望を自分の心の中に押し込めておくのは、至難の技だった。
しかし、けっして周囲に知られてはならない。
乾は虎視眈々とその機会を窺っていた。





















変態くさい乾で…v