譎計 
−kekkei- 《3》















それから乾は、少しずつ手塚を追いつめていった。
それは例えば、部室で手塚と二人きりになった時などだ。
手塚はコートの見回りをして最後に部室に戻ってくることが多いから、何気ない振りをして待っていれば、最後に戻ってきた手塚と部室の中で二人きりになれる。
自分を窺いながら着替えを始める手塚の側に何気なく近寄って、乾はまず、偶然触れたような振りをして、手塚の裸の肩に触ってみた。
ぎくっと瞬時身体を震わせ、手塚の動作が止まる。
手塚に触れたことなど気が付かない振りをして離れると、ちらっと乾を見て、それから手塚が、中断していた着替えを再開する。
またある時は、乾は、手塚に近寄って背中をすっと撫で上げてみた。
相変わらず手塚はびくりと身体を震わせ、動作を止めて硬直する。
しかし、乾に対して、何を触るんだ、とか、やめろ、とか、全く何も言ってこない。
乾は、少しずつ手塚に触れる度合いを高めていった。
背中から腰、腰から尻、尻から胸。
何度かそういう事が続いた後、乾は手塚の乳首を指で摘んでみた。
ここまですれば偶然ではないことが、手塚にだって分かっているだろうに、手塚は全く抵抗しない。
身体を強張らせ、乾を見ないように視線を微妙にずらして、ただひたすら乾が自分から離れるのを待っている。
摘んだ乳首が刺激でぷっくりと勃ち上がる。
乾はそれを指の腹で押しつぶした。
手塚は唇を僅かに噛んで俯いて、ひたすら乾の悪戯に耐えている。
-----面と向かって言えないんだな。
乾はそんな手塚が可笑しくてたまらなかった。
自分に乳首を弄られながら、手塚が興奮しているのを、乾ははっきりと感じ取っていた。
ハーフパンツを押し上げて手塚の下半身が勃起しているのが、見て取れた。
自分がこんな風に弄られて興奮してしまっているなんて、そんな事、手塚はどうしても認められないのだろう。
だから、抵抗もしないし、何も言わない。
自分に悪戯されて興奮しているなんていう事実から、目を背けているのだ。
なかったふり、知らない振りをして、その時だけ我慢して、その後は忘れてしまえばいい。
そういう風にして自分の中に淫らな欲望があることを、必死で否定している。
すっと胸から手を離して、乾は手塚から離れた。
身体を強張らせたままで、手塚がちらっと乾を窺ってくる。
おどおどとしたその仕草が嗜虐心を煽って、乾は含み笑いをした。
「…じゃあお先に」
何もなかったような声でさらりと言って、部室を出る。
こんなに観察し甲斐のある対象は初めてだった。
ぞくぞくとして、乾は自分が高揚するのを押さえられなかった。


















それから数日。
自分の委員会の用事やら、或いは手塚が生徒会で用事があったりして、乾は手塚と顔を合わせていなかった。
その日も委員会の顧問と打ち合わせをして遅れた乾が部活に行ってみると、既に部員たちは部活動を始めており、コートではボールを打つ音や元気の良い掛け声が響いていた。
自分のロッカーの前で着替えを始めた時、部室のドアがバタンと開いて、振り返ると学生服姿の手塚が立っていた。
どうやら乾と同じく、用事があって遅れてきたらしい。
手塚は部室の中の乾を見て、一瞬ぎくりと身体を強張らせた。
それから平静を装って中に入ってくる。
本当は、俺と二人きりになるのが怖いくせに---------。
それなのに、それを認めることができないので、平気な振りをして乾の隣にやってくる。
手塚のロッカーは乾の隣だったから、着替えをする時はどうしても乾の隣に来ざるを得ない。
………そろそろ、いいか。
乾は実験を次の段階へ移すことにした。
「…手塚?」
着替えながらさりげなく乾は手塚に話しかけた。
「…なんだ?」
いつもの低く落ち着いた声音で、手塚が答える。
内心びくついていても、それを表に出さないだけの自制が働いているらしい。
さすがに手塚だ。
乾は嬉しさがこみ上げてきた。
「最近、俺のこと避けてないかい?」
乾はにこやかに笑いながら、話しかけた。
「…別に…」
手塚がちょっと言いよどんで、それからやはり落ち着いた声で答える。
しかし、着替えをする動作がほんの少し止まったのを、乾は見逃さなかった。
ふっと唇の端を吊り上げて笑って、乾は行動を起こした。
学生服のズボンを脱いでハーフパンツを穿いた所だった手塚の下半身を、手を伸ばして素早く掴んだのである。
手塚のそれは、ちょうど乾の手の平に収まるぐらいの大きさで、強く掴むと、柔らかく弾力のある肉塊の感触がした。
「………乾!」
さすがに、これには手塚も反応せざるを得なかった。
「…よせ!」
そう言って乾から逃れようとするところを、乾は反対に、手塚の腰を掴んで引き寄せた。
「ね、手塚。…こうされるの嫌いかい? 好きだよね、手塚?」
「ふざけたことはよせ!」
手塚が掠れた声で喘ぐように言いながら抵抗し始めたとき、
-----------トントン。
部室のドアを叩く音がした。
はっと手塚が青ざめて、乾を突き飛ばす。
部室のドアが開き、外から1年の桃城が入ってきた。
「部長、今日のメニューはどうしますか?」
中で起こっていたことに、桃城は全く気が付かないようだった。
「着替えが済んだら、コートに来てくれって大石先輩が言ってました」
桃城は、手塚が部室に入ったを見た大石から、伝言を頼まれたのだろう。
そう言ってぺこりと頭を下げると、部室を出ていった。
乾から身を庇うようにロッカーに凭れて、桃城の前では平静を装っていたものの、手塚は、桃城が出ていくとさっと乾から離れて、怯えた目で乾を見上げてきた。
乾は薄く笑った。
「レギュラー同士で練習試合をさせたらいいよ」
手塚の羞恥と怯えの色が浮かんだ瞳を見据えながら囁く。
「で、指示したらまた部室に戻っておいで、手塚。…そうしたら、続きをしてあげるよ?」
切れ長の目を大きく見開いて、手塚が信じられないという表情をした。
それから、視線をもぎ取るように顔を背けると、走り出すようにして部室を出ていった。
-------バタン。
手塚が乱暴に閉めていった部室のドアが派手な音を立てる。
「フフフ……」
これから起きることを考えると、ぞくぞくとしてたとえようもない興奮が湧き起こってきた。
乾は、閉まったドアを見つめて、口の中で笑い続けた。


















手塚が戻ってくるかどうか、それは、乾にも分からなかった。
しかし、過去のデータを鑑みるに、--------必ず手塚は戻ってくる。
乾は、壁に置いてあるソファにゆったりと腰を下ろし、足を組み腕を組んで手塚を待った。
果たして数分後、ガチャリ、と部室のドアが開いて、手塚が戻ってきた。
中を窺うように、顔をおずおずと向けて、乾の姿を見付けるとはっと視線を逸らし、幾分逡巡して、それから中に入ってきた。
「……試合にさせてきた」
一言低く小さな声で言って、手塚は扉の所で立ちすくんだ。
視線を床に落として、握りしめた拳が微かに震えている。
自分の思惑通りに、獲物が帰ってきた。
乾は、満足げに微笑んだ。
「じゃあ、こっちへおいで、手塚。さっきの続きをしよう」
小さな子供に言い聞かせるように、ゆっくり静かに、それでもきっぱりとした物言いで言う。
ふらふらとまるで操り人形のように、手塚が近付いてきた。
自分の前に立った手塚に、乾は唇の端を少し上げて笑い掛けた。
「下だけ脱ぐんだ、手塚。脱いだら、ここに座って、キミの恥ずかしい所を、俺によく見せてくれないか?」
瞬時手塚が不審げな表情をしたので、乾はもう一度、ゆっくり手塚に囁いた。
「キミの肛門が見たいんだよ。…ここに乗って?」
そう言って、自分の前の机を指さす。
手塚が大きく息を吸い込んで、目を見開いた。





















さて、いよいよ始まりという感じで^^