部長、大変です!
《10》















「海堂、ご苦労だったな。今日はいろいろ大変だっただろう」
青学の広いグランドの脇の道を海堂と並んで歩きながら、手塚は今日の予算委員会の労をねぎらった。
海堂が尽力し、予算の折衝の細かい素案を何種類も作ってくれたおかげで、スムーズに話し合いがまとまり、うまく進んだのである。
もっと交渉が難航すると思っていただけに、手塚は思いの外仕事が進んで気分が軽かった。
もしかしたら、生徒総会までに間に合わずに、また休日を潰して委員会を開催しなくてはならないところだった。
だが、その心配もいらない。
本日は無理と思っていた部活にも、参加することができそうだ。
と言っても、もう部活自体は終わっているだろうが、海堂と二人でコートでボールを打つぐらいはできるだろう。
(練習を少しでも怠ると、身体が鈍ってしまうしな…)
手塚はそう思った。
「海堂、少し打っていくか?」
「はい。部長さえ良ければお願いするっス」
「あぁ、ではやろう」
海堂の返事を聞いて微笑みながら、手塚は部室のドアノブに手を掛けた。
ドアには鍵がかかっていなかった。
まだ中に誰かいるのかもしれない。
海堂と振り向いて話をしていた体勢のまま手塚はドアを開けたので、手塚の目には、部室の中を見た海堂のぎょっとした表情がまず見えた。
「……どうした?」
「……ぶ、ぶ、ぶちょ…!」
海堂がこれ以上ないほど目を見開き、ただただ口をぱくぱくさせて中を指さす。
(………?)
海堂の手を追って身体の向きを変え、部室の中を見た手塚は、次の瞬間、自分も心臓が口から飛び出るほど驚愕した。
(こ、これは……!)


















中には誰もいなかった-------青学の面々は。
そして、手塚の目には信じられない光景が飛び込んできたのだ。
部室の壁に沿って置かれたソファがベッドに形に広げられており……まぁ、よくそこで仮眠を取る部員もいるからそれはいい……が、そこに。
「……あ、とべ……?」
そこにいる人物は……どうみても氷帝学園の跡部景吾だった。
しかも、ただいるのではない。
跡部は全裸だった。
全裸で-------しかも、両手を腰の所で縛られている。
俯せでベッドにぐったりと沈み込んでいる跡部の、しどけなく広げられた脚の間はぬめぬめと濡れて光っている。
どう見ても-------情事の後だった。
しかも、合意の上、というのではなく、強姦だ。
「……ぶ、ぶちょ……」
海堂の愕然とした声に、手塚ははっと我に返った。
「あ、あぁ………」
とは言ってみたものの、言葉が続かない。
跡部の周りを見回すと、跡部の服が乱雑に放り投げられており、ベッドにはタオルやら手ぬぐいやらが散乱、更に……情事に使ったのであろう、使用済みコンドームやら使用していない新品のそれやらがテーブルの上や床にそのままである。
あまりの惨状に、手塚は眉間が痛くなるほど眉を顰めた。
いったい誰が……と思ったが複数だろうか…。
とりあえず分かったことは、うちの部員の誰かが、跡部を監禁し強姦に及んだ、という事だ。
これ以上ないほど渋面を作って、手塚は恐る恐る跡部のベッドまで歩を進めた。
上から見下ろすと、一層惨状が目に付いた。
跡部は、ベッドに俯せになったままの体勢で、顔だけ横に向け、秀麗な眉を微かに顰め忙しく呼吸をしている。
だが、意識は朦朧としているのだろうか。
瞳がうっすらと開いてはいるものの、それは茫洋としていて、焦点が定まっていなかった。
いつも鋭い眼光で己を睨んでくる跡部しか知らないだけに、手塚は戸惑った。
額に張り付いた髪をそっと払うと、ぴく、と身体が動く。
その身体も、汗と……それから、跡部自身の体液だろうか、白濁がこびりつき、淫靡な匂いを部室に充満させている。
肩胛骨が浮き出た白い背中と、震える腕。
手首は拘束されて赤く擦れ、微かに痙攣している。
その手首の下の円やかな白い尻も微かに震え、中心……アナルは何かとろりとした液体で濡れている。
薄桃色のその部分がひくひくと蠢くのが手塚の目にも見え、手塚は思わず顔を背けた。
こんな姿の跡部を見るなど、予想だにしていなかった。
とともに、見た途端、手塚の身体の奥底に、ぞくり、と戦慄にも似た欲望が湧き起こってきた。
いつもの、あの、他の睥睨する尊大な跡部ではなくて、今、自分の目の前に横たわっている跡部は、限りなく淫猥で妖艶で……しかも己を誘っているかのようだった。
品行方正な手塚は、今まで男は勿論、異性とも全くそういう関係を持ったことがない。
それにそういう衝動に駆られたこともなかった。
が-----------。
手塚は激しく首を振ると、瞳を閉じた。
……まずい。
とりあえず、跡部を解放して、どうしてこうなったのか、聞かないと。
聞いて、謝罪をして……跡部が許してくれなかったら、それ相応の処置も考えねば……。
「………」
手塚は手を伸ばすと、跡部の手首を拘束していた手拭いを解いた。


















手首の拘束がふっと融けたのを感じて、跡部は意識を取り戻した。
「……ぁ?」
一瞬、自分の置かれている状況が分からず、重い首を巡らして、手首をさすっている人物を見る。
ごろり、と身体を反転させ、仰向けになると、ふう、と息を吐き、目を上げると、それは手塚だった。
(……なんで手塚が……)
身体全体がお湯にゆったりと浸かっているように心地よく、痺れている。
気持ちが良くて、びりびりと痺れたような下半身も、痛みを伝えてくる手首も、ふわりと浮き上がったような感じだった。
「……手塚…?」
どうしてお前がいるんだ、と聞こうとして、手塚の沈痛な面持ちを見、跡部ははっと自分の状況を思い出した。
(そうだ、俺は……今まで不二や越前なんかに……!)
「……っ!」
思い出して起き上がろうとして、上半身に力を込めた途端、下半身がずきん、と疼いて、跡部は顔を顰めて呻いた。
「……そのまま寝ていた方がいい…。ちょっと待ってろ…」
手塚の声にぐたりとベッドに沈んで、跡部ははぁ、と深く息を吐いた。
顔を横に向けて部室の内部を見回す。
いつの間に来たのだろうか、部屋には手塚と------2年の海堂か……跡部は手塚の背後で驚愕している海堂を見て思った-----の二人がおり、先ほどまで自分を蹂躙していた4人はいなくなっていた。
「……おい、不二や越前は、どうした……?」
「……え、……不二……越前……」
手塚がぎょっとしたように声を呑む。
海堂に持ってこさせた濡れタオルで、痛めないようにゆっくりと跡部の身体を拭いていた手も止まる。
「不二や…その、越前が、お前を……」
言いにくそうに口籠もる手塚に、跡部は顔を顰めた。
「なんだ、知らねぇのかよ?」
「…俺たちが入ってきた時には、お前以外誰もいなかったのでな…」
「はっ!」
呆れて跡部は目を閉じた。
「おめでたい部長だぜ。…あァ? お前んとこの部員はヘンタイかよ、手塚…。すげぇ部員揃えてんのな…?」
「………すまない……」
タオルで拭っていた手を止めて、手塚が俯いた。
そのまま、ベッドの前に膝を突き、両手を床につく。
「俺が謝ってすむ問題ではないと思うが………すまない……」
そう言って床に土下座して頭を下げる。
「海堂、お前もだ」
「は、はい……」
慌てて海堂も手塚の後ろで土下座をした。




















5,6人目その1。