部長、大変です!
《11》















気怠い身体を起こして、ベッドの前で土下座している手塚と海堂の頭を見ていると、跡部はなんだかばかばかしくなった。
(こいつらには関係ないしな……)
軽く溜息が出る。
(それにしても、あいつら……俺のこと思いきりいたぶってくれたよな。
まぁ、いたぶるっつうよりは、俺の身体がめちゃくちゃ欲しかったみてぇだが……)
ベッドに肘を突き、手塚たちの頭を見渡しながら跡部は前髪を鬱陶しげに払った。
(俺の身体ねぇ…)
いったい男の何処がいいんだか。
自分を抱きながら嬉しそうにしていた菊丸や桃城や越前の姿を思い出す。
勿論、無理矢理強姦された事は屈辱の極みだが。
だが、あれだけ手放しで喜ばれた上で、となると、なんとなく怒りや屈辱も半減するような感じだった。
それに、最初は痛かったが、よく解されたせいか、初めてだというのに今は痛みよりも疼くような快感が全身を駆け巡っている。
もっと怒って怒りまくるべき場面なのだろうが、意外と怒りが出てこないのには跡部自身も戸惑っていた。
まずいんじゃないか。
怒りの気持ちが湧いてこないのには、困惑する。
どうしてだろうか。
初体験が強姦-------どう考えても悲惨なのだが。
(もしかして、俺って……こういうのが好きなのか?)
跡部はそう思って眉を顰めた。
今まで性体験などに無関係できたために、自分の嗜好に気づかなかったのだろうか。
考えていると頭が混乱してきた。
とりあえず、今の自分の考えをまとめてみると……あまり怒りの気持ちがない。
それよりも、気持ちが良かった……らしい。
(………淫乱かよ…)
さすがに跡部も愕然とした。
ふぅ、と溜息を吐いて額に手をやる。
まさか、自分がそんな性格だったとは。
頭を振って半身を起こす。
さすがにショックかも知れない。
それにしても、越前や桃城は自分の事を随分と欲しがっていたが。
(…こいつらはどうなんだ…?)
跡部は、自分の目の前でひたすら頭を下げている二人を見下ろした。
(菊丸みたいに、俺の身体を見ただけではしゃいで……はくれてねぇな……)
特に手塚など、どんなものを見ても心が動かないという感じだ。
と思うとなんとなく面白くなかった。
しかも、4人に犯されたにも関わらず、まだまだ中途半端な快楽の余韻が、身体の奥底にくすぶっていた。
初体験が激しすぎた反動かも知れない。
もっと収まるところまで、点けられた火を燃やし尽くさないと、いかんともしがたいような衝動だ。
「済まねぇ…ねぇ…。……謝ってすむ問題じゃねぇよな……?」
跡部はそう言うと、手塚の頭をくしゃり、と撫でた。


















「跡部…」
跡部の声に誘われるように手塚は顔を上げた。
顔を上げると、上から見下ろしてくる跡部の灰青色の双眸と目線が合った。
きらきらと濡れて輝き、長い睫が揺れている瞳は、手塚から見ても、息を呑むほど美しかった。
元々手塚は、跡部の造形は美しいと認識している。
テニスの腕前もさることながら、尊大な行動や発言がイヤミにならない程の美貌。
その美貌が、今は凄絶な色気を縁取り、更に凄みを増していた。
しかも、その色気は-------うちの部員が跡部を強姦したかららしい。
強姦。
いったい跡部はどんな風に強姦されたのだろうか。
この、目の前にいる尊大な、プライドの高い人物が、やすやすと強姦されるとは思えない。
手首が赤く跡が残るほど拘束されていたから、縛られて犯されたのだろう。
この、跡部が……?
……ぞくり。
不意に身体の奥底に欲情が湧き上がってきて、手塚はぎょっとした。
身体が熱い。
特に下半身-----性器に血が流れ込み、瞬く間に堅くなっていく。
(…まずい……)
手塚は息を呑み、必死で体内の衝動を治めようとした。
「なぁ、手塚、謝って済むならよ……警察も刑務所もいらねえぜ? あァ?」
「……あ、あぁ、そうだ……」
「…だよなぁ?」
跡部の言葉が耳に突き刺さる。
その声音も、どこか気怠く情事の跡の艶やかな声音だ。
聞いているだけで、更にぞくぞくと総毛立つような情欲が湧き上がってくる。
手塚は内心狼狽しきっていた。


















手塚自身は、性体験はない。
今までに異性と付き合った事もなく、品行方正な学生生活を送っていた。
勿論、仲の良い異性の友人というものはいるし、お互いに切磋琢磨、勉強などを一緒にすることもあるが。
だが、自分はまだ中学生。
まだまだ性的なものとは無関係だと思っていた。
手塚が堅いのは部員たちも知っている。
その手の話題を振ってくるものもいない。
性的な体験といえば、自慰ぐらいなものだ。
それもあっさりとしたもので、欲求解消というよりは生理的な性欲処理という意味合いが強かった。
それだけに、今の手塚には、目の前の跡部は刺激が強すぎた。
見ているだけで眩暈がするような気がする。
眩暈がして、身体がかっと熱くなってくる。
下半身が………みるみるうちに勃起してくるのが分かる。
堅く膨れあがったペニスが制服のズボンを押し上げてくるのを感じ、手塚は唇を噛んだ。
跡部に悟られぬように内股に力を込める。
が……」
「はッ、なんだよ、……おい、どうしたよ、手塚」
手塚が俯いて緊張している様子なのにベッドから身を乗り出して覗き込んだ跡部が、手塚のズボンの膨らみを目ざとく見つけた。
気怠い手を伸ばして、手塚が避けるよりも早く、そこをズボンの上から掴む。
「…でかくなってんじゃねぇ……?」
握った途端に熱く堅い肉棒の感触が手に伝わっていて、跡部はにやりとした。
「……ッ、よせッ…」
-----------ズキン。
戦慄が、背骨を通り抜け、電撃のように脳天まで瞬時に駆け上る。
手塚は眉間に皺を寄せて呻いた。
跡部の手から逃れようと無意識に腰を引く。
だが、跡部は手を伸ばしたまま、手塚のペニスを掴んだ指を離そうとしなかった。
それどころか、強く握り、その指を搾るように動かしてくる。
「こんなにしやがって……あぁ、手塚?……おい、こっちに来いよ」
跡部が掠れた声で囁いてくる。
手塚は逆らえなかった。
一旦引いた腰を、跡部の指に握られて引っ張られるようにして戻す。
そのまま跡部のすぐ前まで歩み寄る。
視線を逸らし、顔を背けたままで薄い唇を噛み、快感に耐える。
跡部が口角を上げて笑った。
「はん…、俺を見て欲情したんかよ…あーん? ヘンタイ……」
「……あとべ…」
跡部がくくっと笑った。
笑いながら、気怠い身体を起こし、手塚の首筋に左手を這わせる。
「……いいぜ、手塚…………来いよ…」
耳元で囁かれ、手塚は総毛だった。
忽ち全身がかっと体温が数度上昇したような、そんな衝撃に見舞われる。
「抱かせてやるよ……。欲しいだろう、俺が……?」





















5,6人目その2。