お気に召すまま 
《5》










「なにって………なァ…?」
跡部がくすくす笑いながら、忍足を覗き込んできた。
「特に顔の何処が変わったって訳じゃねぇのに、やっぱり女っぽくなってるぜ……不思議なもんだな…?」
「……顔まで変わってたまるか……身体だけでたくさんや…」
「まァ、そうふてくされずによ……よく見せてみろよ…」
と言うなり跡部が、忍足の着ていたバスローブの襟に手を掛けて左右に広げたので、たわわな乳房がバスローブから転がり出てしまった。
「でけぇよな……」
しげしげと眺めながら、跡部が感心したように言う。
「お前が巨乳になるとはなァ……意外だぜ…」
「な、なんで俺が巨乳じゃ意外なん……ってちょッ!や、やめれ…ッ!」
不意に敏感な突起に跡部が顔を近づけ、ちゅ、と吸い付いてきたので忍足はぎょっとした。
「な、なにしとんのやっ!」
狼狽したまま自分の---柔らかくたっぷりと揺れる乳房の先端、大きめの乳首を跡部が美味そうにちゅ、と音を立てて吸い上げるのを見下ろす。
「なにって………別に、普通だろ?こういう事、するじゃねェか?」
一旦唇を離して、跡部が口端を上げて笑いながら言ってきた。
「ふ、普通って……なんで、俺と跡部でせなならんのやっ!」
「いや、美味そうだからよ………つかお前、…………処女なんだろうな?」
「…………ショジョ………?」
背筋が凍り付いて、忍足は強張った声を出した。
なんだか、非常に考えたくない展開だ。
確かに、跡部は女好きでいろいろと幅広く遊んでいるのは知っている。
学校内での事もあれば学校外、他校生ともあるいは高校、大学、OLまで。
別にそういう性癖と自分とは全く関係がなかったから、今までそれについて跡部に意見するような事もなかった。
それに自分はそういうのとは無縁で、特に興味もなかったので、話題にもしなかった。
が…………。
「もしかして………跡部………、俺のこと………」
非常に嫌な予感がした。
(ま、まさかな……俺と跡部は親友やし……)
などと一生懸命違う方向に考えを持っていこうとするのだが。
「あぁ………その気になっちまったぜ………やらせろ」
しかし。
跡部が瞳を細めてにやり、と笑いながらそう言ってきた。
















「な、なに冗談………」
「冗談なんかじゃねぇぜ、忍足……」
囁きながら跡部がすっと手を忍足の頬に這わせてきた。
微妙に頬を撫でられて、ぞわぞわと背筋が総毛立つ。
「ちょ……跡部っ……俺やで……忍足やっ」
「あぁ、忍足だな……それがどうした……?」
ギシ……。
体重を掛けて跡部が自分の身体にのし掛かってきた。
押されてソファに仰向けになってしまい、忍足は更に狼狽した。
「いい胸してるぜ……」
上から跡部が蒼い双眸を細め、満足げに見つめてくる。
「ちょ、ちょっと……いややって言うてるやろ……な、跡部……俺なんか押し倒してどうするん……?俺とお前は友達やないの?」
「あぁ、友達だぜ? 大切な親友だなァ…?」
「だったら…」
「親友だからこそ、俺がヤってやるって言ってるんだぜ、忍足…?」
再び乳房にちゅ、と口付けられて、忍足はひゅ、と息を呑んだ。
じわん、と跡部が吸い付いた乳首から、なんとも表現しようのない刺激が駆け上がってくる。
「なぁ、忍足………」
忍足の左の乳首を軽く口に咥え、くり、と転がしてその大きめの乳首を味わい、左手ではたっぷりと盛り上がった反対の乳房を掌で押し上げるように揉みながら、跡部が囁いてきた。
「滅多にねぇ経験じゃねえか…。女になれるなんてよ……しかも、2,3日すると元に戻っちまうんだろ?…こんなにいい女になったのに、何も体験しないで戻るなんて、もったいねぇと思わねえか?」
「も、勿体ないて…」
「そうだろ、忍足……?」
「……ンぁ…ッ!」
言いながら跡部がカリ、と乳首を噛んできたので、びりびりと痛みにも似た刺激が駆け上り、思わず忍足は喘いだ。
「せっかく女になったんだからよ、……男とセックスして、女の気分ってのも味わってみてぇと思わねぇか?男よりずっと気持ちよくなるって話じゃねえか?」
「…………ッふ…や、めれって……」
忍足のバスローブの帯をしゅる、と解いて、跡部が右手で忍足の脇腹から滑らかな腹、それから括れた腰、その下の腰骨をまさぐってきた。
「いいだろ、忍足……処女らしいからな……優しくするぜ……?」
「…………ッやめぇやッ!」
顔を上げた跡部が今度は忍足の耳朶を舐めながら囁いてきたので、とうとう忍足は我慢できなくなった。大声を上げながら、思いきり跡部を膝で蹴り上げる。
「……ッう!」
忍足の反撃を予想していなかった跡部の腰に膝蹴りがあたり、跡部がひるんだすきに、忍足は這々の体で後ずさって跡部の身体の下から逃れ、跡部を睨み付けた。
「冗談、たいがいにせぇや!」
















「おい、いてぇじゃねえか……」
憮然として跡部が身体を屈めて腰をかばった。
「そりゃ、痛くないと困るわっ……全く……」
「なんだ、ンなにやなのかよ……」
さすがにここまで拒絶されると思っていなかったのか、跡部が気落ちした声を出した。
忍足をちら、と見て嘆息する。
「親友じゃなかったのかよ……冷てぇな……」
「つ、冷たいて……」
一つ息を吐き、跡部が乱れた前髪を掻き上げた。
「だってそうだろ……?俺が、やろうぜって言ってるのによ……そこまで拒絶しなくてもいいじゃねえか……」
「あのなぁ、跡部が今まで付き合うた女はそう言われて喜んだかもしれんけどな、……なんで俺がお前に迫られて喜ばなあかんの?」
「そうなのか……?俺はお前に迫られたら嬉しいぜ……」
跡部が小声で言ってきたので、忍足は呆気に取られた。
「はぁ……?」
「……なぁ、……お前、俺に抱かれるの、やなのか?」
跡部が顔を上げ、真剣な表情で忍足を見据えてきた。
「な、なに言っとるん………」
なんだか頬が熱くなってきて、忍足は思わず視線を逸らした。
「……いやか?」
跡部がそっと忍足の手を取り、そのまま腕を引いてきたので、バランスを崩し、忍足は跡部の腕の中に引き寄せられる格好になった。
「ちょ、ちょぉ……」
「忍足……いいだろ?」
(な、なんでこんな展開に…………)
「お前だって……俺のこと、嫌いじゃねえだろ…?それに、せっかく女になったのによ、女の喜びとか知りてぇとか思わねえか……?他のヤツになんかヤらせたくねぇ……俺が、教えてやるよ……」
「……って、ちょぉ……んむッ……」
再度、跡部が忍足を押し倒してきた。
押し倒すと同時に、ねっとりと唇が自分のそれに吸い付いてきたので、忍足の言葉は途中で途切れた。
(……跡部とキスしとるやん……)
自分と跡部が、と思ったら不気味でぞわぞわっとしたが、しかし気持ち悪さよりも、自分の口腔内に入り込んできた跡部の舌が絶妙に口の中で這い回ってきて、なんとも言えない気持ちよさが湧き起こってきた。
(…は、……やっぱり、上手いんやな……)
ちゅぅ、と吸われ、舌の根元をざらり、と舐め上げられて、ぼおっとなる。
引っ込めようとするとぬめった舌に引っ張られ、舌先で擦られ、舌を伸ばすと、今度は舌裏を舐め回される。
「…ン、…ふッ……ンン……」
真面目な優等生をしていた忍足には、想像も付かない舌技だ。
忽ち忍足は身体の力が抜け、ソファに深く沈み込むような形となった。
鼓動がどくんどくん、と頭まで突き抜けるようで、全身がぽっと熱くなってくる。
(な、なんやろ、この感じ……)
それは今までに感じたことのない感覚だったので、忍足は戸惑った。
下腹のあたりがずぅん、と疼き、なんとも言えない戦きが背筋を駆け抜ける。
下半身が甘ったるく蕩けた感じで、例えて言えば、バターが溶けたようにとろり、とした熱感と柔らかさだ。
「忍足………」
跡部の声もが耳朶を擽り、なんとも言えず背筋が甘く総毛立った。
透明な糸を引いて唇が離れていくのを、潤んだ瞳で熱い吐息と共に眺める。
跡部が灰青色の双眸を細めた。
「………悪くねぇだろ?…痛くしねぇからよ………抱かせろよ…」
『抱かせろ』という言葉を聞いて、忍足はうっとりとした心地から現実に引き戻された。
「ちょ、ちょぉ……………」
「………忍足?」
















「………や、やっぱりやめぃや!」
いくらなんでも、やっぱり忍足には抵抗があった。
抱かれる、という言葉自体がぞくぞくとしてしまう。
「お、俺は、抱かれる方やなくて、抱くのがええんや!」
「……そう言っても、今は抱かれる方じゃねえかよ…」
忍足の拒絶が頑強なので、跡部もだんだん弱気になってきた。
これが相手が普通に女性だったら、多少強引にでも押しを強くして事に運んでしまう所だが。
しかし、相手が忍足となると、話は別だ。
何しろ、女になっているとはいえ、自分の親友。
これからもずっと付き合っていきたいと思っている間柄である。
気まずくなったりしたら-----相手が女なら勿論気まずくしない自信のある跡部だが---とりあえず忍足と気まずくなったら困る。
気まずくなったら困るが……かと言って目の前のこんなに美味そうな身体を前にして、今更やめられるか。
自分のペニスは既にはち切れんばかりに勃起しているし、先ほどから触れている柔らかいとろけそうな乳房や、円やかな尻の感触など、脳内が爆発しそうである。
「なぁ、忍足………男に戻ったらよ、俺のこと抱いていいぜ…?交換条件だ……どうだよ?」
跡部は作戦を変えてみた。
「……はぁ? なにアホ言っとるん?」
まだじんじんとした疼きが身体を火照らせたままの忍足は、掠れた声を出した。
「……跡部、男やん………」
「……男は範疇外か、忍足…?」
「………って事は、跡部……ジブン、男も範疇内なん?」
跡部が軽く肩を竦めた。
「…まぁな。別に、女だろうが男だろうが、気持ちイイ事は同じだろ?」
「……………知らなかったわ…」
跡部が無類の女好きなのは重々承知の忍足だったが、男もイける口だとは初耳だった。
「……じゃぁ、跡部は男とも経験があるん?」
「……いや、実はねぇんだけどよ…」
「な、なんや……口から出任せかい…」
「出任せなんかじゃねえよ。俺は女でも男でもなんでもイけるぜ?ただ今までそう言う機会が無かったってだけでな…。なぁ、どうだよ、忍足。俺の事好きにしていいんだぜ?なんでも経験してみてぇと思わねぇか?」
「…………そ、そう言われたかて……」
「お前だってよ、勿体ねぇと思わねぇかよ。数日しか女になってねぇんだぜ?貴重な体験じゃねぇか。俺がもし女になれたらよ……絶対すぐにでもヤるな…。そんな機会、二度と来ねぇかも知れねぇだろ?それに、男に戻ったら俺のこと好きなようにしていいんだぜ?お前はよ、なんでも経験が足りねぇからなァ……考えるより実行あるのみ。なんでもやってみてから考えた方がいいぜ?」
跡部に説教までされてしまった。
憮然として聞いていた忍足だが、確かに跡部の言うことにも一理ある。
いや、一理どころか十分その通りだと同意できる。
(確かになぁ……なんでも経験してみんと分からへんな…。俺は経験値が足りんからなぁ…)
自分が頭でっかちの理論専攻型で実践に弱い事は知っていただけに、跡部の言葉は頷けた。
「………どうしよ…」
「ほら、また考えてるぜ? 考えるのはあとにして、まず行動……そうじゃねぇか?」
「……それもそうやな…」
跡部が口角を吊り上げて微笑んだ。
「じゃぁ、商談成立って所だな? 忍足……痛くしねぇように努力するぜ。だからお前も…」
一旦そこで言葉を切ると、跡部は再度忍足の唇に、今度は啄む程度のキスを落とした。
「…いろいろ小難しいことは考えねぇで、身体の快感に集中しろよ。きっと今までにない経験ができるぜ?」
(今までにない経験て……それはそうやけどな…)
などとまだ忍足が考えている間に、跡部はさっさと行動を開始した。
「ここじゃ窮屈だから、ベッドに行こうぜ?」


















というわけで初体験(汗)