「………」
跡部の有無を言わせぬ強い調子に、手塚の秀麗な眉が顰められる。
が、その言葉の中に切羽詰まった様子を感じ取ったのだろう。
ベッドから腰を上げると、手塚は海堂の頭を軽く撫でて退かせた。
海堂の代わりに身体を移動させ、跡部の尻を掴むと、一瞬瞬きをして切れ長の瞳を伏せる。
それから覚悟を決めたように、一気に跡部の肛門に、自分の怒張を挿入した。
「………ッッッ!」
ズシン、と重く甘い快感が脳まで突き抜け、跡部は思わず喉を仰け反らせ、首を振った。
----------気持ちがいい。
なんとも言えず、腰が蕩け、際限なく柔らかくなっていくようだった。
蕩けたその中に、手塚の楔が容赦なく打ち込まれ、その度に全身に甘い疼きが走る。
「は、あ……て、づか……い、いいぜッ!……も、もっと、来い…ッッ!」
切れ切れに呻き、手塚の激しい突きに応えて自分も腰を前後に振る。
ぐりぐりと手塚が腰を回してきて、感じる部分が刺激されると、瞬間、目の前が真っ白になった。
「うぁ……ッッ!!」
ドクン、と勢いよく白濁が迸り出る。
シーツに点々と飛び散り、染みを作る。
脳が爆発し、全身から汗が噴き出る。
奥深くまで入っていた手塚自身が呼応して弾けるのを、跡部は身体の奧で微かに感じた。
「……向こうの部屋にシャワーがあるが……使うか?」
全身ぬるま湯に浸っているような気怠い快感に、跡部は虚ろな目を宙に向け、放心していた。
が、手塚の声でふと我に返り、ぼんやりした瞳を声のした方に向ける。
見ると手塚も海堂も、いつの間にか身支度をすっかり整えており、気まずそうに立っていた。
「………あァ?」
「シャワー……使えるか、跡部?」
「あ、あぁ……」
(シャワーか……そう言えば身体がべとべとだぜ…)
などとぼんやりとした頭で考え、跡部は鉛のように重い身体を起こした。
「ぅ………」
ずうん、と鈍く重い痛みが腰全体に広がっており、上体をおこした時には痛みが鋭くなった。
顔を顰めて呻くと
「だ、大丈夫か?」
慌てたように手塚が跡部の顔を覗き込んできた。
「……気にすんな……シャワー、あっちかよ?」
重い腕を上げて手塚を振り払うようにすると、跡部はそろそろとベッドから降りた。
「………」
ぬるり、と尻の間から何かが流れ出てくる。
生暖かい液体は、手塚と海堂の精液だろう。
(そういや、最初はコンドームつけてやられたんだったな……あとから中出しかよ……)
なんだかもうどうでも良くなっていたが、もしかしてゴムなしでの最初は手塚か、と思い当たり、なんとなく可笑しくなる。
肩を竦め、手塚がおずおずと差しだしたタオルを手に取ると、跡部は部屋の奥のシャワールームへ向かった。
青学テニス部のシャワー室は、氷帝のように豪華なものではなかったが、広く清潔だった。
熱いお湯をふんだんに出して頭からかぶる。
肛門から溢れ出る精液を流し、痛みを堪えて指を突っ込んで内部を綺麗に洗う。
すっかり綺麗になると、性的に満足度が高いせいかさっぱりした爽快な気分になった。
鼻歌でも歌いたいような気分でシャワー室を出る。
部屋では手塚と海堂がものも言わずに部屋を掃除していた。
べたべたになったベッドのシーツを取り替え、部室に付属して設置してある洗濯機で洗っている。
床に放り投げられていた跡部の服はきれいに畳まれ、机の上に乗っていた。
跡部がシャワー室から出てきたのをみて、手塚がどうしたらいいか、というような顔をする。
気分のいい跡部は微笑を返してやった。
すると驚いたように目を瞬き、困ったように視線を逸らす。
相手が狼狽えていると、反対に自分は気分が落ち着くものだ。
された仕打ちにもかかわらず、跡部はうきうきした気分にまでなった。
きれいに畳まれていた衣服を取り、身につける。
濡れた頭をごしごしと拭いて、顔を揺らしてある程度髪型を整えると、やはり机の上に置かれていたバッグを手に取った。
「お、もうこんな時間じゃねえか……」
ふと部室の壁にかかっていた時計を見ると、もう夕方の6時を過ぎている。
明日は普通に学校だ。
早く戻って明日の授業の用意や予習をしなければならない。
これから帰って家に着くのが7時。
(あんまり勉強できねぇな……)
と思うと急がなくては、と逸る気持ちになった。
「…んじゃ俺は帰るからな」
振り返って手塚に言うと、手塚が慌てたように
「大丈夫なのか?……なんでお前はここに……」
と聞いてきたので、跡部は肩を竦めた。
「不二あたりから聞けよ。じゃぁな?」
後は青学内でうまくやってくれ。俺は知らないぜ、と口の中でこっそり言い、ばたん、と扉を開けて外に出る。
まだ明るかったが、すぐに日が落ちるだろう。
(ちぇ……いてえから速く歩けねぇ…)
肛門がさすがに鈍痛を伝えてきて、跡部はがに股気味に歩きながら地下鉄の駅へ急いだ。
結局、小川と近林は、青学まで引っ張られてはきたものの、そこで謝ってすぐに解放してもらったとの事だった。
鳳や樺地は、氷帝の部室で帰ってこない跡部を待っていたらしい。
「すまねぇな。青学に行ったついでに帰っちまったんだ」
と跡部は笑って誤魔化した。
次の日は身体中が筋肉痛で、いくらテニスで鍛えているとは言っても、普段使わない筋肉を酷使したらしく、歩くたびに痛かった。
が、それも治り、赤く腫れて熱を持っていた肛門も2日ほどで元通りになった。
身体が元に戻ると、脳内も普段の跡部に戻ってきた。
戻ってくると、あの青学での出来事がなんだか夢のようにも思えてきた。
いや、出来事自体は実際あったことでいいのだが、それに関する自分の反応がだ。
無理矢理犯されたというのに、あんなによがって気持ち良くなってしまった自分の事が、夢のように思えるのだ。
夢といか悪夢というか……。
「…なに、悩んでるん?」
教室で眉間に皺を寄せて考え込んでいると、前の席の忍足が跡部を覗き込んできた。
今は数学の自習の時間で、跡部たちは出されたプリントを解いている所だった。
跡部と忍足は同じクラスで、数学に関しては跡部の方が得意である。
それで、忍足は数学の時間はよく跡部の所に来て問題の解き方を尋ねたりなんだりしているのだった。
その時も、忍足が跡部の前の席のクラスメートに席を替わってもらって、質問しに来ていた所だった。
「…いや、別に……」
「そんな顔すると、綺麗な顔に皺がつくで?」
眉間に指をあてて押され、跡部は肩を竦めた。
「部活の事で悩みあるんか? 俺で良ければ相談してや?」
跡部にとって忍足はよき友人であり、好敵手でもあった。
今自分が悩んでいることを話してしまうか、との考えも一瞬頭をよぎったが、次の瞬間、跡部は考え直した。
いくらなんでも、恥ずかしくて言えやしない。
自分は……淫乱でセックス大好き。
……しかもやられるほうが……好きな男なのだろうか、などと。
跡部の悩みはそこにあった。
普通、男だったら女性と初体験が普通だろう。
自分のように、男にやられて----しかも、初めてだというのに複数に----いわば輪姦だ。
どう考えても言語道断。
あんな事をされたら普通ショックで寝込んでもおかしくない。
それなのに、自分は反対に気分が良くなってしまった。
(……ああいうのが根っから好きなのか、俺は……)
そう考えて跡部は青ざめた。
ああいう……縛られて無理矢理突っ込まれ、屈辱的な言葉を浴びせられたりするのが。
何人もに見られて好き放題されるのが……。
---------いやいや、まさか、そんなはずはない。
跡部は顔を振った。
あの時はきっと犯されすぎて頭が一時的におかしくなってしまったのだ。
それで、気持ちよくなってしまったに違いない。
今まで自分は性的な事に全く無頓着でいたから、その反動だ。
……などと、いろいろありそうな理由をつけて考えてみるのだが、どうもしっくりこなかった。
「問題、解けてへんで?」
忍足がいぶかしげに問いかけてきた。
「あ、あぁ……」
内心を見透かされたか、と慌てて、跡部はプリントに向かった。
とりあえず目の前の数学の問題だ。
頭を数式で一杯にすれば少しは分かるかも知れない。
………勿論、跡部を悩ましている問題が解けるはずもなかったのだが。
それから数日。
跡部は勉強に邁進する事で、とりあえず頭の中を支配している難問から逃れようとしていた。
部活も一心不乱に活動する。
跡部の真剣な態度に部員達も刺激されてか、いつになく部活が活気を帯びている。
夜遅くまで練習を重ね、ほぼ日常が戻ってきたある日。
「アトベー、大変だよー!」
部長室で部誌を書いていた跡部の元に、慈郎がやってきたのだった。
5,6人目その5。で新展開。
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