抽選会
 《2》












奥の扉の更にその奥は、簡易宿泊室のようだった。
ぼんやりと眺め、混乱した頭で考えようとする。
どうして、身体が重いのだろう。
風邪でも引いたのだろうか?
こんなところで具合が悪くなったのでは、困ったものだ。
真田たちに迷惑を掛けてしまう。
(どうしたものか……)
などと、霞の掛かった頭で考えていると、切原がどさり、と手塚の身体をベッドに横たえた。
「…悪いな」
迷惑を掛けてしまったと思い謝る。
「……えっ?」
一瞬切原が、目を丸くして、それから我慢できない、と言うようにくすくすと笑い始めた。
「どうしますか、真田副部長、手塚サン、全く分かってないッスよ」
「…………」
真田が渋面を作るのが見える。
「だから言っただろう。こいつは謹厳実直、頭の中まで全部真面目だからな」
「そのようッスね。手塚さん」
切原が、横たわった手塚の細い顎に手を掛け、くっと持ち上げてきた。
「加減どうッスか? 手足、重いっしょ?」
「………?」
「軽い睡眠薬をね、ちょっとだけ……紅茶に入れたんスよね」
(…………?)
「睡眠薬……」
ぼんやりとした頭にも、なんとかその単語が入ってきた。
(なぜ、そんな事を……?)
目線で問い掛けているのが分かったのか、切原が肩を竦めながら、嬉しげに手塚を覗き込んできた。
「…手塚さん……」
不意に視界が遮られる。
目の前に、切原の射抜くような鋭い目が迫ってくる。
唇に、ねっとりとした生暖かな感触を感じて、手塚は戦慄した。
「………!」
切原が、角度を変えながら、深く唇を合わせてくる。
ぬめった、生き物のように蠢く肉塊が、自分の口の中に押し入ってきて、ぬるりと内部を舐め回し、それから蠢きつつ、口の中を蹂躙してくる。
そんな風に他人に触れられるなど、手塚にとっては全く初めての経験だった。
驚いたまま目を見開いている手塚に、切原が少し顔を離して苦笑した。
「あれ、驚いてるッスね、手塚さん」
「それはそうだろう。コイツはこういう事には全く免疫がないからな…」
「そうみたいッスね。へぇ……こんなに色っぽくてそそるのに、誰も手を出さなかったんだ、青学の連中」
「手塚に手を出せるような、肝の据わったやつはおらん」
「そうかな? じゃあ、俺は肝据わってる?」
「おまえの場合は、懼れ知らずというやつだな…」
「なんだ、真田副部長。…副部長も怖じ気づいてるんスね?」
「………別に。……おまえには少々呆れているがな」
「あははっ、そうッスかね?」
「ほら、手塚が驚いたままだ、少し説明してやれ」
「はいはい」
切原がくすくす笑ったまま、癖っ毛を掻き上げて、手塚を見下ろしてきた。
「あのね、手塚さん…」
笑い顔のまま手を伸ばして、手塚の頬をすっと撫でる。
触れるか触れないかという指の感触に、ぞわぞわと産毛が逆立った。
「今日は、アンタを抱かせてもらおうと思って、ここにお誘いしたってわけッスよ」
「………?」
「手塚さん、…アンタ……ほんとにそそるッスね」
切原がうっとりしたような声音を出し、手塚の頬から首筋に指を移動してきた。
「…な……に…」
「だからね、手塚さん……アンタをこれから俺たちで犯そうって訳ッスよ」
切原が低い声で言ってきた。
「お……かす…?」
「そう……アンタをね…」
「…な…ぜ……?」
一体何を言っているのか、手塚には理解できなかった。
俺を犯す----とはなんだ?
勿論、その言葉の意味を知らないわけではない。
それに、こうしてベッドに連れてこられ、切原におぞましい口付けをされて……全身が凍り付きつつも、彼が何をしてくるつもりなのか、理性では理解できる。
---------しかし。
それが自分の身に起こりつつあるということが、手塚にはどうしても理解できなかった。
どうして………。
なぜ、俺が…………一体、これから………。
「まだあんまり分かってないみたいッスね」
切原が瞳を細めた。
「こういう手塚さん、最高にそそるッスよ」
耳元で囁かれて、ぞわっと背筋が凍った。
硬直していると、切原がくすくす笑いながら、手塚のシャツのボタンを一つ一つ外し始めた。
「夏服、似合うッスね、手塚さん。白いシャツってアンタに最高に似合うッス。そんで、それを脱がせるのは最高に興奮するッス」
「……さ、なだ…」
「副部長、呼んでるッスよ?」
切原が苦笑した。
「…なん、で……?」
「何故と言われても困るな」
切原の後ろで腕組みをして立っていた真田が、低い声で答えた。
「強いて言えば…お前の存在事態が……罪と言うことだろうか?」
「……つみ?」
「…そうだ。お前を見ると誰もがお前に引き寄せられる。分かるか、手塚」
「………」
真田が側に寄ってきた。
見上げると、暗い色の真田の瞳に、何か危険な炎がゆらめていた。
暗く押し殺したような色のそれに、自分の姿がうっすらと映っている。
手塚は呆然とそれを眺めた。
「お前は…」
「アンタはね、俺の嗜虐心をそそるんスよ」
「し…ぎゃく?」
「まぁ、今頭がぼおっとしてるっしょ? なんにも考えずに、俺たちに従って下さいよ。そうすりゃ分かるってね。……ねぇ、副部長?」
真田が顔を背ける。
「……俺は見ている」
「そうッスか? アンタもやればいいのに…」
切原がくすっと笑う。
「アンタだって、手塚さんとやりたがってるの、分かってるッスよ?」
「…………」
「まぁ、いいか……んじゃ、俺は」
切原が不意に手塚のシャツを引き裂くようにして、左右に広げてきた。
「………ッ!」
思わず息を呑んで、その行為を見つめる。
「……やっぱり、綺麗ッスね…」
シャツの舌の滑らかな乳白色の素肌を見て、切原がうっとりとした声を上げる。
「アンタの裸、見たただけで、俺こんなになっちまったッス」
腰に、切原の下半身が押しつけられる。
固く漲った器官の当たる感触に、手塚は総毛だった。
「ここをね、……これからアンタの可愛いとこに入れるッスよ…」
切原が含み笑いをする。
「良い声で啼いて下さい……手塚さん」
---------カチャ。
ベルトの外れる音がして、はっとすると、切原が手塚のズボンをずりおろしていた。
「や、やめ……ッッ」
抵抗しようとしたが、足が動かない。
漸くのことで僅かに動かしたものの全く抵抗にもなっていず、かえって、切原がズボンを脱がす手伝いをしたような結果となってしまった。
「へぇ、手塚さんって、トランクスなんだ…」
「よ……せ……」
切原がズボンと共にトランクスまで押し下げてくる。
「ちょっと、どきどきするッスね」
嬉しげな声と共に、遂に下着ごとズボンを脱がされてしまった。
外気が、裸の下半身にひんやりと触れてくる。
冷房の効いた、冷たい空気が。
「…………ッ」
ぞくっと全身が戦慄いて、手塚は思わず喉を詰まらせた。
今の手塚は、上半身に僅かにシャツをまとっただけで、あとは何も身に付けていない状態だった。
「へぇ………」
切原の、感嘆にも似た声が耳に突き刺さってきた。
「……スゴイや…」
「よ、せ……」
「ねぇ、真田副部長、見て下さいよ。ほら、こんなに綺麗で…」
「……そうだな……」
呆然として見上げると、上から二人の男が、自分を見下ろしていた。
切原は欲望にぎらついた目をして、舌なめずりでもしそうな表情で。
真田は一見表情を変えないものの、瞳の奧に深く沈着した欲望を覗かせて。







「じゃあ、遠慮なくいただきますかね」
切原がにやりと呟いた。





















真田は見学ですv