奥の扉の更にその奥は、簡易宿泊室のようだった。
ぼんやりと眺め、混乱した頭で考えようとする。
どうして、身体が重いのだろう。
風邪でも引いたのだろうか?
こんなところで具合が悪くなったのでは、困ったものだ。
真田たちに迷惑を掛けてしまう。
(どうしたものか……)
などと、霞の掛かった頭で考えていると、切原がどさり、と手塚の身体をベッドに横たえた。
「…悪いな」
迷惑を掛けてしまったと思い謝る。
「……えっ?」
一瞬切原が、目を丸くして、それから我慢できない、と言うようにくすくすと笑い始めた。
「どうしますか、真田副部長、手塚サン、全く分かってないッスよ」
「…………」
真田が渋面を作るのが見える。
「だから言っただろう。こいつは謹厳実直、頭の中まで全部真面目だからな」
「そのようッスね。手塚さん」
切原が、横たわった手塚の細い顎に手を掛け、くっと持ち上げてきた。
「加減どうッスか? 手足、重いっしょ?」
「………?」
「軽い睡眠薬をね、ちょっとだけ……紅茶に入れたんスよね」
(…………?)
「睡眠薬……」
ぼんやりとした頭にも、なんとかその単語が入ってきた。
(なぜ、そんな事を……?)
目線で問い掛けているのが分かったのか、切原が肩を竦めながら、嬉しげに手塚を覗き込んできた。
「…手塚さん……」
不意に視界が遮られる。
目の前に、切原の射抜くような鋭い目が迫ってくる。
唇に、ねっとりとした生暖かな感触を感じて、手塚は戦慄した。
「………!」
切原が、角度を変えながら、深く唇を合わせてくる。
ぬめった、生き物のように蠢く肉塊が、自分の口の中に押し入ってきて、ぬるりと内部を舐め回し、それから蠢きつつ、口の中を蹂躙してくる。
そんな風に他人に触れられるなど、手塚にとっては全く初めての経験だった。
驚いたまま目を見開いている手塚に、切原が少し顔を離して苦笑した。
「あれ、驚いてるッスね、手塚さん」
「それはそうだろう。コイツはこういう事には全く免疫がないからな…」
「そうみたいッスね。へぇ……こんなに色っぽくてそそるのに、誰も手を出さなかったんだ、青学の連中」
「手塚に手を出せるような、肝の据わったやつはおらん」
「そうかな? じゃあ、俺は肝据わってる?」
「おまえの場合は、懼れ知らずというやつだな…」
「なんだ、真田副部長。…副部長も怖じ気づいてるんスね?」
「………別に。……おまえには少々呆れているがな」
「あははっ、そうッスかね?」
「ほら、手塚が驚いたままだ、少し説明してやれ」
「はいはい」
切原がくすくす笑ったまま、癖っ毛を掻き上げて、手塚を見下ろしてきた。
「あのね、手塚さん…」
笑い顔のまま手を伸ばして、手塚の頬をすっと撫でる。
触れるか触れないかという指の感触に、ぞわぞわと産毛が逆立った。
「今日は、アンタを抱かせてもらおうと思って、ここにお誘いしたってわけッスよ」
「………?」
「手塚さん、…アンタ……ほんとにそそるッスね」
切原がうっとりしたような声音を出し、手塚の頬から首筋に指を移動してきた。
「…な……に…」
「だからね、手塚さん……アンタをこれから俺たちで犯そうって訳ッスよ」
切原が低い声で言ってきた。
「お……かす…?」
「そう……アンタをね…」
「…な…ぜ……?」
一体何を言っているのか、手塚には理解できなかった。
俺を犯す----とはなんだ?
勿論、その言葉の意味を知らないわけではない。
それに、こうしてベッドに連れてこられ、切原におぞましい口付けをされて……全身が凍り付きつつも、彼が何をしてくるつもりなのか、理性では理解できる。
---------しかし。
それが自分の身に起こりつつあるということが、手塚にはどうしても理解できなかった。
どうして………。
なぜ、俺が…………一体、これから………。
「まだあんまり分かってないみたいッスね」
切原が瞳を細めた。
「こういう手塚さん、最高にそそるッスよ」
耳元で囁かれて、ぞわっと背筋が凍った。
硬直していると、切原がくすくす笑いながら、手塚のシャツのボタンを一つ一つ外し始めた。
「夏服、似合うッスね、手塚さん。白いシャツってアンタに最高に似合うッス。そんで、それを脱がせるのは最高に興奮するッス」
「……さ、なだ…」
「副部長、呼んでるッスよ?」
切原が苦笑した。
「…なん、で……?」
「何故と言われても困るな」
切原の後ろで腕組みをして立っていた真田が、低い声で答えた。
「強いて言えば…お前の存在事態が……罪と言うことだろうか?」
「……つみ?」
「…そうだ。お前を見ると誰もがお前に引き寄せられる。分かるか、手塚」
「………」
真田が側に寄ってきた。
見上げると、暗い色の真田の瞳に、何か危険な炎がゆらめていた。
暗く押し殺したような色のそれに、自分の姿がうっすらと映っている。
手塚は呆然とそれを眺めた。
「お前は…」
「アンタはね、俺の嗜虐心をそそるんスよ」
「し…ぎゃく?」
「まぁ、今頭がぼおっとしてるっしょ? なんにも考えずに、俺たちに従って下さいよ。そうすりゃ分かるってね。……ねぇ、副部長?」
真田が顔を背ける。
「……俺は見ている」
「そうッスか? アンタもやればいいのに…」
切原がくすっと笑う。
「アンタだって、手塚さんとやりたがってるの、分かってるッスよ?」
「…………」
「まぁ、いいか……んじゃ、俺は」
切原が不意に手塚のシャツを引き裂くようにして、左右に広げてきた。
「………ッ!」
思わず息を呑んで、その行為を見つめる。
「……やっぱり、綺麗ッスね…」
シャツの舌の滑らかな乳白色の素肌を見て、切原がうっとりとした声を上げる。
「アンタの裸、見たただけで、俺こんなになっちまったッス」
腰に、切原の下半身が押しつけられる。
固く漲った器官の当たる感触に、手塚は総毛だった。
「ここをね、……これからアンタの可愛いとこに入れるッスよ…」
切原が含み笑いをする。
「良い声で啼いて下さい……手塚さん」
---------カチャ。
ベルトの外れる音がして、はっとすると、切原が手塚のズボンをずりおろしていた。
「や、やめ……ッッ」
抵抗しようとしたが、足が動かない。
漸くのことで僅かに動かしたものの全く抵抗にもなっていず、かえって、切原がズボンを脱がす手伝いをしたような結果となってしまった。
「へぇ、手塚さんって、トランクスなんだ…」
「よ……せ……」
切原がズボンと共にトランクスまで押し下げてくる。
「ちょっと、どきどきするッスね」
嬉しげな声と共に、遂に下着ごとズボンを脱がされてしまった。
外気が、裸の下半身にひんやりと触れてくる。
冷房の効いた、冷たい空気が。
「…………ッ」
ぞくっと全身が戦慄いて、手塚は思わず喉を詰まらせた。
今の手塚は、上半身に僅かにシャツをまとっただけで、あとは何も身に付けていない状態だった。
「へぇ………」
切原の、感嘆にも似た声が耳に突き刺さってきた。
「……スゴイや…」
「よ、せ……」
「ねぇ、真田副部長、見て下さいよ。ほら、こんなに綺麗で…」
「……そうだな……」
呆然として見上げると、上から二人の男が、自分を見下ろしていた。
切原は欲望にぎらついた目をして、舌なめずりでもしそうな表情で。
真田は一見表情を変えないものの、瞳の奧に深く沈着した欲望を覗かせて。
「じゃあ、遠慮なくいただきますかね」
切原がにやりと呟いた。
真田は見学ですv
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