部長、大変です!
《18》













はぁはぁと肩で息をしながら、頭が痺れて半分死んだような快感の余韻に浸っていると、跡部の体内に深く入っていた真田が、顔を上げてゆっくりとペニスを抜いた。
ずる、という感覚と続いて中から熱い液体が漏れる感触に、思わず眉を顰める。
「大丈夫か?」
「あ、あぁ…」
真田が自分をじっと覗き込んでいた。
その瞳が心配そうな色を湛えているのを見て、跡部は苦笑した。
「すげぇ良かったぜ」
「……実は俺もとても良かった。…性交がこんなに良い物だとは、知らなかった。手塚の言うとおりだな…」
真田が額に張り付いた黒髪を払いながら、感激したような声で言ってきた。
「お前は本当に素晴らしい、跡部…」
「そ、そりゃどうも…」
手放しで喜ばれると、妙に気恥ずかしい。
真田の真摯な熱っぽい視線がくすぐったくて、跡部は顔を伏せた。
「跡部…」
脱童貞、という事で、感激が冷めやらないのだろうか。
真田が手を伸ばして跡部の顎を撫でてきた。
「お前が気持ちよさそうにしていたので、俺もほっとした。…それにお前の中は、すごく熱く、信じられないぐらい気持ちがよかった…」
「…も、もういいって。そういう事言われると恥ずかしいぜ」
「ほう、お前でも恥ずかしくなったりするのか?」
「おい、俺は元々真面目な性格なんだぜ?」
「それもそうだったな、失礼…」
口籠もりながら跡部が言うと、真田がくすっと笑った。
緊張が解けて、跡部は肩を竦めて自分から真田の唇に唇を押しつけた。
唇を強く押しつけ、舌を差し入れて口腔内をまさぐる。
まさぐっているうちに夢中になり、唾液を啜って舌を強く吸いあげる。
貪るように口付けを交わして名残惜しげに離すと、唇と唇に透明な銀の糸がつつっと伝った。
「跡部…」
真田の低いテノールが耳に心地いい。
(おいおい、なにうっとりしてんだよ、俺はよ…)
真田の太い腕が背中に回ってきて、抱き寄せられて跡部は困惑した。
「そ、そろそろ帰らねぇとな…」
なんだかこのままいい雰囲気になりそうなのが怖くなって、跡部は慌てて真田から離れた。
「……帰るのか?」
真田が瞬きをして残念そうに見つめてくる。
「あ、あぁ、そんなに長居してられねえよ。戻っていろいろ仕事があるからな?」
どうも背中がうずうずするようで落ち着かない。
真田の、感激の色が浮かんだ深い黒い瞳を見ていると、思わずふらふらと引き寄せられるような感じになる。
さすがにまずい。
「それじゃ俺、帰るぜ…」
そそくさとシャワーを浴びて身体の汚れを取ると、跡部は名残惜しそうに見つめてくる真田の視線から逃れるように、バッグをひっつかんで部室を出た。














が、部室を出て廊下を曲がったところで、跡部は突如後ろから腕を掴まれた。
あっと思う間もなく、そのままぐいっと引きずられ、階段の脇にある小部屋に連れ込まれる。
扉がばたん、と閉まってどさりと投げ出される。
そこは小綺麗な和室だった。
入り口から少し入った所に少々高くなった六畳程度の畳の部屋があり、その畳の上に投げ出された格好になって、跡部はしたたか肩を打ち付けて呻いた。
「なッ…」
抗議の声を上げようとするが、痛めた肩を上から掴まれてずきっと痛みが走り、声を詰まらせて呻く。
「跡部さん、……アンタ、すげえんスね……」
「……あァ?」
部屋は使われていないようで、窓にカーテンがかかっていて薄暗かった。
顔を振って見上げると、跡部を引きずり込んだのは、くるくるした癖っけの立海大の生徒だった。
(……切原赤也…か…)
跡部は睨みながら、頭の中で名前を再生した。
先ほど見学した試合も思い出す。
立海大の2年生の中では一番期待されているプレーヤーで、先ほどの試合でもその希有な才能が伺えた。
「まぁ、そう言うなって。真田だっていい思いしたみたいぜよ?」
不意に後ろから声が聞こえて、跡部はさっと頭を声のした方に向けた。
二人の男がいた。
こちらもさきほどテニスコートで見た人間だ。
---------仁王雅治と、柳生比呂士。
二人とも王者立海の選手らしく、落ち着いた、それでいて切れのあるプレーを見せていた。
「……おい、あまり手荒な真似はするな…」
更に反対方向から穏やかに注意を促す声が聞こえてきて、跡部は首だけ動かして声のした方を見た。
涼しげな雰囲気の背の高い男が、扉を静かに閉めて、すっと歩いてくる。
柳蓮二だ。
真田とはかなり仲がよく、ダブルスを組んだりもする人物。
昨年のジュニア選抜で一緒に合宿したこともある。
跡部にとっては真田に次いでよく知っている人物だ。
肩の痛みがひいて、跡部は肩を掴んでいた切原の腕を乱暴に振り払った。
「おい、なんの真似だよ?」
部屋に4人。
先ほどの切原や仁王の言葉からすると、この4人は、自分が真田とよろしくやってきた事を知っているらしい。
覗き見でもしたのだろうか。
「…何の真似といわれても困りますが。……跡部君、…真田君とだけでなく、私たちとも親睦を深めませんか?」
眼鏡の弦を押し上げながら、柳生が低い声で言ってきた。
「……真田とはいい感じでやっちょったようやのお? さすが、氷帝の部長さんや。経験豊富なようやなぁ。声も色っぽいし、……あの真田がまさか、男相手に盛るとはのう…」
一房、長くなっている脱色した髪をいじりながら、仁王が笑う。
「……見てたのかよ?」
跡部は仁王を見上げて睨み付けた。
仁王が瞳を細めて苦笑する。
「前々から、アンタには興味があったんよ。…氷帝の跡部景吾といえば、知らぬ者のいない有名人やからの? アッチの方でも、アンタに興味を持ってるやつは多いしのう?」
「それに、俺、越前から聞いたんすよ。アンタが青学とよろしくやったって話」
そう言われて背筋がぞくっと冷たくなった。
「…キモい事言うなよ」
どうやら、この4人は自分を犯したいらしい。
跡部は秀麗な眉をぐっと寄せた。
それにしても、青学から話が漏れていたとは……。
元々自分は外見が派手なせいか、あることないこといろいろと噂されているのは知っているが、越前から直接とはやっかいだ。
実際経験した人間からの話だったら、確実に信じるだろう。
げんに真田がそうだった。
(それにしても、どうして、俺はこういう役回りに……)
これでは、青学に行った時と同じではないか。
あの時、鳳に大変です、と言われて出向いていったのだが。
今回も、ジローに大変だと言われてやってきたら、案の定これだ。
(……なんでだ……)
などと眉を顰めたまま自問しているところを、切原にぐっと腕を掴まれた。
「まぁ、そういやな顔しないでくださいっすよ、跡部さん。……アンタ、ほんとそそるっすよね…」
青学の時は、気が付いた時には既に縛られていて身動きとれなかったが、今はそうではない。
跡部は渾身の力を込めて、切原を振り払った。
「冗談言ってんじゃねえ! 俺は帰るぜ」
「っと、それは困りましたね。跡部君。……アナタをこのまま帰すわけにはいかないんですよ」
背後から不意に声が聞こえ、はっと思う間もなく、跡部の腕は後ろ手に、ぎり、と拘束された。
















7人目その4