お気に召すまま 
《17》









-------------痛い。
焼け付くような鋭い痛みが、脳天をぎりぎりと刺してくる。
「おし、たり……」
真田のくぐもった声と熱い吐息が耳にかかる。
「あ、あ、あ……ッッ!」
ずずっと身体を真っ二つにして熱い切っ先がめり込んでくる。
そのまま深くまで差し込まれ、目の前が真っ赤になる。
「大丈夫、か……?」
顎を仰け反らせ苦悶している忍足の頬に、そっと大きな手が触れた。
真田が、忍足の頬を優しく撫でていた。
「……あ、あぁ、だ、大丈夫や…」
最初の貫通の痛みを堪えると、その後は深く埋め込まれた真田の肉棒が自分の体内で膨張して、ぴっちりと身体が繋がりあっているのを実感する。
とうとう、真田と………。
という感慨とともに、忍足は、
(…これで真田もオンナになるんやな…)
などと思って思わず嬉しくなった。
「…さなだ……」
(こんなに逞しいのに、オンナになるんか……どんなやろ……)
真田の背中に腕を回して抱きつくと、真田がふっと瞳を細めた。
「忍足、…とても気持ちがいい。お前は、素晴らしいな…)
「そ、そんな事言わんでもええって……」
真田の素直な賛辞に、顔が更に赤面する。
「すまんが、すぐにでもイってしまいそうなのだ。……動いていいか?」
「あ、あぁ、…ええよ、動いて。……激しくしてええって」
「…かたじけない」
こんな時までそういう堅い口調でなくてもいいのに。
(…でも真田らしいなァ…)
と頭の片隅で思った途端に、真田が堰を切ったように激しく腰を動かし始めた。
「あああッ……は、あ、く……あ、ああ、さな、だッ…んッッッ!」
大きなダブルベッドを壊すかの勢いで真田が忍足の身体を強く揺さぶり、内部奥深くまで貫き入ってくる。
脳天まで、快感と痛みと鮮烈な刺激が次から次へと送られてきて、忍足は何も考えられなくなった。
ただ、身体が感じる衝撃に、脳が支配されていく。
全身が熱く沸騰し、下半身がぐつぐつと煮えたぎって、その煮えたぎった中心に、真田の鋼鉄の肉棒が容赦なく打ち込まれる。
「ひ、んあッ……あ、…く、……い、いいッ……さなだッ……あ、あああッッッ!」
柔らかな女体をのたうちまわらせて喘ぐと、そこをぐっと抱き締められ、耳元に真田の熱く忙しい吐息がかかる。
「………くッ!」
低くくぐもった呻きが聞こえたかと思うと、骨が折れるほど強く抱き締められ、表現しようのない痺れと甘い疼きが全身を凌駕する。
下腹の奥深くに、熱い迸りが叩きつけられて、内部が熱く滾って蕩けていく。
「あ…………ッッッ!」
全身からどっと汗が噴き出てきた。
息を詰めていたせいか、目の前がすっと暗くなる。
はぁはぁと激しく息を吐き、しっとりと肌を湿らせて、忍足はぐったりとベッドに沈み込んだ。















全身が気持ちの良いお湯に浸かっているような快感にぼんやりと重い瞳を開けると、さらりとした黒髪が目の前で揺れていた。
怠い腕を上げてその髪を撫でると、真田が忍足の乳房に埋めていた顔を上げて、視線を合わせてきた。
(な、なんや、はずかし……)
真田の深い焦げ茶色の虹彩に、自分が映っている。
快感にすっかり流されて狂態を曝した自分を確認して、忍足は目許を赤らめて視線を外した。
「……とても良かった……」
真田が掠れた声で囁いてきた。
「夢のようだ。……性交がこんなに気持ちの良いものだとは、知らなかった…」
熱っぽい声音で耳朶に息を吹きかけられ、ぞくぞくと背筋が震える。
「…そ、そんなん誉めたってなんもでんよ?」
「忍足……」
よほど気持ち良かったのだろうか。
真田の感激したような声と、感謝なのか、しきりにキスを落としてくる仕草がくすぐったい。
このままずっと真田と抱き合っていてもいいぐらいだ。
-------------が、そうもしていられない。
セックスした後どのぐらいで身体が変化するのか分からないが、跡部の言によれば、真田の場合はすぐだ、という事だった。
(変化するとこ見てみたいけど、でもやっぱり怖いわ…)
突然身体がむくむくと変化するのだろうか。
その辺は全く分からない。
自分の場合は、朝起きたら既に変化していたのであって、夜の間にどのような変化をしたのか、自分でも分からなかった。
「な、なぁ……シャワー浴びてきたいんやけど」
「あぁ、そうだな……」
もそもそ口籠もりながら言うと、真田が頷いて身体を起こした。
ずるり、と膣からペニスが引き抜かれて、瞬時身体が震える。
ゆっくりと身体を起こし、ベッドから降りると、
「あ……」
とろとろ、と体内から熱い粘液が内股に垂れてきた。
「…どうした?」
「な、なんでもないって……じゃシャワー浴びてくるからちょい待っててや」
「あぁ」
内股を擦り合わせるように歩き、中から精液が垂れ落ちないようにしながら、忍足はよろよろとシャワー室に向かった。
シャワーをざっと浴びて出てくると、真田がベッドにゆったりと腰を掛けて待っていた。
「お待たせや。……中にバスタオルとか置いてあるからそれ使ってええみたいや」
「そうか、では使わせて貰うか……」
そう言って立ち上がり大股で部屋を歩く様子を横目で眺める。
男らしい、逞しい上背のある均整のとれた身体と、引き締まった腰。
さらりとした黒髪が歩くたびにゆれて額にかかるのも、意外な色気を醸し出している。
シャワー室に入っていった後ろ姿を見て、忍足はしみじみ感嘆した。
「かっこええよな……あれが女になるんか……」
不思議な気もする。
いったいどういう女になるんだろうか。
(俺とは違うやろなァ……)
などと考えてぼぉっとしていると、不意に部屋の扉がカチャ、と軽い音を立てて開いた。
「おい、忍足」
「あ、跡部…」
扉を開けてするり、と中に入ってきたのは跡部だった。
シャワー室の方を窺いつつ、にやにや笑って忍足を眺める。
「いやぁ忍足……お前凄かったぜ?」
「な、なんやねん…」
凄かった、とは自分でも自覚があるので、忍足は真っ赤になって俯いた。
「見ていた俺も空いた口が塞がらねえってな……お前にああいう素質があったとは、この俺様も気づかなかったぜ」
「…跡部、そういうからかうのやめや!」
「ははっ、すまねえ……つか、服着ろよ」
「あぁ、そうやな…」
跡部に言われてじんじんする身体をなんとか動かしながら、忍足は跡部が揃えてくれた女物の服の中から、部屋着のような楽なTシャツと短パンを選んだ。
「それにしても、お前本当に気持ちよさそうだったな。俺の時よりずっと悶えていたしな………妬けたぜ」
「な、なにあほな事ゆうてんねん!」
着替える忍足を見ながら跡部が嬉しそうに言ってきたので、忍足は顔を顰めた。
「あれは、慣れてきたからやろ? べ、べつに……」
「まぁ、いいって。お前が気持ちよさそうだったんで、俺も安心したぜ」
跡部が肩を竦めて掌をひらひらと振った。
「それより、忍足、お前はここにいねえほうがいい」
「…なんでや?」
「真田はすぐに女に変化すると思うからな。…そんときお前がここにいると、お前に騙されたとかそういう風に憤慨して、真田がお前に殴りかかるかもしれねえぞ?」
「そ、そうやな……」
女体は見てみたいのだが、あの真田が怒るところは見るのは………怖いかもしれない。
「その辺は俺がうまく誤魔化しといてやるから、お前は隣の部屋行ってろ」
「…あ、あぁ、そうやな。……じゃあ頼むわ」
なんとなく不安だったが、ここは跡部に頼んでしまうのが一番良さそうだ。
忍足は覚束ない足取りで、隣の部屋へ向かった。















跡部の部屋の隣は、客用の寝室らしく、どこぞの高級ホテル並の設備のある部屋だった。
入ってすぐ右側にしゃれた扉があり、開けてみると白で統一された白い洗面所とバスルームになっていた。
部屋は茶色系統の重厚な色合いで、大きなダブルベッドが設えてあり、ビロードの厚いカーテンが綺麗に纏められた窓際には、布張りのヨーロッパ製のソファとテーブルのセットが置かれている。
部屋は、壁に沿ってテレビやビデオ、それから小さな冷蔵庫やポットのセットまである。
本当にホテルに来たのか、と思わせるような内装だった。
テレビは画面が点いており、見ると、跡部の部屋が映っていた。
ちょうどベッドの所が映るようになっている。
(これで見てたんやな……)
ベッドが映るようになっているのでは、先ほどの自分の狂態は、余すところなく見られただろう。
そう思うと羞恥が込み上げてきて、かぁっと頬が熱くなった。
熱くなると、喉の渇きを覚えた。
冷蔵庫から清涼飲料水のペットボトルを取り出し、蓋を開けて喉に流し込む。
「ふぅ……」
冷たい水が喉越しよく、一気に飲んで息を吐くと、忍足はソファに深く腰掛けた。
画面を見ると、ベッドのシーツを跡部が取り替えているところだった。
(ああいう事もやるんや……)
跡部が清掃関係をしているのが珍しい気がして、忍足はくすっと笑った。
先ほどの激しい情事の余韻で、まだ身体が宙に浮いたかのように熱を持ち、特に下半身は痛みと快感の入り交じった疼きでじんじんしている。
肌も敏感になっているのか、椅子の布地が触れただけでもびくっとなるぐらいだった。
首を振って気持ちを静めようとしていると、テレビから声が聞こえた。
「……跡部」
真田の声だった。
忍足は息を飲んで、画面を見つめた。















次から真田女体受け編になります。忍足はちょっとお休み。