お気に召すまま 
《19》









……さすがに、女になっても真田だ。
鋭い眼光は衰えておらず、鷹のようなその視線に射られて、跡部は肩を竦めた。
「いやぁ、俺もびっくりしたんだがな……お前まで女になっちまうとはなァ?」
しらじらしく溜息を吐いて見える。
真田が拳を握りしめてわなわなと震えるのを横目で見て、内心でくすっと笑う。
震えるたびに、ゆさゆさと巨大な乳房が薄淡いピンク色のバスローブを左右に揺らし、突き出た乳首が微妙な円を描く。
(すげぇ、胸だ………)
胸だけではない。
はだけた鎖骨部分の日焼けした健康そうな肌や、後ずさった時に露わになった太腿が、むちむちと肉付き良く跡部を誘ってくる。
女になっても筋肉はきちんとついているようで、太腿はひきしまっていながらも、筋肉と脂肪が絶妙にバランス良くついていて、思わず膝頭を掴んで左右に割り広げたくなる。
中心はどうなっているんだろうか。
真田の………アソコは。
「跡部っ、きちんと説明しろ!」
食いつきそうな顔をしていたのが分かったのだろうか。
真田が唸った。
「あ、あぁ、……と、すまねぇ」
はっと我に返って跡部は無意識に鼻の頭を掻いた。
「…実はお前は大丈夫だと思っていたんだがなァ……」
「……なにがだ?」
「まぁ、話はちゃんと聞けよ…」
跡部は肩を竦め大仰なポーズを取って、溜息を吐いて見せた。
「…………」
真田がぎりっと自分を睨んでくるが、平然としたまま話を続ける。
「じつは忍足なんだが……女になったあとにな、男とセックスしねえと元に戻らねえらしいんだ。忍足、淫乱になってたって言っただろうお前。…あれは、男に戻るのにセックスしないと駄目なのを身体が分かっていて、自然と淫乱になるらしいぜ」
「……なんだ、それは……?」
「ほら、これ見てみろよ…」
と、跡部はあらかじめ用意して持ってきておいたものをズボンのポケットから取り出した。
プリントアウトした紙を折り畳んだものだ。
中には文章がびっしりと印刷してある。
「忍足の父親の説明だ。論文から引用してあるんだがな」
「………」
「これを読むと、動物実験の段階でだが、性別の変化を元に戻すには、変化した時点での性とは異なる性との性交渉が必須、とある。それも2体だそうだぜ? で、その相手となった方なんだが……約30%の確率で性別が変化してしまう事もある、とあるんだ。まさかお前がその30%に入っちまうとはなぁ……」
「……………」
真田がみるみるうちに蒼白になるのを、跡部は表向きは沈痛そうな表情をして眺めた。
勿論、書いてあることは嘘八百である。
先ほど真田と忍足の情事を眺めながら、跡部が隣の部屋で適当に捏造してパソコンで打ったものだ。
「俺はならなかったからな、お前も大丈夫なはずだと思ってたがなぁ……。女になりやすい体質だったのか? 先に言っておかなくて本当にすまねェ…」
まぁ、本当は跡部自身も数日後には女に変化してしまうのだが、それを打ち明けると真田に報復されそうだったので割愛する。
「……ど、どうすれば、戻るんだ……」
呆然としたまま真田が呟く。
跡部は紙片を覗き込む振りをした。
「二次感染についても同様の処置、とあるぜ。つまりお前も男2人とセックスすればいいって事だ」
「………なんだと……」
「あ、二次感染した個体については、その相手…つまり三次感染だな、それは全く可能性がないそうだぜ。つまり、お前から移るって事はねえってわけだな?」
などと適当に話をこしらえている事は、真田は全く気づいていないようだった。
もっとも半分は真実の話が含まれているから、全くのでたらめというわけでもない。
「……では俺は……誰か2人と……」
「あぁ、そうだな。……すまねぇなぁ、面倒に巻きこんじまって…」
呆然としている真田に深々と頭を下げると、跡部はがっくりとしている真田の肩を抱きかかえるようにしてソファに座らせた。
すぐにでも押し倒して、バスローブを引き剥いで裸体を見てみたい所だが、そこはぐっと我慢して、そんな感情がある事を真田に悟らせないようにする。
真田は、というと、跡部の言葉がまだ信じられないのだろう、蒼白な表情をしたままで、ソファに力無く身体を沈ませている。
項垂れて額に手を当て、顔を振り、ふと、自分の盛り上がった巨大な胸を視界に入れてしまったのだろうか、はっと息を飲んで、顔を背け、それから恐る恐る目を動かして、バスローブをはち切れんばかりに盛り上げている乳房を恐ろしげに眺めている。
跡部はこっそり含み笑いした。
「すまねえな、面倒に巻きこんじまって。だが、誰か男2人とセックスすれば、すぐに戻るはずだから、安心してくれよ」
「…安心など、できるものか……」
真田がぎり、と跡部を睨んできた。
長い睫を瞬かせ、ほっそりとなった眉を寄せ、厚い唇を噛んで睨んでくる風情が、怖いどころか、反対にたまらなく色気がある。
ズキン、と下半身に直撃が来て、跡部は思わず顔を顰めた。
-----------まずい。
まさか、真田がこんなに魅力のある美味そうな女になるとは思っていなかったので、心の準備が足りなかったらしい。
ぼろを出さないように、慎重に事を進めねば。
跡部は心の中で自分に活を入れた。
「まぁ、そう言われると俺も返す言葉がねえんだが……」
自分でも気落ちして、申し訳なく思っている、というような態度で、真田に頭を下げる。
「……いや、いい…」
真田があきらめたようにぼそり、と言葉を発した。
「起きてしまったことは戻せん……だが……」
「……誰か、お前としてくれそうなヤツいねえのか?」
「…そんな事頼めるか…っ」
真田が盛大に眉を顰めた。
「でもよ、ヤラねえと戻らないんだぜ?」
「…………」
「…俺がしてやってもいいんだが……お前、俺じゃいやそうだしなァ……」
「…い、いや、その………」
跡部が哀しげに呟いてみせた言葉に、真田が反応した。
困惑したように顔を上げ、眉間に皺を寄せ考え、口許を手で覆って首を捻り、悩んでいる。
「俺で良ければ、いくらでも相手してやれるんだけどなァ……」
跡部は更に押してみた。
あくまで理性的に、内心の欲望を悟られないように、落ち着いた声で真田に言ってみる。
真田が溜息を吐き、項垂れて額に手を当てた。
「…とりあえず、まず、お前に頼むしかないか……」
そう言って更に溜息を吐く真田を見ながら、跡部は思わず含み笑いを零した。
(おっと、見られたらまずいぜ)
慌てて眉を寄せて自分も悩んでいるように見せる。
「お前さえ良ければ、俺は喜んで協力するぜ?」
協力、ときたもんだ、しらじらしいにもほどがある……などと心の中で思いながらも、真田の肩をそっと抱き寄せる。
ぎく、として真田が顔を上げてきた。
接近して眺めると、乳房の大きさが更に跡部に迫ってきた。
すっきりとした顎の線と、細く長い首筋。
日焼けした小麦色の肌の艶やかな様子に、思わず首筋に歯を立てたくなる。
半開きになった厚い唇から覗く真っ白い歯や、ちらりとのぞく紅い舌がまた扇情的だ。
ぽってりとしたその唇を、自分のそれで覆いたい。
近くで見ると、吸い込まれそうな鋭い視線も、長い睫が被さり、えも言われぬ風情を醸し出している。
切りそろえられた前髪が、男の時と同じ髪型なのに、なぜか艶めいてぞくり、と跡部の肌を粟立たせた。
-----------それにしても。
首筋から、肩への滑らかな線をたどって目を移すと、パスローブの中で窮屈そうにむっちりと盛り上がった二つの山と、バスローブをそこだけ押し上げている山の頂の蕾。
深い谷間はむちむちと合わさり、指の一本も入りそうにない。
「……じゃぁ、ベッドに行くか……」
できるだけ、冷静な声を出したつもりだったが、掠れた。
真田が眉を顰め、沈痛な面持ちで頷く。
「俺は寝ているだけで、いいか? お前が適当にやってくれ…」
随分もったいねえこと言うんだな……と思ったことは顔に出さず、跡部は神妙な表情で頷いた。














立ち上がると、真田の身長は、やはり縮んでいるようだった。
とは言っても、女になった忍足よりは、4,5p高いだろうか。
女になっていても、跡部より少々低いぐらいだ。
微妙に身体のバランスがとれないのか、歩く姿がどこかおぼつかない。
歩くたびに、巨大な胸がゆさゆさと揺れるのが、気になるらしい。
眉を顰め、信じられない、というように顔を振ってふらふらと歩いて、ようやくベッドに辿り着く。
後ろからついていった跡部の目には、真田のむっちりとした尻のラインもよく見えた。
歩くたびに左右に揺れる、形の良い、大きな尻。
(…………)
下半身がまたズキン、と痛んだ。
すっかり勃起しきって、ズボンの布地が押し上げられてしまっている。
(おい……)
自分で自分を叱咤しながらも、ぞくぞくとした悪寒にも似た欲望が血管をかけめぐる。
殊更表情をしかめてそんな感情を表に出すまいとしていると、真田がベッドに溜息を吐いて腰掛けた。
「……どうするんだ?」
「…そうだな。とりあえず寝ててくれ」
「………」
真田が眉をぐっと寄せ、唇を歪めた。
「寝ているだけでいいのだろうな?」
















真田は結構騙されやすいと思います(笑)