コンソレーション 《1》 |
「終わったー…」 テニスコートに沸き上がる歓声。 関東大会、コンソレーション。 オレたちは埼玉の緑山中学校と対戦していた。 ベスト4進出をかけて東京の不動峯中と対戦し、残念ながら準決勝に進めなかったオレち山吹中は、同じく準々決勝で負けた緑山中と、全国大会出場権をかけて闘っていた。 ここで勝たないと、全国大会へは行けない。 接戦だった。 オレまで来て、次は室町まで回るか、という所でなんとか勝利した。 ネットを挟んで握手して、大きく息を吐く。 良かった。 亜久津が抜けて戦力が半分に落ちた、とか言われるのが嫌で、頑張った甲斐があったかな。 などと考えながら、応援してくれた観客席の方を見てにっこりと笑おうと思って、 「……………」 そこに、来るはずのない人物を見つけて、オレは笑おうとした顔が一瞬強張った。 見上げた観客席の一番後ろに、跡部が立っていた。 氷帝の半袖のシャツにだらしなくネクタイを緩めた格好で、ずりさげたズボンのポケットに両手を突っ込んで立っている。 オレが気づいたのが分かったのか、唇の端だけちょっと上げてバカにしたように笑ったのが見えた。 顎をしゃくって、付いてこい、って言う感じでオレをじろっと見ると、オレに背を向けてさっさと歩き出す。 ……どこに行くんだろう。 レギュラー全員コートに並んで挨拶をしながら、オレは内心気が気じゃなくて、跡部の姿を横目で追っていた。 跡部とは、ここのところずっと会っていなかった。 もう1ヶ月ぐらいになるかな。 最後に会ったのは……跡部の家だった。 携帯に連絡があって、帰りに寄っていけって言われて、わざわざ遠回りをして跡部の家に行った。 行って何をするって、……ナニ、しただけ。 行ったら乱暴に部屋に連れ込まれて、そこでシャワーも浴びないでセックス。 で、終わったらあばよ、だって。 でも、そういうのが跡部のいつものやり方だから、オレも特に不満も言わずにそのまま帰ってきた。 そのあとすぐに関東大会になって、氷帝学園は一回戦で青学に負けた。 見ていたオレもびっくりしたけど。 跡部はどうだったんだろう。 オレたちは勝って順調に準々決勝まで来て、そこで不動峰に負けた。 けど、今日コンソレーションに勝ったから、全国大会に出場できる。 けれど、跡部はもう試合に出られないんだよな…。 そんな事もあって、オレからは連絡しずらいし、当然跡部からも連絡なんてこなかったので、ずっと会ってなかったってわけだ。 今日のコンソレーションだって、まさか跡部が見に来ていたなんて知らなかったので、オレはどぎまぎした。 なにか、跡部に馬鹿にされるような、ヘマしてなかったかな。 試合内容を振り返る。 別に……大丈夫だよな。 自分に言い聞かせながらコートを出て、部長の南に、用事があってすぐに帰らなければならなくなった、と言う。 「え、これから反省会とかやるんだぞ?」 と南は言ったし、オレだってちゃんと覚えていたけれど、今はそれどころじゃないんだ。 だって、跡部が待ってる。 観客席を出たあたりにもう行ってしまっただろうか。 早く行かないと。 「急用でさっ、メンゴ! ちゃんとあとでオレも報告するから、ね、みんなに宜しく言っといて」 南が何を言おうと耳を貸さず、オレはそれだけ言うと、着替えもしないままスポーツバッグとラケットをひっつかんでその場を後にした。 ここのテニスコートの観客席は、2階席と、1階席と二箇所降り口がある。 跡部は、2階席の後ろの方にいたから、……きっと向こうから降りたに違いない。 オレは2階席の降り口の方に走った。 見ていた人はもう殆ど帰ってしまったらしく、人影がまばらだった。 500メートルほど走って、2階席の降り口付近に行って、周りを見回す。 人が数人まだ歩いていたけれど、跡部の姿はなかった。 ど、どこいっちゃったのかな……。 きょろきょろしていると、突然襟首を捕まれた。 「なにバカみてえにキョドってんだよ」 「あ……」 慌てて後ろを振り向くと、跡部が立っていた。 「あ、とべくん、……どこにいたの?」 「テメェの目は節穴かよ」 跡部が肩を竦めてちっと舌打ちした。 「あそこにいて、テメェのまぬけ面拝んでやっていたぜ」 と指さした所は、降り口から幾分離れた立木の陰だった。 大きな落葉樹が、日差しを遮って涼しげに立っている。 暗いので、明るい中を走ってきたオレには見えなかったってわけだ。 節穴ってのはないじゃん、とか思ったけど、オレは黙ってへらへらした。 とにかく、跡部がオレの試合を見に来てくれていた。 それだけでもうなんていうか、感激だったから。 わざわざ休みの暑い日に、炎天下で見てくれてた。 「跡部君…」 気持ちが言葉に出ていたのか、跡部が秀麗な眉を顰めた。 「おい、気色悪い表情してんじゃねえよ…来い」 「あ、うん」 どこへ行くんだろう。 ぐい、っと跡部に腕を捕まれ、引きずられるようにして、オレは跡部の後に続いた。 「跡部君、どこ、いくの?」 関東大会の会場であるテニスの森公園は広い。 テニスコートも何面もあるし、使われていないコートも勿論ある。 跡部がその使われていない方にぐんぐんとオレを引っ張っていくので、オレは訝しんだ。 試合でも、するとか? --------違うよね。 ここは許可がないと使えないから、勝手に使用したりできない。 「うるせえな、テメェは黙ってついてくればいいんだよ」 なんだか、怒っているようなので、オレは黙った。 跡部が機嫌悪いのはしょっちゅうだけど。 久しぶりに会いに来てくれたって喜んだのに、オレは膨らんだ心がしぼむような気がした。 なんだろう。 会いに来てくれたのに、オレを見たら機嫌悪くなったのかな…。 いろいろな思いが頭を駆けめぐる。 今までずっと会ってなかったから、緊張もあった。 会ってない間………というのは、跡部が関東大会に負けてからだから、プライドの高い跡部がどんな気持ちでいたのか、考えると、胸が苦しくなった。 頭の中でぐるぐる考えている内に、跡部が立ち止まった。 「…跡部くん?」 誰もいない無人にコートの隣の、誰もいないトイレ。 不意に乱暴に腕を引かれて、つんのめるようにトイレに入る。 オレはそのまま個室に連れ込まれた。 「…んくッ、あ…は、あぁ……いた、…いたいよッッ……あとべ、くんッッ」 「うるせえな、黙ってろよ!」 バシっと後頭部を殴られ、目の前に火花が散る。 アナルが裂けるように痛くて、内臓が迫り上がってくるような吐き気がする。 俺は、跡部じゃなくて……ラケットに犯されていた。 個室に連れ込まれた途端、跡部に壁に押しつけられ、ジャージを乱暴に引き下ろされた。 抵抗する気もなかったから、そのまま跡部のしたいようにって思ったんだけど。 でも、剥き出しになった尻に、ぴた、って冷たい無機質な堅いものがあてられて。 ぎょっとして振り向くと、それはバッグに入れていた、ラケットのグリップだった。 「跡部くん!」 思わず叫ぶと、頭をがしっと壁に押しつけられた。 「しゃべんな…」 「で、でも、無理っ! そんなの入らないってば!」 「やってみなくちゃ分からねぇだろ、テメェのここは、なんでも入りそうだしなぁ?」 「なんでもって……無理だよっ。いくらなんでも、そんな堅くて大きいもの、入らない!……あぁぁッッッ!」 でも、跡部は俺の言う事なんて、全く聞いちゃいなかった。 ペッと手に唾を吐いて、それで言い訳程度にグリップの先を濡らし、回してねじこんでくる。 -------結構、入るもんなんだ。 絶対無理だと思っていたのに、切っ先がずぶっと入ると、後は跡部の力に任せて冷たい異物が腸壁を押し広げて侵入してきた。 脳に激痛が駆け上り、オレは頭を仰け反らせて呻いた。 トイレの薄暗い天井がぐるぐる回って視界に入る。 オレのアナルもバイブとかいろいろ突っ込まれるのは経験済みなんだけど……さすがにラケットは堅いよ。 堅くて、ごつごつしていて、めり込んでくるたびにずきん、と激痛が背骨を駆け上る。 血も、出たのだろうか。 なんだか鉄の匂いが立ち上ってきた。 オレはもうわけが分からなくなって、壁に手を突き崩れ落ちそうになる身体を支えて、少しでもラクになるように、と尻を跡部に付きだし、ラケットが入りやすいようにした。 「ふん…」 跡部が鼻を鳴らして笑い、押し込んだラケットを乱暴に抜き差ししてくる。 「くっはぅ……あっ……いたッッ…んぐッッ…!」 ごりごりした先端が前立腺に当たるのか、痛くて死にそうなのに、俺のペニスはすっかり勃起していた。 ラケットの衝撃で尻が動くたびに、ペニスも揺れる。 「いい眺めだぜ、千石…」 後ろで跡部が笑っているのが聞こえる。 (跡部くん……) オレは、なんだか哀しくなった。 別に、いいんだ。 跡部君が、したいなら。オレ、なんだって付き合うけど。 でも、……やっぱり、胸が痛いよ。 どうして、こんな事するの……? 「ほら、イけよ」 跡部がラケットの角度を変えて俺の感じる部分を集中して責めてきた。 「あ、くッッ!」 責め立てられて、目の前が暗くなる。 脳裏で閃光が散り、電撃が走り抜けた。 オレはトイレの灰色の壁に向かって、思いきり精液を飛び散らせた。 どろり、と筋を作って垂れる白い粘液と、篭もった匂い。 激しく肩で息をしながら、オレは目を瞑った。
久しぶりにあった二人という設定です。 |