部長、大変です!
《23》













(………)
立海に言ってから数日後、跡部は難しい顔をして氷帝の部室で悩んでいた。
「……なんや、どうしたんや、跡部?」
重厚な机に頬杖を吐いて、溜息を繰り返す跡部に、忍足が首を傾げる。
樺地が運んできたお気に入りの紅茶も、半分も口がつけられていない。
「いや、別に……」
いくら親しい友人とは言っても、忍足に悩んでいる理由を言うわけにも行かない。
というか、氷帝の面々には誰にも言えない。
跡部は立海大附属中より戻ってきてから、いろいろと考えていた。
自分は、……ついこの間まで夢にも思わなかった事だが……もしかして、男にヤられるのが好きなのではないか、とか。
そういう事が大好きな身体なのではないか、とか……。
女性と経験した事もないのに、すでに-----ここで跡部は指折り数えてみた----11人もの男とやってしまった。
11人というのも中学生にしては相当問題有りな気もするが、それよりも全員男というのが問題だ。
「………」
しかも最後の方は自分から誘っていた。
手塚や真田との情事を思い出すと、下半身がびくっと疼く。
慌てて妄想を打ち消そうとするが、脳裏には相手の身体や表情、入ってきた時の衝撃や甘い痛みなどが再現され、跡部は思わずぶんぶんと顔を振った。
「…体調悪いんやないの?」
「あ、あぁ、……そうかもな…」
隣に忍足がいるのを失念していた。
ほんのり頬を上気させた様子を見て、忍足は自分が風邪でも引いたのではないかと思ったらしい。
間違っても、自分が男とのセックスを思い出して興奮していた、などとは思わないだろう。
自分だって信じられなかった。
氷帝学園でも、跡部は真面目な優等生の部類だったからだ。
外見が派手なのは遺伝だからいたしかたないとしても、根は固くて真面目な普通の中学生の筈だったのだが---------------。
(うだうだ考えてもしょうがねえんだが…)
あとは俺がやっとくから、跡部は先に帰った方がいいで?」
忍足が心配そうに声をかけてくる。
「じゃあ、頼むぜ」
熱っぽくなった身体が抑え切れそうにないのが分かって、跡部は内心の火照りを知られないように素っ気なく返答し、下校した。















自宅に戻り、そそくさと自室に閉じこもって、制服を脱ぐ。
部屋に隣接しているユニットバスに入り、シャワーを熱めにして思いきり全身に浴びる。
がしがしと頭を拭きながら全裸のまま部屋に戻り、跡部はごろり、とベッドに横になった。
夕方だがまだ外は明るく、淡い銀灰色のカーテンごしに夕方の光が柔らかな色調になって流れ込んでくる。
(…………)
手をそろりと伸ばして熱を持っている部分を握り込むと、ぞくぞくっと背筋を快感が駆け上り、跡部は思わず背中を仰け反らした。
「んッ……は、く………ッッ」
ペニスを握りしめ、強弱を付け、指を上下に動かす。
張り詰めた先端からぷくり、と透明な水玉が盛り上がり、とろりと垂れてくる。
それを指に絡めて更に亀頭から下の括れを指で擦ると、息も止まるほどの甘い戦きが全身を犯してくる。
「くッ……うん……ッッ……ッ!」
力を入れて扱くと、腰が無意識に細かく震え、耐えられない疼きにベッドがぎしぎしと軋む。
---------だが。
「………たりねぇ…」
ペニスを扱くだけではどうにももどかしかった。
それだけでも十分気持ちが良いことは良いのだが、何か根本的に、……もっと重要な何かが足りなかった。
……こんなもんじゃない。
本当の快感は………不二や手塚や真田にやられた時の快感はこんなもんじゃ……。
……いらいらした。
後ろが、疼いた。
--------欲しい。
後ろに、ズシン、と重く体積のある、熱くて固いものが………。
それが入ってきて、内部の繊細な感じる部分を突き上げてくる時の、腰全体が溶けてしまうような、例えようもない快感を思い出して、跡部は息を飲み、身体を戦慄かせた。
……駄目だ。
前だけでは、もう我慢できない。
誰でもいいから、後ろに突っ込んで欲しかった。
…………と思ってしまって、跡部は蒼白になった。
やはり。
(俺はインランなのかよ……)
ベッドに突っ伏して、深い溜息を吐く。
身体の疼きは止まらない。
首を振ってベッドに顔を埋め、息を止めて顔をシーツに擦りつけ、更にシーツをぎゅっと掴んで皺を付けて、……どうしようもなくなって跡部は立ち上がった。
壁際に沿って置かれている重厚な家具の引き出しを乱暴に開ける。
血走った目で中を見回し、
「……くそッ」
と悪態を吐きながら、跡部は引き出しから目に付いた小さなスプレー缶を取り出した。
スポーツで筋肉を痛めた時などに使う、携帯用のスプレーだ。
もうなんでも良かった。
この身体の疼きを沈めてくれるものなら。
缶を握りしめてベッドに戻ると、それを口に突っ込んで唾液で濡らす。
そうして唾液でべとべとにしたそれを、跡部はベッドで四つん這いになると、無様な格好を晒すのもいとわず、それを肛門にぐっと押し当てた。
「…ううッッ!」
缶は、当然の事だが、堅くて冷たかった。
今までそこで受け入れていたペニスのように、熱くも、弾力のある肉でもない。
無機物の容赦ない堅さが、跡部の柔らかく潤んだ入り口を容赦なく広げようとしてくる。
「くそッ!」
左手に缶を持ち替えると、跡部は空いた右手で自分のペニスを掴んだ。
まるでかたきでも取るかのように、ペニスをごしごしと乱暴に扱く。
忽ち快感で頭が霞み、肛門の括約筋が緩んだところに、跡部は思いきり力を込めて、缶をずぶずぶと突き入れた。
「ううう………ッッ」
息が止まる。
無理に入れた缶の円筒形の切っ先が、鋭く内壁を抉ってくる。
「あ、あ、あぁッッ……!」
一瞬脳天まで電撃が突き抜けた。
背筋が海老のように反り返り、次の瞬間、跡部は自分の手の中に白濁を勢いよく迸らせていた。















「…………………」
乱暴に後始末をすると、ふぅ、と深く息を吐きながらベッドに沈み込み、頭を枕に擦りつけて、跡部は形の良い眉を顰めて力無く首を振った。
今日の、まるで発作のような熱はなんとか鎮めることができたが、次は自信がなかった。
ヤリたくなったら、誰でも誘ってしまいそうで怖かった。
今まで15年、まぁ外見が派手なせいでいろいろと誤解はされていたが、実際には跡部は真面目で勤勉に生きてきた。
それなのに、異物を体内に突っ込んで自慰をするような人間になってしまったとは----------。
(どうすんだよ、俺……)
自分の身体に自信がない。
また興奮したら、どうしよう。
……今だってとりあえず性欲処理したものの、はっきり言って跡部の身体は満足した、というには足りなかった。
枕を掴んで顔を擦りつける。
まだ、足りない……。
体内奥深くまで、身体全体を串刺しされるぐらいに、堅いものが欲しかった。
骨が折れるほど強く抱き締められて、熱い吐息を感じながら貪られたい。
(……おい、ほんとにまずいぜ……)
冗談ではなく、跡部は狼狽した。
また身体がずくん、と疼いてきたのだ。
(おいおい、冗談じゃねえぜ。もう寝ねえと。明日学校早く行って勉強するんだろうが……)
と自分を叱咤して布団を頭まで被る。
身体の奥底に点いた火をなんとかしてもみ消そうとし、深呼吸をしたり、目を閉じて気分を落ち着かせようとする。
下半身が、爛れたように熱かった。
熱くて、とろとろに溶けようとして、うずうずとしている。
(誰か………)
「駄目だ、寝るんだ!」
跡部は布団に潜り込んでぎゅっと目を閉じた。
















相手なし期間中