部長、大変です!
《24》













結局悶々としたまま夜中過ぎまで眠れず、次の日の跡部は寝不足といらいらで非常に機嫌が悪かった。
悪いのが分かるのだろう、クラスメイトもあまり話しかけてこなかったし、部活でも部員達が跡部を窺うように遠巻きにしていて、近寄って来なかった。
もっとも話をしても不機嫌さが滲み出るだけなので、跡部もその方が都合が良かった。
「…どうしたん?」
忍足が部員を代表してか話しかけてきたが、ぎろりと睨んでむすっと返事もしないでいると、さすがに気まずそうに頭をかいて、部室から出て行ってしまった。
----------それにしても、本当にこのままではまずい。
誰でもいいから襲ってしまいそうだった。
跡部は内心かなり狼狽していた。
今まで品行方正で、非の打ち所のない人間として生きてきたのに、こんな事では……
……とは思っても、そんな理性よりも、身体の渇きの方が切実だった。
このままでは、ダメだ。
とにかく誰か………。
誰か、自分の相手をしてくれそうな人間を確保するしかない。
が、いったい誰に………。
今まで自分を抱いた相手を思い浮かべる。
こちらから頼めそうなやつといえば、手塚か真田ぐらいか……。
だが、二人とも真面目で誠実な人間だ。
自分の性欲処理に付き合わせたくなかった。
越前あたりならいくらでも誘えそうな気はしたが、さすがにあの越前なんかに身体をやすやすと許して溜まるか、とそこまでは跡部のプライドが許さなかった。
(くそっ……!)
こんな状態では、部活もおちおちできやしない。
結局具合が悪いということで部活を途中で中断し、背中に忍足や樺地の視線を感じながら独りでさっさと学校を抜け出してしまった。
俯いて歩きながら口の中で悪態を吐く。
悪態を吐いたからといって、身体の火照りが治まるわけではない。
それどころか、下半身が歩くたびに疼いて、肛門の中がうずうずと痒くなるようだった。
媚薬でも盛られたように、身体の芯が燃えている。
いや、媚薬よりもたちが悪い気がした。
何も盛られていなくても、こんな風に平日の日中から盛っている俺は、一体なんなんだ。
どうしてこんな身体になってしまったんだ、
………いや、今はそんな事よりも、切実な渇望があった。
-----------誰でもいい。
俺の後ろに太いモンをぶち込んで、俺をめちゃくちゃにしてくれ……っ!


「……跡部じゃないか?」
不意に背後から声が掛けられて、跡部ははっとして顔を上げた。
















振り返ると、ほぼ坊主のような短髪の、目つきの鋭い学生が立っていた。
「………たちばな……」
意外な人物に、跡部は思わず名前を呟いた。
「珍しいところで会ったな。氷帝学園からは随分遠いと思うが、こっちの方に用があったのか?」
そう言われて慌てて周りを見回してみると、確かに周囲の景色に見覚えがない。
どうやらいつのまにか違う区まで歩いてきていたらしい。
悶々として俯きながらひたすら歩いていたので、氷帝学園のある区や自宅を通り越して、不動峰中の方まで着てしまったようだ。
「……別に……。お前はなにしてんだよ?」
「なにと言われても、学校から帰ってきた所なんだが」
と言われて橘を見てみると、確かに学校帰りのようで、ガクランに大きなテニスバッグを背負っている。
「俺の家はここなんだ」
指さされた小路の奧を見てみると、跡部の家とは比べものにならない小さく庶民的な二階建ての家が建っていた。
敷地は60坪ぐらいだろうか、こじんまりとしたブラウンの外観の木造二階建てに、小さい庭がついている。
「へぇ……」
跡部の知っている友人の家といえば、忍足の豪華なマンションや手塚の重厚な日本家屋ぐらいだったので、跡部には目の前の庶民的な家が新鮮だった。
「じゃあな?」
手を上げてその小路へ入っていこうとする橘に、家をぼんやりと眺めていた跡部ははっとした。
「ちょ、ちょっと待てよ!」
「……なんだ?」
「いや、その……」
橘が振り返って自分を見つめてくる。
(こいつでいいじゃねえか……!)
跡部の頭の中に突如その言葉が閃いた。
何がいいんだか分からないが、今の状態を何とかできそうな唯一の人物だ。
普段なら絶対考えそうにない思いつきだが、とにかく今の跡部にとって、相手をして貰えそうな人物、というだけで眩暈がするほど魅力的な人物だった。
なんてうまい具合に、相手をして貰えそうな人物がわいて出てきたんだろうか。
橘なら口は堅そうだし、同じテニスの仲間までもあるし、それでいてそんなに知り合いでもないから、後腐れがない。
考えてみると、これほど好条件の人間もいないかもしれない。
そう思ったら、自分が非常に幸運な気がしてきた。
本来ならば、今日は自宅に帰ってまた悶々と独りで火照った身体を持てあまし、いらいらして過ごさなければならない所だった。
それが、ぼんやり歩いていたせいで、なぜだか橘に会えた。
こんな幸運を手放して溜まるものか。
ここはなんとしても、橘を……!
「なぁ、お前のうち、誰かいるのか?」
ごくりと唾を飲み込み、勢い込んで聞くと、橘が不審げに眉を寄せた。
「いや、両親は夜遅くならないと帰ってこないし、妹も友人宅で遊んでくるといっていたから、遅いだろう。俺は今日は家族の夕飯を作る事になっているんで、早めに帰ってきたんだ」
そう言って、手に持ったポリエチレンの買い物袋を跡部に示して見せる。
「……夕飯、お前が作るのか?」
「うちでは順番制なんだ。結構美味いと自分では思っているけどな」
と言って微笑する様子が結構爽やかで、跡部は下半身がじいんと疼いた。
なかなか悪くない。というか、かなり、イイ。
どちらかというと、真田や手塚タイプか。
いや、あの二人よりは柔らかそうだが、…そういや、九州にいた時は金髪だったよな、…という事はかなり遊んでるかもしれねえな……。
女とかはもう経験済みだろうな……。
昨年全国大会で見た、獅子楽虫時代の橘の様子が脳裏に思い浮かんだ。
金髪をライオンのように逆立てて、鋭い視線で周りを睥睨していた所を、遠くから見ただけではあるが、いかにもワイルドで、いろいろと経験していそうな感じだったのは覚えている。
今はすっかり真面目で品行方正そうに見えるが。
(結構、上手かもしれねえな…)
そう思うと、股間がずきりと痛んだ。
肛門がうずうずする。
この場で押し倒して、無理矢理勃起させて上からのし掛かって、うずうずする肛門に、橘の堅く太いモノを入れてしまいたくなる。
今までそんな目で見たことがなかったから全く想像しなかったが、そういう目で見ると、橘はかなり美味そうだった。
考えただけで、下半身に血が集まり、欲情で目の前が霞むような気がした。
「…じゃぁ、俺は夕飯作らなければならないから」
「……ちょっと待てよっ…!」
「……なんだ?」
「とりあえず、お前んちに行っていいか?」
「………お前がか?」
「あぁ」
「……別に、構わないが……」
思いもかけない申し出だったのだろう、橘が眉を寄せて首を傾げる。
「じゃあ、行こうぜ!」
しかし、そんな橘に有無を言わさずがしっと腕を掴むと、跡部は引きずるようにして橘宅へ向かった。
















12人目その1