お気に召すまま 
《31》











暫く放心していたらしい。
はっと気が付いて目を開けると、いつの間にか辺りはすっかり薄暗くなっていた。
瞬時自分が何をしていたのか思い出せなくて、柳は顔を上げて窓を見上げ瞬きをした。
ぼんやりとした頭を振ると、だんだんと思い出してくる。
(そうだ、俺は弦一郎と……)
思い出して慌てて下を向く。
----------と。
「……弦一郎…」
自分の身体の下には、筋骨逞しい男の身体があった。
柔らかくむっちりと胸に当たっていたあの巨大な乳房はすっかり消え、乳房があった所には、盛り上がった堅そうな胸筋と小さな乳首が、静かに呼吸に合わせて上下している。
いつのまに男に戻ったのか。
狼狽して身体を起こすと、下半身は……先ほどまで自分の性器が入っていたはずの、あの熱く濡れた部分もすっかり形を変えていた。
黒々とした陰毛が渦を巻き、その中心には、自分のものよりも大きく重そうなペニスが垂れ下がっている。
思わず細い眉を寄せて、柳はそこを眺めた。
自分が先ほど出したものは、一体どこへ行ってしまったのだろうか。
挿入したまま射精した所で意識が遠のいた気がする。
しかし、今は自分のペニスは外に出ていた。
身体を起こし、真田がまだ意識を取り戻さないのをいいことに、真田の引き締まった太腿を両手で拡げてみる。
暗くてよく見えないが、真田の大きなペニスから、その下の陰嚢、更には奥まった肛門あたりまで、白濁でべとついている。
(……俺のか…?)
もっとよく見たくなって、柳は立ち上がると、壁際のスィッチを押した。
天井のライトがぱっと灯る。
「う、ん……」
その灯りで意識を取り戻したのか、真田が眩しげに眉を顰め、掠れた声を出した。
「気が付いたか?」
無意識に手を翳して光を避けようとしている所に声を掛けると、真田がパチパチと瞬きをした。
「……あ、あぁ…」
とは返事したものの、まだ状況がよく分かっていないらしい。
ぼんやりとしたまま顔を巡らせて瞳を眇めて柳を見上げてくる。
「………っ、蓮二っ!」
不意に思い出したらしい。
急に大声を出して身体を起こそうとしてきたので、柳はその真田の身体をそっと抱きおこした。
「む…」
起き上がって身体に違和感を感じたらしい。
太い眉を顰めて自分の身体を見下ろし、息を飲む。
「………」
「戻ったようだな、弦一郎」
「そ、そのようだな……」
さすがに自分の身体の変化に驚いているらしい。
上擦った声で少々度持った様子がいつもの真田に似合わず可愛らしい感じがして、柳はくすっと笑った。
「弦一郎……気分はどうだ?」
「う、うむ…」
まだ戸惑っているらしく、自分の身体を眺めて困惑している。
「………」
「どうした?」
「いや……」
自分の足が開かれたままなのに気づいたようで、首を傾げながら、己の股間を覗き込もうとしているのを見て、柳は真田の膝を掴むと、そのままぐっと拡げた。
「おいっ、蓮二?」
「ここがどうなっているのか、気になるのだろう、弦一郎……」
「うむ…」
「実は俺も気になっているのだ。先ほどまで俺が入っていた所とかな……」
「れ、れんじ…」
真田の声が恥ずかしそうな色合いを帯びるのを聞くのが楽しい。
柳は真田の狼狽に構わず、足を拡げると、その足をぐっと上げた。
大きく拡げられた部分を明るい電灯の下で観察する。
太く黒い陰毛が繁茂した股間は、精液で濡れ、電灯の下で光っている。
重く長い陰茎と、その下の陰嚢、更にその下、奥まった襞まで一瞥し、柳は瞳を細めた。
肛門の周囲も白濁で濡れそぼっている。
指を伸ばしてその部分をそっと触れると、ひくっと襞が蠢いた。
「見るな…っ」
襞が蠢き、くぷ、と白濁が泡立つ。
ぴく、と大きなペニスが脈打ち、むくっと頭を擡げてくる。
「も、もう、いいだろう……?」
掠れた声で言いながら足を閉じようとするのを、柳は睨め付けるような視線で制した。
「蓮二…」
「動くな、弦一郎」
「………」
真田が困惑して眉を寄せる。
「どうやら俺が出したものは中に入ってはいないようだな…」
「な、中とは……入る場所がないではないか…」
広がった股間を凝視されているのが分かって、苦しげに真田が答える。
「いや、こちらにな……」
そう言って柳が肛門に指を軽く挿入してきたので、真田はぎくっとした。
「よせっ!」
「…なぜだ?」
「……お、俺は既に戻っているのだ……男だぞ、蓮二」
「…なんだ、……先ほどお前に愛を誓ったではないか……」
「………」
さっと真田の顔が赤くなった。
「な、なにを巫山戯たことを…」
「巫山戯てなどいない。…先ほどお前を好きだと言っただろう?」
「し、しかし…」
「好きだ、弦一郎……」
「…………」
指をつぷり、と埋め込むと、真田が息を飲んで身体を震わせた。
「俺は人間としてお前が好きなのだ。お前が女だろうと男だろうと……愛しい……」
「れんじ……」
「いやか、弦一郎……」
指を第二関節まで埋め込むと、その指を締め付けるように、内壁が顫動する。
「ちょ、ちょっと、待て…」
「待てない。…先ほどは女のお前を抱いたが……男のお前も、欲しい…」
「…冗談は…」
「冗談ではない」
「し、しかしっ…」
「いやか、弦一郎…?」
再度問いかけると、真田が眉間に皺を深く寄せて黙り込んだ。
「好きだ…」
囁きながら指を根元まで埋め込む。
真田が力無く首を左右に振り、引き締まった腹筋を上下させる。
「入るわけ、ない…」
弱々しく反論を試みる真田の唇を覆うように、柳は覆い被さって深い口付けをした。
「む………」
先ほど女性体の真田にした時とは違って、唇も幾分堅く、また唇の回りにちくちくと髭が当たる。
左手で胸をまさぐっても堅く張り詰めた筋肉が指を押し返してくる。
が、それもまた微妙に倒錯した興奮を煽って、柳はあっという間に性器がまた元気を取り戻すのを感じた。
考えてみると、不思議だ。
つい昨日まで---------いや、今日真田に会うまでは、自分が真田を好きだと……勿論好きではあったが、こんなふうに身体を重ねるような間柄になるなど思いもしなかったのに。
だが、今こうして真田を感じていると、こういう関係こそが自然で自分たちの進むべき道だったとも思えてくる。
今まで自分の気持ちに気づかないできてしまっていたのだ。
それを気づかせてくれたのだから、……跡部には感謝しなくてはいけないだろうか。
真田の処女を奪った相手ではあるが。
跡部のことを考えて、つい動作が荒くなったのだろうか。
指をぐりぐりと体内で掻き回していたようで、真田が身体を震わせながら低く呻いた。
「い、たいぞ、れん、じ…」
「…すまない…」
指が柔らかくぬめった粘膜を抉るように動いていたようだ。
「弦一郎…」
呻きながらも、抵抗せずにじっと柳の指を甘受している真田が愛おしくて、柳はそっと名前を囁いて再度真田の熱い唇に吸い付いた。
















真田編その14