うっとりと快感にたゆたったまましばらく呆けていると、
「………おい…」
下から困惑しきったままの橘が声を掛けてきた。
「……ん。…な、んだよ…」
「なんだって……それは俺の台詞だろう?」
「あ、あぁ、それもそうだよな…」
理性が戻ってきて、跡部は身体を起こした。
眩暈のする頭を振ってしゃっきりとさせ、下を見ると、橘のシャツにべったりと跡部の精液が着いて染みになっていた。
「…わりいっ」
自分の快感を追うことばかりに夢中になっていて、精液が飛び散ってどうするとかそういう配慮をすっかり忘れていた。
「…あー……クリーニング代とか出すから。…すまねえ…」
「………」
橘が溜息を吐いて、顔を上げた。
「どうにもわけがわからないんだが……一体どういう事なんだ?」
橘が鋭い目つきで跡部を見上げてきた。
「どういう事って……言われてもな…」
うまく説明できない。
「つまりその……なんだ……」
「男を強姦するのが、お前の趣味なのか?」
「………」
橘の言葉に思わず反論しようとしたが、考えてみると、その通りかもしれなかった。
眉を寄せて黙り込んだ跡部の表情を肯定と見たのか、橘が溜息を吐いた。
「俺も大抵の事では驚かないが、さすがに驚いた。あまりにもお前の行動が突飛なので、なんだか抵抗するひまもなかった」
「悪いな……その、強姦するつもりじゃなかったんだが、……とにかくやりたくてよ、我慢できなかったんだ。気分害したか?…すまねぇ…」
気分害したどころではないだろうが、とにかく謝るしかない。
沈痛な面持ちになって頭を下げると、橘が苦笑した。
「お前がそんな顔すると、お前じゃないようで気持ちが悪いよ。それにしても、本当に驚いた。……氷帝学園の跡部と言えば、遊んでいると有名だったが、本当だったんだな」
「いや、それは違うぜっ!」
「違うと言われてもなぁ…。しかも、男相手というのが凄いな。俺みたいな田舎ものには想像も出来ないな。…しかし、相手に不足でもしてたのか?俺なんか襲っても面白くもなんともないと思うが」
「……だから、違うって言ってるだろう。俺がよそでどう言われてるか知らねえが、俺は真面目な男だぜ」
「…真面目なやつがこういう事するか?」
呆れたように言われてぐっと黙り込む。
「とにかく、…まだ繋がってるんだが……離れてくれないか?」
橘が言いにくそうに言ってきた。
「あっ……と、すまねえ」
話している間中、跡部は橘の上に跨ったままだった。
慌てて腰を浮かそうとして、橘の性器がまだ勃起して堅いままなのに気づいた。
そういえば自分がイくことだけ考えていたので、橘の方が射精したかどうかとか、そこまで考えるゆとりがなかった。
「お前、まだイってねえじゃねえか…」
「……突然襲われて、なかなかイけるもんじゃないだろう…」
くすっと笑われて、なぜだが悔しくなった。
確かに、橘の立場に立ってみたら、酷い事をされているとは思うのだが、自分だけ気持ちよくなって独りでよがっていたというのも格好が悪い。
それに、目の前の橘が結構冷静なのにもかちんと来た。
やはり経験があるからだろうか(勿論女性とだろうが)。
こういう時の場慣れの具合が、手塚や真田とは違う気がする。
「俺だけ気持ちよくさせてもらっても悪いぜ。……お前もイけよ?」
抜こうとした腰をぐっとまた落として橘の性器をすっぽりと体内に収め、顔を屈めると橘の短髪に顔を寄せて、跡部は囁いてみた。
「イけと言われてもな……」
「なぁ、お前って、……東京来る前は随分凄かったんだろ?」
「……なんだ、それは……?」
「…どうなんだよ?」
精液でじっとりと湿ったシャツのボタンに手を掛けて一つ一つ外しながら、跡部は橘の顔を窺った。
橘が困ったように眉を顰める。
「お前こそ、真面目とか言っているが、どうみてもそうは見えないな…」
「俺は真面目だぜ。ちょっと今だけ変になってるんだ。……なぁ、男相手にするの、初めてか?それとも経験あるのか?」
「……普通、同性相手の経験はないと思うがな……」
「ってことは、やっぱり女とはやったことありか……」
橘が肩を竦めて視線を逸らした。
どうやら、異性とは経験があるらしい。
なんとなく面白くなかった。
「なぁ、俺じゃ、勃たねえか?」
そっぽを向いた所に顔を落として、橘の頬に軽く唇を宛てる。
「……お前、本当に変だな……一体どうしたんだ?俺に会いに来たというのも嘘だろう?歩いていたら俺にたまたま逢った、という感じじゃないのか?」
「…なんだ、ばれてたのかよ……」
橘が鋭い目線を跡部に浴びせてきた。
「いいじゃねえか……なぁ、……お前とやりてえんだよ……女じゃなけりゃやだとか言われるとどうしようもねえけどな…」
その目線を正面から受け止めて、跡部は灰青色の瞳を細めた。
「俺でも、結構気持ちよくなれると思うぜ……たちばな…」
囁いて、橘の少々厚めの唇に、自分のそれを押し当てる。
嫌がらないのを見て取ると、舌を伸ばして橘の口腔内へ滑り込ませる。
「………っ」
不意に橘が身体を起こした。
腹筋を使って上半身を起きあがらせると、跡部の腰を掴んで繋がったまま体勢を入れ替え、跡部を仰向けにベッドに押し倒して、自分が上になる。
驚いて目を見開いた跡部の視線をにらみ据えるようにしながら、ボタンの外れたシャツをあらあらしく脱ぎ捨てると、がしっと跡部の肩を掴んで、乱暴に口付けをしてきた。
「……んっっ!」
舌が無理矢理入り込んできて、舌の根を抜かれると思うほど吸いあげがれる。
かと思うと、顎の裏をねっとりと舐め上げられ、舌を巻き付けられて跡部は無意識に喉を仰け反らせた。
「…うあっっ!」
突然内臓が引き裂かれるかと思うほど強く深く突き上げられて、跡部は思わず喉を詰まらせて叫んだ。
「全くっ……なんでこんな事してるんだろうな…」
と自嘲気味に苦笑しながら、橘が激しく律動を開始する。
「うっ…………あ、あッッッ!」
自分で動いていたときとは比べものにならないほど激しく深く貫かれ、身体がへしゃげるほど抱き締められたかと思うと、腸壁がめくりあがるほど勢いよくペニスが引き抜かれる。
と、間髪を入れず、喉から胃が迫り上がって出てくるぐらいにペニスを叩き込まれて、跡部は目の前がくらんだ。
「はッッ……あ、ッッい、イイっっ、たちっ、ばなッッ!」
快感で全身ががくがくと震えた。
これが欲しかった。
この力強い律動や、激しく中を抉ってくる衝撃が。
悦びで身体中が瘧にでもかかったかのように痙攣し、瞬く間に二度目の絶頂が迫ってくる。
無我夢中で橘に合わせて腰を振り、髪を振り乱してシーツを千切れるほど握りしめる。
「あ、あ、あ、あッッッ!」
ふっと意識が宙に浮き、全身が燃え上がった。
「──ッッッッ!」
体内深く熱い迸りを感じながら、跡部は背中を海老のように反らして射精した。
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