狼狽した獄寺の様子が面白かったのか、山本が口端を僅かに上げ薄く笑って、今度は獄寺のズボンの中に直接手を突っ込んできた。
下着の中へごつごつとした大きな手を差し入れ、直に、僅かに芯を持ち始めた獄寺自身を握りしめてくる。
「へぇ……やっぱりちょっと堅くなってるな」
興味深そうに、山本が獄寺の顔を覗きこんできた。
「…どんな表情してるんだ?」
「テ、テメェ、ただじゃおかねぇ!」
「まー、そういきり立たないでさ。……な、気持ちいいだろ?」
ズボンのベルトを緩められ、ジッパーを下ろされる。
山本の節くれ立った指が繊細に動いて、獄寺のソレをきゅっと扱いてくる。
引き出されて、其処がひんやりとした外気に触れて、獄寺は身震いした。
「綺麗な色、してるんだ。……やっぱり日本人じゃないからなぁ。…こっちも、綺麗だ…」
山本が上体を屈めて、濃い銀色をした陰毛から薄桃色の獄寺自身までまじまじと眺めてきたので、獄寺は顔に火が点いた。
屈辱と羞恥の入り交じった、なんとも表現しようのない感情が湧き上がってくる。
「…果てろ!」
屈んできた所を、右足で思いきり蹴り上げようとしたが、
「ほら、いい加減抵抗はやめなよ」
しかし、山本には効かず、あっさりと足を押さえ込まれてしまった。
考えてみると、山本はマフィアの一員としてリボーンが認めるほどの人物なのだ。
そうそうやられるような弱いヤツではなかった。
自分と互角と言ってもいいかもしれない。
「オレ、獄寺のこういう所に興味あったんだよなー」
「…は……?お前、男に興味あんのか?」
「いや、……どうだろう…」
山本が首を捻った。
「男じゃなくて、獄寺だからじゃないかな? ほら、獄寺だって、ツナだから、ツナの事好きなんだろ?」
「…って事は、テメェ、オレの事好きなのか?」
「さー、どうだろうな。その辺はよく分からないな。でもさ、獄寺、いくら頑張ってもツナにはこういう事してもらえないんだから、オレで間に合わせない?」
山本がにっこりと笑って、ぐさっとくるような事を言ってきた。
思わず言葉に詰まって、獄寺は悔しげに瞳を逸らし、眉間に皺を寄せた。
「もうこんなになっちゃってるしさ…」
握って扱いていたからか、獄寺のソコはすっかり勃起して、薄桃色の綺麗な頭を擡げ、先端から透明な涙を滲ませていた。
「…って、そういう問題じゃねぇだろッ。……おい、どう考えてもおかしいだろ、この展開はよッ」
「そんな事言えるだけの余裕があるんだ、獄寺。さすがイタリア人は違うなー」
変な所で感心されてしまって、獄寺は言葉に詰まった。
ぎりぎり、と眉間を盛り上がらせて山本を睨む。
───が。
「………ッッ!」
不意に山本が顔を獄寺の股間に近づけ、獄寺自身をまるで果物でも食べるかのように口に含んできたので、抗議の声が途中で掠れた。
「お、い……マジかよ……」
急に、自分と山本が今何をしているのか把握するだけの理性が働いて、羞恥に全身がかぁっと熱くなった。
山本に、フェラされている。
深い灰緑色の瞳を見開いて、呆然と己の股間で動く山本の黒い頭を見つめていると、視線に気付いたのか、山本が、獄寺を咥えたまま上目遣いに見上げてきた。
瞳を細め、肩を竦めて笑う。
(……笑ってる場合かよっ!)
「……ッ、く、…やめろッッ!」
獄寺が渾身の力を出せば、山本を振り払えるはずだった。
なんといっても獄寺は現役マフィアの一員として、幼少時より苛酷な世界で生きてきたのだし、身の危険を感じるような修羅場を切り抜けてきた事だって両手に余るほどある。
しかし、今は何故だか身体が動かなかった。
こんなばかげた事、───山本を振り払えば、すぐに終わる。
一つ殴って、意趣返しに股間でも蹴飛ばしてやればいい。
それでもしつこくいう事を聞かないようなら、ダイナマイトでも口に突っ込んでやればいい。
───そう思ったが、できなかった。
呆然としたままで、己の股間で山本が好き勝手に己の性器を弄び、舐めては指で薄い色の陰毛を掻き回してくるのを、眺め下ろすだけである。
そんな獄寺の表情が面白いのか、山本が切れ長の黒い目を細めた。
「………ぅ…」
口腔内のぬるりとした粘膜の感触が、ダイレクトに敏感な先端から獄寺の脳髄へと突き刺さってくる。
身体の芯がかぁっと熱くなり、腰が小刻みに震えた。
考えてみたら、………こんな事にはずっと無縁だった。
日本に来てからというもの、中学校に通うという生活をしていれば、無縁にならざるを得ない。
たまに自慰ぐらいするものの、それも生理的欲求に駆られて半ば事務的な作業のように行っていただけだ。
毎日、ツナのために強くなりたい、とか、ツナにもっと頼りにしてもらいたい、とか、ツナの事ばかり考えていた。
修行僧のように、ひたすら修行する、清らかな生活を送っていたとも言える。
「や、まもとっ…!」
不意に快感が身体の中心を迫り上がってきて、獄寺は瞳をきゅっと瞑った。
長くくるりとカールした睫を震わせ、少し厚めのふっくらとした下唇を噛んで、声を堪える。
ずっとご無沙汰だったからだろうか。
こんな───好きでも何でもない山本なんかにされて、気持ち良くなってしまうなんて………。
「ズボン、邪魔だよな。……脱ごうぜ?」
口を一旦離した山本が苦笑しながら言ってきて、次の瞬間、獄寺の制服のズボンは下着毎すっぽりと脱がされてしまった。
呆気に取られる間もなく、再び山本が獄寺を咥えてくる。
舌を伸ばして先端の窪みを刺激し、滴る蜜を啜り上げてはちらっと獄寺を見上げる。
羞恥心に居たたまれなくなり、獄寺は顔を背けた。
どうして自分が抵抗しないのか、不思議だった。
しようと思えば、いくらでもできるのに。
どうして山本とこんな事を───未だに理解できなかった。
だが、身体は正直に快感を伝えてくる。
久し振りの、全身をゆるがすような快感。
他人にしてもらう事が、こんなに気持ちが良いとは。
獄寺は眉を寄せ、瞳を固く閉じて、絨毯の長いふさふさとした毛を握りしめた。
俯くと、銀糸の髪がさらりと流れ落ちて、獄寺の顔を覆う。
「…………ッッッ!」
絶頂は唐突に訪れた。
腰全体が細かく震え、息も吐けず身体を強張らせる。
「………はぁ」
一気に駆け上った後は、ぐったりと弛緩し、薄く瞳を開いて深く息を吸う。
吐き出した粘液が山本の唇からこぼれ落ちるのを視界の端に捉えて、獄寺は名状しがたい羞恥に囚われた。
よりにもよって、山本に───山本の口の中に射精してしまった。
「………」
恥ずかしくて直視できず、無言のまま傍にあったティッシュボックスから数枚ティッシュを取り出すとそれをを差し出す。
「サービスいいんだな、獄寺。気持ち良かったかい?」
「………」
返事をしない獄寺に、山本はくすっと笑った。
「男だからな、誰とやっても気持ちいいもんだぜ。そうだろ……? でさ、オレももうこんなになってるんだけど……」
咥内にたまった粘液を音を立てて飲み干し、零れた白濁は手の甲で拭いながら山本が獄寺の手を取った。
ぎょっとして獄寺が顔を上げると、山本はその手をそのまま自分の股間に押し当てた。
「……な、にすんだよ……!」
そこは布越しにもはっきりと分かるほど堅く張り詰めていて、獄寺は息を飲んだ。
「何って……オレもこんなになっちゃったからさ……お互い様って事で、獄寺に入れたいなとか」
「……入れるって……お前って、そういう経験あるのか? 信じられねぇが…」
「いや、オレも初めて。つうか、女の子とだってしたことないぜ。何もかも獄寺が初めて」
「……初めてで、……オレにあんな事できたのか……すげぇな、ある意味…」
獄寺は呆れた。
「なんか、獄寺相手ならなんでもできそうなんだよな。……駄目かな?」
山本がにかっと笑った。
(コイツは……なんでこういう時まで爽やかなんだ…)
脱力して、獄寺は額に手をやって溜息を吐いた。
なんとなく、気が抜けてしまった。
先程までのどうしよう、というような切羽詰まった気持ちや、狼狽した気持ちが、いつの間にか消えていく。
(……まぁ、いいか……。気持ちよくさせてもらっちまったもんなぁ…)
普段だったら、獄寺もそんな自分の思考がおかしい、と気付いたかもしれない。
どう考えても、いい悪いというような問題ではない。
が、その時の獄寺は、ツナへの気持ちがばれてしまった事、山本に抜かれてしまった事などが頭の中でごちゃまぜになり、身体は快感を感じてしまった事とも相俟って、どこかおかしくなっていた。
「…初めてで、うまくできるのかよ…?」
「そりゃ、獄寺が協力してくれたら……獄寺は、初めて…?」
「………聞くな」
実を言うと、獄寺は女性とならイタリアで経験があった。
眉間に皺を寄せて睨むと、山本が肩を竦めて笑った。
「獄寺に任せれば結構うまくいけそうだと思うんだけど、どうかな? お願いします…」
お願いされたら、なんだか自分が優位に立ったような気がして、獄寺は内心気分が良くなってきた。
(フン、山本なんか、オレの足許にも及ばないぜ)
そう思ったら、頭を下げて頼んでいる山本が哀れに見えてきた。
(まー、教えてやってもいいか……)
「じゃあ、ベッドでやろうぜ? 床じゃ痛ぇからよ」
獄寺は立ち上がると、部屋の西の壁に沿って置かれているベッドに山本を誘った。
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