◇Vita Rosa(ヴィータローザ) 1   






リング争奪戦が終わり、ツナが正式にボンゴレ10代目と認められて数日。
並盛中の校舎もボンゴレファミリーの密かな突貫工事で治ったらしく、ツナはやっと落ち着いた生活を送っていた。
まだ自分がボンゴレファミリーの10代目になるとか、そういう事はとても現実としては考えられないが、取り敢えず誰も襲ってこないし、学校にもいつも通り行ける。
普段通りの平和な日常。のんびりした時間。
────の、はずだったが。



「おい、ツナ。新しい任務があるぞ」
突然リボーンが言い出したのが、とんでもない事態の発端だった。







「え、新しい任務ってなに?もう、御免だよー」
また、誰かが自分を襲ってくるのだろうか。
誰かと闘わなければならないのだろうか。
もう真っ平。
休日という事で自分の部屋でゴロゴロしていた所に突然言われたものだから、ツナは青くなって後退った。
「いや、どうしてもやってもらわなければならない重要な任務だぞ。ツナに拒否権はないぞ」
リボーンが抑揚のない声で言ってくる。
拒否権なしって一体……。
また厄介な問題が、この間のリング争奪戦より大変な何かが勃発したのだろうか?
後退ってびくびくしていると、リボーンがニヤリとした。
「ツナが考えているような任務じゃないぞ。ラクだぞ」
「え、……ラクなの?」
「そうだぞ。ラクというのとはちょっとちげーが、戦いじゃねーぞ。ボンゴレ10代目と守護者達の絆を深める重要な儀式だぞ」
「……はぁ…なに、それ」
「実はな、ツナ」
リボーンはどこから持ってきたのか、羊皮紙に書かれた古い文書を取り出した。
勿論イタリア語で書かれているのでツナには全く読めない。
周囲を綺麗な装飾に施された古い文書だ。
「何、これ…」
「ここには、ボンゴレのボスに決まった人物は、何らかの方法で自分の守護者達と『血の契約』を結ばなければならない、とあるんだぞ。そのやり方はいろいろだが、どれがいい?ターゲットを決めてソイツを守護者とボスで殺し、一人一人ソイツの身体に剣を突き立てて契約を取り交わす…ってのが王道だ。他には、守護者がボスを半殺しにしてボスの血を守護者が飲むってのもある」
「やだやだっ!ちょっとやめてよっ」
そんな物騒な事とんでもない!
ツナが慌てて手を振ると、リボーンが小さな肩を竦めた。
「ボスに決まった人物が守護者を選んだ際に成人していれば、『血の契約』を結ぶ必要はないんだが、ツナはまだ中学生だからな。何かしなければならねーんだぞ。実は今までのボンゴレのボスはこれをやったことがねーんだ。ツナが初めてなんだぞ。それだけに重要だぞ」
「って、そんなの無理!絶対できないって」
「じゃー、もう一つの方法しかねーぞ。そっちは誰も殺したり闘ったりしないですむやり方だがな。どっちか選ぶしかねーぞ」
「じゃ、そっち。そっちにしてよっ!」
どっちもいやだったが、とにかく殺しとかそういうのだけは勘弁して欲しい。
「じゃあ、もう一つの方法でいーんだな?」
「うんうんいいよ、そっちにしてっ」
その時、ツナはきちんと、もう一つの『血の契約』、というものがどういうものなのか聞いておけばよかったのだ。
しかし、最初に提案された方法にぞーっとして、それでなければもうなんでもいい、とばかりに承諾してしまった。
一度承諾したら後の祭り……とは、まさにこのこと。
というわけで、ツナは守護者達と『血の契約』とかいうなんだか恐ろしげな儀式を取り交わす事になってしまったのだった。








嫌な事からは逃げるとばかりにその後数日、リボーンとその話はしていなかったツナだが、数日経ってリボーンが
「そろそろ『血の契約』の準備にとりかかるぞ」
と言ってきたので、一気に現実に引き戻された。
「……ど、どーするの?」
「イタリアの本部から契約書を送ってもらったから、これに守護者の一人一人にサインをもらえばいーんだぞ」
「え、それだけ?なーんだ」
サイン貰うだけなのかよっ!脅したりして、もうっ、と安堵かたがた胸をなで下ろしていると、
「ちげーぞ?」
リボーンがしれっと言った。
「………なに?」
「サインといっても、別に名前を書くわけじゃねーぞ?」
「……なにしてもらうの?」
「証明だな」
「証明?」
「あーそうだ。守護者たちがそれぞれボスと『血の契約』を取り交わしたという証明だ」
「……なにそれ?」
「具体的に言うと、ボスと守護者一人一人が肉体関係を持つ、という事だな」
「………………は?」
なにいってんの、この人……
ツナはリボーンをじっと見つめた。
しかし、リボーンはすました顔で言った。
「だから、ツナが守護者一人一人、全員とセックスすればいーんだぞ」
「…………………はぁ?」
なんか、とってもマフィアの真面目な契約とは関係のない、卑猥な単語が出てきたような気がするんだけど…。
───なんかの冗談?
「ボンゴレの血を引くお前と守護者が直接交わる事で、契約書の守護者の項に死ぬ気の炎でサインが刻印されるんだ。全員分刻印されれば完成だぞ」
「あのー……なんかよく意味わかんないんですけど…」
「相変わらずアホだな、ツナ。さっきから分かりやすく言ってるぞ。ツナが獄寺や山本やランボなんかとセックスすればいーんだぞ」
「…………って、セ、セックスって……あれ?あの、男女で、その、裸になってするっていう……」
そこまで言ってツナは顔を真っ赤にした。
「あぁそーだぞ?」
「ええ──────────!!って、オレ、男だし!守護者の人だって男だし!っていうか、なんでそんな……ッッ!」
「肉体的に直接交わるのが契約の内容になるんだぞ。もうお前はそれで承諾したんだから拒否権なしだ。ちなみに、ボスは守護者の性を受け入れる方だからな?受け入れて初めてツナの死ぬ気の炎と相手の生気が混ざり合って契約書に刻印されるんだぞ」
「って、ちょ、っちょっと待ったー!!オレ、そんな事、した事無いしっていうか、無理だしっ、できないしっっ!」
「もう遅いぞ」
リボーンが澄ました顔で言う。
「早速取りかかるぞ。明日からな?」
「そ、そんなぁっ、無理っ、無理です!」
「ツナはそういう経験が全く無いようだから、最初から守護者相手にするってのは無理だな。守護者を気持ちよくさせねーと駄目だからな」
「そ、そんなの絶対できないからっ!っていうか、無理っ!」
「無理とか我が儘言ってる場合じゃねーぞ。ツナがうまくできるように先生を呼んできたからまずは教えてもらえ」
「せ、先生…?」








「よ、ボンゴレ坊主」
そこにがらっとツナの部屋の扉を開けて、シャマルが入ってきた。
着崩したシャツにネクタイ、乱れた髪を掻き上げながら肩を竦め軽く手を上げて挨拶する。
「え、シャ、シャマル……?」
「そーだぞ。じゃ、シャマル、たのんだぞ?」
「オレは女専門なんだがなー。まー、リボーンの頼みとあっちゃ断れねし、これはファミリーにとって重要な儀式だからな…オレも偶には真面目になるか…」
「って、シャマル、……な、なにすんの?」
「ほら、出掛けるぞ、坊主」
「え、えぇ!!」
呆然としている間に、シャマルにせき立てられ、訳も分からずにツナは着替えて出掛ける事になってしまった。






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