◇僕とボンゴレ  2   






次の日、月曜日。
「おはようございます、ボンゴレ。さぁ、学校に行きましょうか?」
まだベッドでうつらうつらとしていたツナの所に、爽やかな笑顔で骸が入ってきた。
「おや、まだ寝ているのですか?寝坊してしまいますよ…?」
「うーん……」
実のところ、ツナは昨日は、同じ屋根の下に骸がいる、と思うとなんとなく怖くてよく眠れなかったのだ。
何しろ骸だ。
もし夜中に蛇なんかが大量に湧いて出て、部屋ににょろにょろ入ってきたらどうしよう、とか。
突然蓮の花が咲き乱れて茎が伸びて来たらどうしよう、とか。
何しろ骸だから、何をするか分からない。
びくびくしていたものだから、ついついよく眠れなかった。
その分朝起きるのが遅くなってしまったというわけだ。
「………あ、骸っっ!」
はっとして目を覚ますと、何時の間に用意したのか、並盛中の制服をそつなく着こなした骸が立っていた。
(………似合うんだなあ…)
黒曜中の学ランも似合いすぎるほどに似合っていたが、並盛り中のブレザーとネクタイも似合う。
似合いすぎて格好良くて絶対女子の注目の的になりそうだ。
「ボンゴレ…起きないとお仕置きしますよ?」
「え、えぇっ!」
………チュ。
不意に頬に柔らかい唇が降りてきた。
「───ぎゃ!」
「そんなに驚かなくても。クロームにもされたでしょう?」
「って、クロームは女の子だけど、む、骸はっ!」
「そんな性別なんてどうでもいいじゃないですか?さ、朝ご飯食べて学校行きますよ?」
骸がにこやかに言ってくるのが不気味だ。
あっと言う間に目が覚めて、ツナは慌てて着替えた。







「今日からこのクラスに入る事になった六道骸君だ。仲良くしてやってくれよ?」
学校に行くと、骸は本当にツナたちのクラスに転入する手はずが整っていた。
さすがに獄寺も山本も呆気に取られている。
「じゅ、10代目っ!どうなってるんすか?」
朝、骸と一緒に登校したものの、骸は職員室の方へ行ったので、教室にはツナと一緒には入っていない。
だから、朝から大騒ぎ、というわけではなかったが、朝のホームルームの時に担任の先生が骸を連れてきたものだから、教室内はざわめいた。
女子はイケメンの登場にざわめき、山本と獄寺は、六道骸の出現に肝を潰した、というわけだ。
「……なんか、父さんが絡んでるみたいだよ…」
「10代目のお父様が…?」
「うん、骸の事、なんかうちで引き取るみたいな感じになっちゃってさ…」
「はぁ?って事は、アイツ、今10代目のうちにいるんすか?」
「うん…昨日からなんか居候してる…」
「な、なんだって!!」
獄寺が白目を剥いた。
「この右腕のオレを差し置いて、10代目と一緒に住むなんてっ、許せねぇっ!」
「ま、まぁ……父さんの言いつけみたいだし」
「……それなら、しかたないっすけど……でも、10代目っ、骸に何か攻撃されませんでしたか?」
「大丈夫だよ、そんな事してこないから。一応霧の守護者だしね?」
「……まぁ、そうっすけどね…」
「それにしても、骸見たときは驚いたが、普通にしてると普通に地味なんじゃねぇ?」
山本が顎に手を掛けて教壇に立っている骸を見て言ってきた。
「真面目な優等生って感じにみえるしな。…まぁ、ツナの親父が骸の事信用しているんだから、大丈夫だろ」
「テメェは頭筋肉だから、なんにも考えてねぇんだろ!」
獄寺が山本の言葉に反論する。
「まぁ、…なんかあったらすぐ連絡するし……ね、獄寺君」
「……10代目がそう言うんなら、…いいんですが…」
まだ承伏しかねるようだが、獄寺は大人しく自分の席に戻った。
(……オレだって、まだ驚いてるんだし…)
はぁ、と息を吐いて、ツナは教壇に立ってにこやかに笑顔を見せている骸を見た。
こうして見ると、本当に、戦闘の時とは別人のようだ。
「初めまして。この度事情があってこちらに転校してきました六道骸と申します。みなさんと楽しくやっていけたらと思います。手術で目の色が違っていますが、どうぞよろしくお願いします」
礼儀正しく挨拶をして、窓際の一番後ろ、新しく置かれた机と椅子の所へ行き椅子に座る。
「ねぇねぇ、真面目そうで格好いいよね」
「ホント、なんか頭良さそうだし」
「獄寺君とはまた違った魅力じゃない?」
女子のひそひそ声が聞こえる。
ツナははぁっと溜息を吐いて肩を竦めた。







「クフフフ、真面目な学校生活ってのも悪くないですねぇ、ねぇ、ボンゴレ?」
その日はそのまま授業を受けて、途中、トンファーを持って乱入してきた雲雀をなんとかなだめ、むすっとした獄寺や山本と一緒に骸も加わって自宅へ帰り、本当に骸がツナの家に入っていくのを呆気に取られた獄寺に見送られて、ツナも骸の後から家に入った。
夕食や風呂がすんで、自分の部屋に戻って一息吐いていると、そこに骸が入ってきて、開口一番そう言ったのだ。
「僕のパジャマ、なかなかいいでしょう?」
髪を洗ってきたようで、しっとりと濡れた藍色の髪をパイナップル柄のタオルで拭きながら、パイナップル柄の黄色のパジャマを着ている。
「……そ、そうだね……明るくて楽しそうだね…」
反論する気力もなく、ツナはぐったりして応えた。
「僕はパイナップルが好きなんですよ、パイナップルの花言葉、知ってますか、ボンゴレ」
「……パイナップルに花言葉なんてあるの?」
「クフフ、完全無欠、ですよ。……僕にぴったりではありませんか?」
「あ、そう…」
「おやおや、つれない言葉ですねぇ……ボンゴレ、君のパジャマはシンプルで可愛いですね…」
「オレの柄物じゃないからね…」
ベッドで寝ころんでいた所に骸が入ってきたので、ツナは上半身だけ起きあがらせた。
「それにしても、今日は少し疲れましたよ…やはり慣れない環境ですからね」
「骸でも疲れるんだ…」
いつもポーカーフェイスを崩さない相手の言葉に、ツナは少し意外に思った。
「真面目な学生を演じるのも、悪くはないのですがね…」
「って、真面目じゃなくてもいいんじゃない?骸が真面目ってのもなんか…」
「おや、僕は至って真面目ですよ、ボンゴレ」
「……って、う、うわぁ!何してんの!」
さり気なくしゃべりながら、骸が当然といったようにツナの隣に座ってきてツナの腰を抱き締めてきたので、ツナの声は途中で裏返った。
「何って……君も鈍いですねぇ…僕は前々から君を手に入れたいって言ってたじゃありませんか?」
「えっ、で、でも、もうやめたんでしょ!」
「クフフ……まぁ、憑依するとか乗っ取るのはとりあえずやめにしてますが、…代わりに君の身体を手に入れようかと…」
「は、はぁ…?」
骸の言っている意味が分からず問い返そうとしたが、そんな悠長な暇はなかった。
骸がツナを抱きすくめてベッドに押し倒してきたのだ。
「ぎゃっっ、ちょ、むくろ!!」
「大きな声出すと、お母さんに聞かれますよー?」
耳許で骸の低く響く声がして、ぬる、と耳を舐められる。
ぞわぞわと背筋が総毛立ってツナはぎゅっと目を瞑った。
「可愛いですね、君は……さて、どういただこうか…」
「って、いただかなくていいからっ!!」
「駄目ですよ、もう我慢できませんから…ね?」
「ね、じゃないよー!」
ね、とか言いながら骸が股間を押しつけてきたので、ツナは泣きそうになった。
ツナだって発育はまだ遅いとはいえ、健全な男子中学生である。
自分の性器が勃起するのも、寝ている間にいつの間にか射精してしまうのも、経験済みである。
さすがに、自分からした事はなかったのだが。
「クフフ…怯えた君も可愛いです。大丈夫ですよ、痛くしませんから…」
「な、なにするのー!」
「何って……セックス……」
「…………!!」
骸の口からとんでもない台詞が飛び出してきて、ツナは絶句した。






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