◇heartthrob  2  






それから数日。やはり山本の態度は変わらなかった。
しかし、自分の態度は、というと、忌々しいが、獄寺は自分の気持ちは山本にかなり傾いている、と認めざるを得なかった。
山本を見るたびに、心臓がどきん、と跳ねる。
勿論、そんな事はおくびにも出さずに平然を装っているが、頭の中は、山本に対するイライラとか、怒りとか、そんな自分に対する呆れた気持ちとか情けなさとか、とにかくいろいろな感情がごちゃ混ぜだった。
自然、眉間の皺も深くなる。
更に困った事には、山本を見ると身体が反応するようになってしまった。
山本の腕、山本の制服越しの肉体──自分の目はさぞいやらしい色を帯びているに違いない。
羞恥で山本がまともに見られない。
なんとか平静を保っていても、何かの拍子に山本に接近したりすると、山本の短髪の項とか、筋肉の過不足無くついた二の腕とかを何気なく見てしまって、途端に身体が熱くなる。
身体の芯が──下半身が熱くなって、制服のズボンの中でペニスが反応するのが分かる。
もしかして、顔も赤くなってはいないだろうか。
獄寺は不安になった。
山本をこっそり見て、下半身を膨らませている、とか、もし山本本人やツナにばれたら恥ずかしくて死んだ方がマシだ。
悟られまいと表情が硬くなる。
「獄寺君、なんかいつにもまして怖いよ?」
などと、ツナにも言われてしまう始末だ。
ツナの前ではいつも笑顔でいたい獄寺にとって、これは痛かった。
しかし、ツナのいるところ、殆ど山本も一緒についてくるので、どうしても顔が強張ってしまう。
これでは、ツナに誤解されてしまう。
ツナの右腕としてやっていけなくなったら。
そう思うとますます苛立って、自分が情けなくなる。
が、身体は正直だった。
………もしかして、本当に山本の事が好きになってしまったのかもしれない。
山本に触れたい。触れられたい。
触られて、抱き締められて、キスされて──。
(……なに、考えてんだよ…)
慌てて首を振る。
しかし、妄想は消えない。
どうしたらいいだろうか。このままでは自分が爆発しそうだ。
数日思い悩んで、獄寺は覚悟を決めた。
山本に直接、当たってみるしかない。
そう思ったのだ。








「おい、山本」
その日の帰り、いつものようにツナと山本と三人で帰ろうとした時に、獄寺は山本に声を掛けた。
「…ん?」
山本がいつもと同じく気のなさそうな返事をしてくる。
「今日、ちょっと帰りにオレんち寄れよ」
「え、お前んち?あぁ。いいけど」
「へーえ、山本、獄寺君ちに行くんだ。俺も行ってみたいな」
「あ、10代目っ、勿論大歓迎っすよ。あ、でも今日はちょっと山本に用があるんで、その、次は必ずっ」
「あはは、別に気を遣わなくてもいいよ。でも獄寺君の住んでる所ってちょっと見てみたい気はするから、今度よろしくね?」
折角のツナの申し出を断らざるを得なくなってどうしようと思った所を、ツナが遠慮してくれたので、獄寺はほっとした。
本当ならば、ツナに来てもらいたい。
ツナと一緒にいるのが、獄寺にとっては一番嬉しい事だからだ。
が、そういう気持ちと山本に対する気持ちは別だ。
とにかく、今日は山本と決着を付けないと…。
山本本人はなんにも考えていないかもしれないが、このままでは自分がもたない。
イライラしたり、いらぬ嫉妬をしたり、自分自身が嫌いになったり、と感情が揺れ動いて、これでは大切なツナを守る事さえできなくなっってしまう。
「じゃあ、10代目、是非今度!」
「うん、じゃあね?」
ツナを家まで送って山本と二人きりになると、獄寺は山本を睨んだ。
「じゃ、行こうぜ?」
「……なんか今日の獄寺怖いんだけど…」
「……」
山本が何を言おうと、とにかく家に着いてからだ。
眉間に皺を寄せ押し黙ったまま、獄寺は早足で自宅へ向かった。








獄寺のマンションはツナの家からはあまり離れていない並盛町の外れの新興開発地にあった。
大手建設会社が建てた20階建てのマンションで、世帯持ちの部屋数の多いものから、ワルームまで幅広く部屋がある。
賃貸マンションになっており、家賃は随分と高いのだろうが、そこはボンゴレファミリーが家賃を支払っているため、獄寺は賃貸料などの煩雑な事は知らなかった。
「へー、ここが獄寺の家なのか。すげぇ所に住んでんじゃねぇ?」
広い2LDKに獄寺が一人で住んでいると知って、山本は目を剥いた。
「正確にはオレんちじゃねぇ。ファミリーの持ち物だからな、つまり10代目のものってことだ」
「へぇ…なんかよく分からないけど、とにかく獄寺はただで住んでるってことか…しかも一人暮らしとか格好いいよなぁ…」
部屋の中に入って、真新しいマンションの内部を見回している山本を、獄寺は横目で睨んだ。
別に部屋を見せたくて呼んだわけではない。
(あれだ、山本に真意を確かめて…というか、山本を…)
自分でも何がしたいのか分からなくなってきて、獄寺はイライラした。
「でも、なんでオレの事呼んでくれたんだ?宿題、教えてくれるのか?」
「んなわけねぇだろ…おい、山本…」
コイツはふざけてるのか。
自分に好きだ、と言ってキスまでしておいて、その相手と二人きりだと言うのに、何を考えているんだ。
獄寺は山本の腕を掴むと、引きずるようにして寝室へ連れ込んだ。
ベッドの上に山本を放り投げるようにして座らせ、上から圧し掛かる。
「え?」
山本がびっくりしたように焦げ茶色の瞳を見開いてきた。
そこに上から乱暴に口付ける。
「……ん…ッ」
角度を変えて、山本の唇に自分のそれを何度も触れ合わせ、強く押し当てて舌を滑り込ませる。
驚いたように目を見開いていた山本がふっと瞳を細めた。
筋肉の付いた逞しい腕が、獄寺の首に回されて強く抱き締めてくる。
山本の舌に絡み付かれて、獄寺は思わず目を閉じた。
粘膜同士の触れ合った部分が熱い。
ぞくぞくと身体が震えて、熱が唇から全身へと広がっていく。
夢中で山本の咥内を舌で蹂躙して、少しは満足して、獄寺は唇を離した。
離すと、山本が身体の上の獄寺の真意を測るように見上げてきた。
「獄寺、キスしたかったのか?」
「………」
瞬時むかっときて、獄寺は山本を睨み付けた。
「テメェ、俺の事好きだって言ったじゃねぇか?」
「…あぁ。…言ったぜ?」
「この間もキスしただろうが」
「…あぁ、した…」
ああ、した、じゃねぇだろ!と、獄寺は心の中で悪態を吐いた。
なんでこいつはアホのように自分の言葉を繰り返すだけなんだ。
──アホなのか?
「だからっ、てめ−の好きってのは、どのぐらいなんだよっ!」
「……どのぐらいって?」
「キスしてぇ、とかあるじゃねぇかよっ。キスもしたくねぇのか?」
「…キス、したいけど…」
「つうかよっ、テメェの好きはキスだけで満足する程度なのかよ!」
さすがに切れる寸前になってきて、獄寺は山本を鋭く睨むと襟元を掴んだ。
山本が瞳を瞬かせて、それから表情を変えて軽く笑いを浮かべた。
「もしかして、キス以上の事してもいいわけ?」
「は?ふざけんな!好きなら当然だろうが!」
「なーんだ、獄寺から誘ってくれるなんて、助かったぜ。我慢してて損したな」
「……はぁ?」
「獄寺に嫌われたらやだなって思って、これでも必死で我慢していたんだぜ?キス以上の事するの。キスだってしたらもう我慢できなくてそれ以上しちまいそうだったから、我慢してたのになぁ。我慢していた期間損した…」
「…って、テメー!」
「お前の許可が下りたから我慢するのやめな?」
突然強く抱き締められ、体勢を変えられた。
自分が山本に圧し掛かっていたはずなのに、山本が素早く体勢を入れ替えたせいで、今度は自分がベッドの上に仰向けになって、山本がその上から覆い被さる体勢になった。
「もう我慢しないぜ、獄寺…」
山本が囁いて、顔を近づけてきた。
思わずぎゅっと瞳を瞑ると、ぬるり、とした感触が唇にして、ぬめった舌が獄寺の咥内に深く入り込んできた。
先程の受け身のキスとは違って、積極的になった山本のキスは激しかった。
舌を吸われ、根元から引っ張られねっとりと絡み付かれて、唾液を吸い上げられる。
肉塊同士が絡み付く感触に獄寺は総毛だった。
激しくて───熱くて火傷しそうだった。
口の中だけでなく胃の方まで山本に蹂躙されている気分がした。
目を瞑っているのにくらりと眩暈がした。
覚束ない手で山本の項に腕を回して抱きつくと、山本が応えて、獄寺をきつく抱き締めてきた。
唾液が流し込まれ、ごくり、と飲み下すと、唇が少し離れてくすっと笑う声が聞こえる。
堅く瞑っていた瞳をほんの少し開けると、すぐ間近に山本の黒い眸があった。
「可愛い、獄寺……オレの事欲しかったんだろ…?」
「……テメェ、恥ずかしい事言ってんじゃッ…あ、あぁッッ!」
不意に首筋に吸い付かれ強く吸われて、獄寺の抗議は語尾が途中で途切れた。
「まさか獄寺がそんなに我慢してたなんて知らなくてさ。…好きだって言ってみたけど、お前がどうだか自信なくて……損したな。でも、我慢した分今お前の事こうして抱き締めていられるから、まぁいいか…」
シャツのボタンが外されて、山本の舌が首筋から鎖骨へ、鎖骨から胸へと降りてくる。
乳首を吸われて、獄寺は息を詰めた。
「こういうこと、してみたかったんだぜ、ずっと……でも、無理強いしたくなかったし、お前がいやだったらやだからな…って思ってたけど……嬉しいなー」
乳首をちゅっと吸い、舌先でくりくりと転がしながら山本が言ってきた。
こね回される度に身体がびくん、と震える。
山本の舌が這った所が熱く火照り、乳首からの刺激が脳を欲情一色に染め上げてくる。
「あ、…や、まもとっっ……ば、か…てめぇ……あ、ふ…ぁぁ……ッ」
気持ち良くて、身体がじんじん痺れた。
無意識に腰を浮かして、股間を山本に擦り付ける。
山本が微かに笑った。
「なんだ、もうこっちもか?獄寺って結構せっかちなのなー。俺は獄寺の裸だけでも感動してるってのにな」
「ば、ばか、変な事言ってんじゃねぇっ…」
「じゃ、こっちもな…?」
カチャ、とボトムのベルトが外されて脱がされる。
身体が内部から火照って熱くてたまらなかったから、ひんやりしたシーツが気持ちよかった。
「へぇ……獄寺って下の毛も銀色なんだな…」
「あたりめぇだろっ…つうか、見んな!」
「見るなって無理だろ…。こんなになってる獄寺、すごいな…」
「あ、あっ…あッッ!」
獄寺のペニスは既に十分な程に勃起していた。
そこをちゅっと吸われて、獄寺は堪えきれず甘い声を上げた。
シャツの釦が中途半端に留まっているシャツも邪魔で、自分から乱暴にボタンを外して脱ぎ捨てる。
見下ろすと、自分の股間で山本の黒い頭が動いていた。
(コイツ……こんな事平気でできるのかよ…)
山本が自分のペニスを躊躇無く口に含んでいるのが信じられなくて、獄寺は何度も瞬きした。
山本は獄寺の陰嚢を右手で包み込むと中の二つの玉を転がしながら、ペニスの根元をぎゅっと握りしめ、先端をぱくりと銜えて甘噛みしてきた。
「あ、あっあッ…よ、せッ…だ、めだッッッ……あ、もッッ!」
だいたい、今までずうっとお預け食らっていたのに、ここにきて突然急展開だ。
まさか山本にフェラされるなんて思ってもみなかっただけに、獄寺は我慢する事などできなかった。
「……──ああああぁぁぁッッッ!」
あっと言う間に絶頂が訪れて、獄寺は山本の口の中に勢い良く白濁を放出した。
頭の中が瞬時真っ白になって、身体の力が一気に抜けがっくりとシーツに沈み込む。
ごくん、と喉を鳴らして山本が獄寺の精液を飲み込む音が聞こえて、獄寺は頬を赤らめた。
「……信じられねぇ……」
「なにが?」
「……お前がこんな事するなんて…」
「今更なに言ってんだよ。獄寺の許可がおりたんだし、何しても大丈夫だろ?」
「……でも、お前……」
「獄寺の事、ずっとこういう風にしてみたかったんだよなぁ…。結構想像してたんだぜ?獄寺の乳首舐めるのとか、獄寺のチンコどんな感じかなぁとか…」
「は、恥ずかしい事言うなよ」
「あとは、獄寺の中はどんな感じかな……ってな」
山本が爽やかに笑った。
「獄寺の尻……いいだろ?」






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