◇Vita Rosa(ヴィータローザ) 7   






「おい、起きろ!」
「……え、…あ、あれ?」
はっとして気付くと、そこは自分の部屋だった。
見慣れた天井と、顔を巡らすと家庭教師。
一瞬自分がどうしていたのか忘れていて、目の前の赤ん坊をぼんやり見つめ、それからそう言えばシャマルと…と思いだして一気に目が覚める。
慌てて起きようとして、
「…いたたたたぁ…ッッ!」
尻がズキン、として、ツナは顔を顰めた。
「寝てたほーがいいぞ。随分激しくやったようだしな?」
「…って、リボーン、何言ってんだよっ!」
羞恥で顔が真っ赤になる。
ツナはベッドに沈み込んだままリボーンを恨めしく睨んだ。
「しかし、ツナはできの良い生徒のようだったぞ。シャマルが褒めていた。素質十分、ボンゴレのボスにふさわしいってな」
「そ、そんな所で褒められても、嬉しくないってば…って、そういえば、シャマルは?」
「お前を送ってきてもう帰ったぞ?もうすぐ夕飯だからそれまで寝てろ」
「そ、そうなんだ…」
あの豪華なホテルで寝てしまったらしい。
そのまま送ってきてもらったのか。
それにしても──。
ツナは今日シャマルとした事を想いだして、どこかに隠れてしまいたい程恥ずかしくなった。
だいたい、キスだって誰ともした事もないし、勿論それ以上の事なんて、全然……なはずだったのに。
それなのに、憧れの女の子ととのファーストキスだったら夢のようだったと思うのだが、なぜか中年のおじさんと。
しかも思いっきり全部。
(オレ……オレって、もう……)
自分が前の自分とは違ってしまったみたいで、自分ながら怖くなった。
あんな恥ずかしい事を平気でして、しかも気持ち良くてどうにかなりそうだったなんて。
もしかして、自分はああいう事が好きなのだろうか。
いやまさか。
シャマルは媚薬を持ったと言っていたから、そのせいだ。
そうに違いない。
でも……ツナはシャマルに抱かれた時の快感を思い出して身震いした。
身体が全部蕩けてぐつぐつに煮えたぎるような激しさと気持ち良さ。
恥ずかしいのにもっとしてもらいたくて、自分から強請ってしまった事も思い出す。
「………」
(オレって……)
「おい、落ち込むな。これでお前も一人前になれたんだからな?」
「い、一人前って……恥ずかしいからやめてよっ!」
リボーンの声が冷静なのが耳を塞ぎたくなるほど羞恥を掻き立ててくる。
「あとは守護者をどう誘惑するかだが。……ツナにはまだそこまでできそうにねーな」
「ゆ、誘惑なんて、できないったら!今日だって、シャマルが全部やってくれたから、なんとかなったんんだし」
「それじゃ駄目だぞ?ツナの方から誘惑してたらしこんで、相手をその気にさせなくちゃならねーんだからな?」
「む、無理っ!絶対無理!」
「まー、無理なんて言ってる場合じゃねぇからな」
リボーンが爽やかに笑うのが怖い。
「とりあえずツナの尻が治るまでは一休みだ。次は、来週だな」
「来週……」
「覚悟しとけよ?」
「そ、そんなぁ……無理です!」
思わず起きあがって抗議しようとしてずーんと尻が痛んでツナはベッドに撃沈した。








「おはようございますっ、10代目!」
次の日。
まだ痛む尻を庇いつつ学校に行くと、教室で獄寺が待っていた。
ツナを見た途端ぱぁっと顔を輝かせて走り寄ってきて、礼儀正しく最敬礼してくる。
「お、おはよ、獄寺君」
「あれ、10代目。…どこかお加減でも悪いんすか?」
「え、大丈夫、たいした事無いから…」
まさか、シャマルとセックスしてやられた尻が痛い、なんて言えるはずもない。
(っていうか、獄寺君とも…セックス……するんだよね…)
獄寺の顔を見たら、その事が思い出されて、ツナはまじまじと獄寺を眺めた。
「な、なんすか、10代目?…オレの顔に何かついてます?」
「う、ううん、べつに…」
彼と、セックス?
昨日やったみたいに、オレが獄寺君と裸で抱き合って、獄寺君の……その、アレをオレの尻に……。
───絶対、無理!!
ツナはぶんぶんと頭を振った。
考えただけで、……怖い。
何が怖いって、怖いものの正体さえ分からない所が怖い。
「よ、ツナ、はよ!」
溜息を吐いて椅子にこわごわ腰を下ろしたところで今度は山本が元気よく声を掛けてきた。
「おはよう、山本…」
(…山本とも、……セックス…)
なんだか血の気が引いた気がする。
あんな恥ずかしい事を、この二人としなくちゃならないなんて…。
いや、二人だけじゃないんだった。
雲雀さんとか……。
雲雀の事を考えると、更に血の気が引いた。
「10代目っ、大丈夫っすか?なんか顔色青いっすよ?保健室、行きますか?」
「い、いや、大丈夫だよ。ちょっと寝不足かな、なんて」
「ツナ、またゲームやって徹夜でもしてたんだろっ」
山本がにかっと笑う。
「う、うん。…ちゃんと寝なくちゃダメだよねぇ…」
保健室に行くとシャマルがいる。
昨日の今日でシャマルとも顔を合わせるのが恥ずかしい。
心配そうに見つめてくる獄寺に大丈夫大丈夫、と手を振って、ツナは内心溜息を吐いた。
前途多難だ。
(みんなとエッチするなんて。…契約なんて、無理だよー…)
ツナは心の中で泣きながら、ぐったりと机に突っ伏した。









しかし。
ツナの尻の痛みも治って次の休日になるという前の日の夜。
新たな試練が待ちかまえていたのだった。









「明日は休みだな、ツナ」
やっと金曜日になって窮屈な授業も終わり、帰宅してほっとしていたツナにリボーンがいつものごとくポーカーフェイスで話しかけてきた。
「うん、そうだけど…」
嫌な予感がする。
もしかして、明日から早速、守護者の誰かと、とか?
ツナがびくびくしてリボーンを窺うと、リボーンがしれっとして言った。
「明日はディーノが日本に来るぞ」
「え、ディーノさんが?何の用だろ…」
「ツナに会いに来るんだぞ」
「……オレに?」
「そーだぞ。ディーノは今日の夜に日本に来るから明日はお前がディーノの泊まってるホテルを訪ねるんだぞ」
「オレに用事なの?」
ツナは首を傾げた。
この間のリング争奪戦の事後処理でもあるのだろうか。
ディーノには随分と世話にもなったし、お礼を言いに行くのだろうか。
「明日はディーノとセックスするんだぞ」
「…え、えぇ!!?」
突如リボーンがまたしてもとんでもない事を言い出したので、ツナは肝を潰した。
「ちょ、ちょっと待ってよっ!ディーノさんって、……関係ないじゃない!」
「シャマルだけじゃお前の修行が心もとないからな。ディーノにも協力してもらう事にしたんだぞ。ディーノはキャバッローネのボスだし、大人だからな。うまくやってくれるだろ」
「……ディ、ディーノさんとっ!!」
「あ、ディーノにはなんで日本に呼んだか言ってないぞ。お前がディーノを誘惑してみろ。シャマルの時はシャマルがお前を指導してくれたと思うが、今度はお前が自分からディーノを誘惑してセックスするんだぞ?」
「そ、そんなぁっ、無理っ!絶対無理だって!ディーノさんとか、そういう気ないから、絶対!」
「その気のない守護者だっているだろ。そういうのもその気にさせねぇと駄目だからな。それに守護者はお前と同じ中学生だ。まだセックス経験ねぇやつも多いだろ。そういう場合お前がリードしなくちゃならねーしな。ディーノは経験豊富だから、いろいろ教わってこい」
「……えー、だ、駄目っ、できないよ!そんなぁ、恥ずかしくってディーノさんと顔合わせられないよー!」
「我が儘言ってる場合じゃねーだろ。往生際が悪いぞ、ツナ。明日は朝からディーノの所に行く事になってるからな。早く寝ろ」
「…む、無理っ!無理ですっっ!って、もう寝てるしー!」
スピー、と鼻提灯を膨らませて寝てしまったリボーンにツナは途方に暮れた。
なんで自分がディーノと……。
シャマルとだって噴飯ものだったが、シャマルの場合は向こうがつねにリードしてくれて自分はシャマルに任せていれば良かったのでなんとかなった。
まぁ、思い出すと恥ずかしくてどこかに隠れたくなるぐらいだが。
しかし、ディーノは……。
(…ディーノさんって経験豊富なんだ……って言っても、それって女の人とでしょ…)
ディーノの派手な容姿を思い浮かべて、ツナは項垂れた。
どう考えても、自分みたいな同性とセックスするようには見えない。
誘惑、とかなんとかリボーンが言っていたが、そんな事ができたらこの世はなんでもできて、自分がボンゴレの10代目にだって、寝ていてもなれそうである。
「…無理だよー……」
ディーノに軽蔑されるに決まっている。
っていうか、とにかく、無理。絶対できないって!!!
などと思い悩むツナの煩悶には全く関係ないように、リボーンはスピスピと寝ていたのだった。






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