◇応接室 2 







(…………)
重い痛みに、血流の流れに添って頭がずきんと響く。
痛みには慣れている獄寺だが、それでも痛いものは痛い。
霞む目を開いて、擦ろうとして、
「…………」
意識を失っていた間にであろうか、自分の両手が拘束されているのに獄寺は気付いた。
後ろ手に縛られている。
感触からみるに、ネクタイのようだ。
──と、下半身に何か途轍もなく違和感を感じて、獄寺は眉を顰めた。
なんだろう、この感覚は。
頭もずきずきと痛むのだが、下半身から別な痛みが這い上がってくる。
鈍く重く、下半身全部を占めるこの痛みは……。
後ろ手にされた手首も痛む。
どうやら自分はソファではなく、応接室の絨毯の上に直接転がされているようだった。
先程トンファーで殴られた時にソファから落ちたのだろう。
手首が痛み、霞んだ目に応接室の天井と、額にかかってずらりと並んだ歴代校長の白黒写真が見えたので、仰向けにされているようだ。
(……たく、…なんでオレがこんな…)
と思いながら身体を起こそうとして
「……いてぇッッ!!」
上体を少し起こした所で、激烈な痛みが下半身を──というよりは身体の中心を割くようにして襲ってきたので、獄寺は耐えきれず悲鳴を上げた。
(なんだよ、これはっ!)
顔だけ上げて自分の下半身を見て、呆然とする。
無理もない。
獄寺の下半身は…いや、下半身だけではないが、全ての衣服が剥ぎ取られて、裸になっていた上に、信じられない事に、自分の両脚が大きく開かされ、その中心、つまり尻の孔にトンファーが突き刺さっていたのだ。
「……………」
思わず瞬きして、もう一度、自分の股間を見てみる。
裸にされているから、臍から陰毛からペニスからとにかく丸見えだ。
そしてペニスの向こう側に銀色に光るトンファーが突き立っている。
どうみても、自分の体内に先が埋まっている。
いや先だけでなくて結構埋まっている。
どうりで体内に違和感と痛みを感じたわけだ。
というか、───なんだこの変態は!!!
獄寺は瞬時頭が沸騰した。
「おい、雲雀っ!!」
大声を出すと頭がズキーンとし、トンファーが突き刺さっている尻が鋭く痛んだ。
「ん、なに?気がついた?」
声のする方にずきずきする頭を向けると、雲雀が獄寺の隣のソファに悠然と座っていた。
足を組み、一つ残ったトンファーをいじりながら、黒い瞳をきらりと光らせて獄寺を見下ろしてくる。
「テ、テメェ、この、…変態っっ、これ、とれっ!!」
後ろ手に拘束された手を動かし、必死になって尻に食い込んだトンファーを体内から押し出そうとする。
「ワオ、元気いいね…。でも、出しちゃ駄目だよ。…折角入れたんだからさ」
ぐぐっと反対にトンファーを押し込まれて、獄寺は身を捩って苦悶した。
痛みが脳髄まで突き刺さり、トンファーで殴られた痛みと相俟って激痛となる。
パシャ…。
カメラのシャッター音がして、はっと雲雀を睨むと、雲雀が携帯を弄って獄寺のあられもない姿を撮っていた。
「お、おい、何する気だよっ……って、なんで、こんな事されなくちゃならねぇんだよ!」
怒りを通り越して、情けなくて悔しくて涙が出てきた。
雲雀を蹴り上げようと脚を動かすが、呆気なく避けられた上に、トンファーがぐりっと内部で動いて、
「ぐぁ……ッッ!」
自分で自分を痛めつけてしまった。
「面白いね、君。…動かない方がいいよ?」
「つうか、なんだよ、これは!オレがなにをしたっていうんだ!」
「さぁ…だって、君、沢田の事ばかり言ってるから」
「は?10代目がなんだよ…!」
「僕だってたまには誰かに執着するって事だね、獄寺。写真も撮ったし、これを沢田に見せるのも面白そうだね」
「……お、い、冗談、やめろよ…」
心臓がきゅっと縮んだ。
まさかこんな恥ずかしくて情けない姿を綱吉に見られたりしたら・・
思わず声が震えた。
こんな姿、絶対に彼には見せられない。
戦闘で傷だらけになっているのなら全然構わない、どんな姿だってさらせるが、こんな、全裸でしかも尻にトンファーなんか突き立てられた格好なんか…。
「テメェ、こんな変態だったとは知らなかったぜっ!変態!!」
焦りが狼狽を生んで喚き散らすと、雲雀が細く黒い眉を少し顰めた。
「そう変態変態、言わなくてもいいよ。僕だって自分でそう思ってるんだから。君って僕のそういう血を呼び起こす何かがあるらしいね?」
トンファーをぐりっと回されて、獄寺は目の前に火花が散った。
痛い。
その上に、腸内のどこかにトンファーがあたったのだろう、痛みと共に表現しようのない衝撃が下半身を襲った。
「へぇ……結構気持ちいいんだ?勃ってるよ、君」
ぎょっとして自分のペニスを見ると、たしかにいつの間にか頭を擡げている。
びくびくと脈打ち、むくりと蠢いている様に獄寺は瞬時顔を背けた。
「テメェが変なとこ刺激してっからだろ。…こんなことするために呼んだのかよ!」
「さぁ、どうだろ。まぁ、君で遊びたくなったってとこかな…」
「遊ぶとかふざけた事ぬかしてっと後で殺す!」
「後でねぇ…。僕の事本当にやれるとか思ってるわけ?」
「………」
獄寺は眉を顰めて押し黙った。
確かに雲雀は強い。自分よりも強いだろう。
しかし、こんなことをされて屈するなんて、沽券に関わる。
ぎりっと睨み付けると、雲雀が柔らかく笑った。
「写真、随分撮らせてもらったよ。君が意識を失ってる間にね。沢田に見せようと思って」
「…は?な、なんで10代目に!よせっ!」
「沢田に見られるの、そんなにいや?」
「テメェ、変態な事ばかり言ってんじゃねぇ!当たり前だろ!」
「君が僕の言う事聞いてくれるなら、沢田に見せないけどね…」
「…な、なんだよ?」
「言う事、聞く?」
「…………」
頭に来た。
言うに事欠いて脅迫してくるとは。
しかし、弱味を握られているのは自分だ。
綱吉に見られたら憤死してしまう。
とすれば、雲雀の言う事を聞くしかない。
「……なに、するんだよ?」
「…僕に抱かれる?」
「……はぁ?」
「一回でいいよ、やらせてよ、獄寺」
唐突な申し出に獄寺は面食らった。
「君の事、前から気に入っていたんだよね…。いつもまっすぐで可愛いし…」
雲雀がトンファーを弄びながら微笑した。
「普通に頼んでも君じゃ絶対断るだろうからね、まぁ、ちょっと乱暴に頼んでるけど」
乱暴どころか脅迫か強姦だろう、これは!と、獄寺は雲雀を睨み付けた。
「冗談じゃねぇ!テメェ、やっぱり変態だな?」
「…冗談なんか言ってないよ。嫌なら写真を沢田に見せるだけだしね」
「……つか、なんでオレなんだよ。男がいいのかよ、お前は?」
「別にそういうわけじゃないけど、活きの良い草食動物が好きなんだよ。大人しいのはつまらないしね。どうする?いやなら別にいいよ、写真は沢田に見せるし。沢田もさぞかし驚くだろうねぇ…」
「…待った!!」
写真を見せられるのだけは勘弁。
獄寺は狼狽した。
めまぐるしく頭の中で考える。
強さでは自分より雲雀の方が上だ。
だからこの体勢から逆転して雲雀を倒す、とか考えられない。
携帯を奪い取って壊す、というのも無理だ。
しかし、ここで拒絶すれば、雲雀の事だ、絶対綱吉に写真を見せるだろう。
こんな格好の写真を彼に見られたら、恥ずかしくて右腕なんかやっていられなくなる……と思うとぞっとした。
一番獄寺の恐れている事だ。
そんな事になるぐらいなら、別に一度ぐらい、コイツに身体好きにされてもいいんじゃねぇのか。
別に減るもんじゃなし…。
なんでコイツがオレの身体なんかに執着してるのか理解できないが…。
「…おい、オレがOKしたら、本当にその写真は捨てるんだろうな?」
「勿論だよ。僕は卑怯な事は嫌いだからね」
って十分今のやり方が卑怯だろ!!突然殴って襲撃して拘束してこんな格好にしておいてー!と獄寺は心の中で怒鳴ったが、雲雀が怖いので、口に出すのは止めた。
「…じゃあ、分かった。……写真、すぐに捨ててくれるんなら、いい…」








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