◇Vacation 2   







数時間後。
綱吉や山本たちとザンザスは一緒に出掛け、スクアーロはホテルで留守番をしていた。
がっくりしたままのスクアーロに留守番していろ、と言って興味津々の山本や恥ずかしそうな綱吉と共にザンザスが出て行った後、なんとなく手持ち無沙汰になってしまってぼけっとしていたところに、電話が鳴る。
受話器を取って出るとザンザスだった。
「もうすぐ帰る。綱吉たちと部屋で夕食を食うから待ってろ」
綱吉たちがまた戻ってくるのか…。
スクアーロは項垂れた。
先程のザンザスの爆弾発言の後の、綱吉や山本の様子が脳裏に思い浮かぶ。
また、何を言われるか分からない
(つうかよぉ、最近ご無沙汰だったくせに、なんで日本まで来てンな事言いだしたんだぁ?)
スクアーロにはそこが腑に落ちなかった。
旅行先だとバカンス気分にでもなるというのだろうか。
それにしても、わざわざ他人の前で言う事はないだろう。
…まぁ、ここのところしていなかったから、したいと言えばしたいのだが。
いや、すごくしたいのだが…。








「………」
むっつりとして顎をさすっていると、部屋のインタフォンが鳴った。
「失礼します」
ホテルの制服を完璧に着こなした従業員が数人、恭しく礼をして部屋に入ってくる。
手際よくソファを並べ替え、運んできた移動式のテーブルを並べてその上に純白のテーブルクロスを掛け、4人分の食器を美しく並べていく。
それを見ていると腹が減ってきて、スクアーロはごくっと唾を飲み込んだ。
「用意できてるか」
そこにかつかつと靴音を響かせて、ザンザスたちが帰ってきた。
「うわぁ、すげーのなっ。こんな所で食うの初めてだぜー」
「あ、オレも。一般庶民には手が届かないよね」
「テメェは一般庶民じゃねぇだろうが、綱吉」
「アハハ、まぁ、そうだけどさ…」
がやがやと仲良く話しながらまずザンザスが窓を背にして一番ゆったりとしたソファに座り、隣に来いとスクアーロに顎で指図した。
ザンザスを窺いながら座ると向かいに綱吉と山本が座る。
細かい装飾のついた細いグラスが用意され、仄かに香る白ワインが注がれる。
夕食が始まると腹が減っていた事もあって暫くスクアーロは食事に没頭した。
従業員の給仕を受けながらデザートまで進み、食後のエスプレッソの香りに空腹が満たされた事もあってか心地良くなる。
従業員達が食器をあらかた下げて退室すると、部屋はまったりとした空気が流れた。
「あー、なんかお酒飲んじゃったけど、美味しかったね、山本」
酔ったのだろうか、頬を赤くして綱吉が陽気にしゃべってきた。
「うちじゃあ、結構日本酒なんか飲んじまうけどな、やっぱ味が違って美味ぇなー」
「そうそう、やっぱりさ、こういう場所でってのもあるのかな…。ザンザスとかは慣れてるんだろうけどさー」
「ハッ、当然だ。テメェも慣れろ」
「えー……こういうのって、なかなか慣れないよー」
「マフィアのボスが何言ってる。なんでもこなせるようになれ」
「……う、うん……っていうかさ、ザンザス!」
「……なんだ?」
急に綱吉が勢い込んで大きな声を出したので、押し黙って目立たないようにひっそりと珈琲を飲んでいたスクアーロも思わず顔を上げた。
「ね、昼間の話の続きだけど……男同士って、……どうやるのっ?」
思わず口の中の珈琲を噴き出しそうになってスクアーロは慌てて俯いた。
「あ゛?テメェ知らねぇのか?」
「え、知識としては知ってるけど……でもさー……ねえ、山本?」
「え、オレ…?」
綱吉が山本の方を見てにっこりする。
どうみても酔っている。
酔うとこういう性格になるとは知らなかった。
山本は特に酔った様子もないが、綱吉に会わせてにかっと笑った。
「オレも知識でしか知らねーぞ?」
「だよねー?……ねー、ザンザス、実際にはどうなの?痛くないのー?特にスクアーロが」
(はァ……オレかよ!)
綱吉が自分の方を向いてきたので慌ててスクアーロは視線を逸らした。
ンな事振られても困る。
知らんぷりで通そうとそっぽを向く。
「なんだ、知識でだけか。テメェもいろいろ覚えねぇと駄目だな」
ザンザスが偉そうに腕組みをして綱吉を見てフッと笑った。
「よし、じゃあオレとカスの実地でも見てみるか?特別にこれからやって見せてやる」
(あ゛あ゛ー?!)
ザンザスのとんでもない発言にスクアーロは顎が落ちた。
「間抜けな顔してんじゃねぇ、ドカス。10代目が知りてぇって言ってんだ」
「じょ、冗談じゃねぇ!!」
思わず珈琲カップを転がしてバタンと立ち上がると、ザンザスがぎろりと睨んできた。
「テメェ、オレの命令が聞けねぇのか…?」
ドスの利いた声で言われて、う、とスクアーロは後退った。
「え、見せてくれるの?うわー、わくわくするよ!」
絶対酔っている。
酔うととんでもない性格になる10代目か。
スクアーロは綱吉を睨んだ。
普段ならスクアーロに睨まれたりしたら、綱吉などあっと言う間に視線を逸らして逃げていってしまう所だが今は全く動じない。
隣の山本を見ると綱吉と同じく興味津々、わくわくどきどきといった瞳で自分を見つめてくる。
(こりゃ駄目だぁ…)
スクアーロは項垂れた。
「よし、じゃ、寝室に行くか。カス、シャワー浴びてこい」
(どうしてこんなにやる気満々なんだ、このクソボスはァー!)
(アンタそういうプレイが好きだったのかよ!)
ぐったりとソファに座り込んだところを首根っこを背後から掴まれる。
ザンザスに引きずられてスクアーロは寝室へと連れて行かれた。








バスローブを押しつけられシャワーを浴びたらこれを着てこいと言われ、しおしおとスクアーロは寝室の隣にある豪華な展望付きのバスルームでシャワーを浴びた。
「う゛お゛ぉい、本気かよぉ、ボス……」
いくらスクアーロがザンザスを好きで、セックスしたいと思っていても、人前で……それも綱吉や山本の前で彼に抱かれる気にはならない。
絶対萎えるに決まっている。
いや、別に自分は萎えていてもザンザスが役に立てば問題はないわけか…。
(って、そういう問題じゃねぇー!!)
などと煩悶しながらも、久し振りにザンザスに求められていると言う気持ちが無意識にスクアーロを動かすのか、いつもより丁寧に香りの良い石鹸で身体を洗い、旅の汚れを落とす。
髪だけは留守番をしている間に暇に飽かせてホテルの美容室で洗って貰っていたので、簡単に櫛で梳いてバスローブを羽織る。
乳白色のセンスの良いバスローブを羽織り紐を締めると、スクアーロはなんともいえない気持ちになった。
(おい、どうするんだぁ……本当にあいつ等の前でヤる気かよ、……できねー!)
しかし、ザンザスが待っている。
いつまでもバスルームで悩んでいるわけにもいかない。
溜息を吐いてバスルームから出て寝室へ行くと、
「すげー!スクアーロって色っぽいのなー!」
「うわぁ、綺麗ー!うん、なんか男同士ってのも別に違和感ないよね!」
と、無責任な歓声が自分を出迎えて、スクアーロはげんなりした。
寝室も30畳はあろうかという広い部屋で、暖かい間接照明と品の良い調度。
トリプルはあろうかという広いベッドが二つ。
濃い茶色のシックなソファが四つ、低い猫足のテーブルと共に置いてあるが、そのソファがベッドの一つに向かって並べかえられており、いかにも見物しますよ、といった雰囲気で綱吉と山本が鎮座している。
同じ濃い茶色のベッドカバーがかけられた寝台にはザンザスが座っており、寝室に入ってきたバスローブ姿のスクアーロを眺めてフン、と笑った。
「う゛お゛ぉい、ボスさん……冗談はこのぐらいにしておこうぜぇ…」
「あ゛?誰が冗談なんか言ってる。綱吉の希望だぞ、テメェ、オレの顔に泥を塗る気じゃねぇだろうなぁ?」
(…なんでそういう話になるんだぁ…)
「おら、早くこっちに来い」
「…………」
「よっ、スクアーロ、頑張れ!」
山本の暢気な歓声に彼の頭を殴り倒したくなった。








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