◇浮木(ふぼく)  4   







豪奢な天蓋付きのベッドは、複雑な唐草模様の施された光沢のある茶色の布地がベッドを囲むように覆っていた。
ベッドには純白の真新しいシーツがかかっており、ディーノはスクアーロをそのベッドの上にそっと導いた。
壊れ物を扱うように、慎重に、丁寧に。
部屋の照明を落とし、ベッドサイドの古めかしいランプと暖炉の上の蝋燭の光だけにする。
ベッドに腰を掛けたスクアーロの長い銀髪がシーツの上に輪を作り流れ落ち、きらきらと照明の光を受けて煌めいた。
胸が締め付けられるような気がして、ディーノは震えた。
長年待ち望んでいたものを目の前にして、信じられない喜びと共に、不安が全身を苛む。
それは表現しようのない感情だった。
怒濤の如く自分を巻き込んで、感情を翻弄する。
それは決してスクアーロに気が付かれてはいけないものだった。
が、彼が気付く事はないだろう。
スクアーロは今は半分盲目のようなものだ。
自分の寂しさや苦しさに負け、元来彼の持っている注意力や警戒心も萎えている。
ディーノを無自覚に信頼し、気を許しすぎている。
「ディーノ…」
ディーノの名前を呼ぶ甘い雰囲気の声に、股間がずきりと痛んだ。
奥歯を軽く噛んで激情の波をやり過ごし、ベッドに横たえたスクアーロに向かって安心させるような極上の笑みを向ける。
純白のシーツに負けず劣らずスクアーロも純白だった。
シャンデリアの淡い光を受けて、白皙の頬は仄かに染まり、けぶるような長い睫がゆっくりと動いて、銀色のそれもキラリと光る。
ベッドに広がった銀糸の長髪は、手に触れるのも躊躇われるほど美しく、改めてディーノはスクアーロが自分のベッドにいるのだ、という事を実感して震えた。
慎重に上体を屈め、再びスクアーロの唇に、己のそれを静かに触れ合わせる。
数度啄んで、唇だけではなく高い鼻先や上気した頬にも押し当てる。
スクアーロがすっと銀の光のような瞳を細め、気怠そうに両手をディーノに伸ばしてきた。
「オンナ相手みてぇな事してんじゃねぇよ…」
不意にぐっと項を掴まれて引き寄せられる。
勢いに押されてスクアーロの身体に覆い被さるように倒れ込むと、背中に回った腕に強く抱き締められる。
「スクアーロ…?」
身体が密着することで、彼の興奮が触れ合った下半身から伝わってきて、ディーノは息を飲んだ。
熱い吐息が耳に掛かる。
甘く爽やかな彼の体臭が鼻孔を擽り、それだけでも全身が震えるほどの興奮を覚えるのに、更に股間を擦られて、ディーノはくらりと眩暈がした。
今、自分の腕の中に、あんなに憧れ続けた人がいる。
それも自ら誘ってきている。
それでもディーノは迫り来る興奮を押し堪えて、スクアーロの服を慎重に脱がせていった。
けしてここで急いてはいけない。
まるで壊れ物を扱うかのように慎重に、最上の敬意を持って、スクアーロの服を剥いでいく。
やがてディーノの目の前に、煌めく銀色の髪に彩られた、白くしなやかな肢体が露わになった。
その美しさは、ディーノが密かに想像していたよりも何倍も上で、筆舌に尽くしがたい美だった。
薄く張り詰めた乳白色の肌は室内のシャンデリアに照らされて艶やかに生き生きと輝き、皮膚の下の躍動する筋肉を感じさせる。
細身だが鍛えられた身体は寸分の無駄もなく、バランスの取れた美しい筋肉と骨格でできており、余分な脂肪も足りない脂肪も存在しなかった。
抜けるように白い肌に淡い桃色の乳首の色がまた美しく、それを見ただけで、ディーノは興奮が狂暴に増していくのを感じた。
流れる銀砂のような髪は、さらりとして照明を反射し、けぶるような長い睫に彩られた銀蒼の眸が、酒によって潤んで更に蒼を濃くし、自分を見つめてくる。
「スクアーロ……愛してる…」
震える声で愛を紡ぐと、ディーノはそっとスクアーロの身体をベッドに押し倒した。
息を吐く間も惜しんで自分の身に着けていた衣服を脱ぎ、逞しい裸体を晒す。
スクアーロがディーノの裸を見上げて、瞳をすっと細め、形の良い薄い唇を艶麗に笑いに形作った。
「随分体格良くなったじゃねぇか……それに、タトゥがすげぇ…」
ディーノの左腕に浮き上がった刺青は、ディーノがスクアーロと過ごしていた学生時代にはなかったもの。
酒に酔い、そしてまたどこか自暴自棄にもなっているのだろうか、スクアーロが薄い唇を舌で舐め、誘うようにディーノに笑いかけてきた。
「早く、来いよ……」
掠れた甘い声。
誘われてディーノは眩暈がした。
股間があっと言う間に張り詰め、瞬時も堪えきれないほどに膨れ上がる。
どくどくと血流がそこに流れ込み、貧血を起こしそうだった。
だが、ディーノは堪えた。
この、千載一遇の機会を、身体の欲望に負けてすぐに終わらせたくなかった。
スクアーロの中に自分をしっかりと位置づけ、刻み込み、スクアーロを確実に絡め取らなければならない。
スクアーロのペニスは既に堅く張り詰めて頭を擡げており、ディーノの太股にあたるそれは先走りでぬるりと濡れていた。
その感触だけでも全身瘧に掛かったかのように震える。
かぁっと身体の中が熱く噴き上がり、マグマのように滾った熱情が地表に瞬く間に駆け上がってくる。
「スクアーロ…」
さすがに堪えきれずに、ディーノはスクアーロの白くしなやかな身体をきつく掻き抱いた。
スクアーロもそれに応えてディーノの背中に腕を回してくる。
左手の黒手袋が何も身に付けていない銀と白のスクアーロの色を引き立てて、例えようもないほど淫靡だった。
「お前が痛くねぇように……気持ちよく、安心させてやりてーから…」
すぐにでも繋がりたい所だったが、ディーノは微笑すると、一度ベッドから離れ、バスルームからローションを取って戻ってきた。
少しも痛い思いはさせたくなかった。
スクアーロはすぐにでもこの熱をどうにかして、一時的に現実逃避したいのかもしれないが、自分は違う。
スクアーロの現実逃避に自分をしっかりと組み込んで、そちらを現実として彼に認識させ、引き込まなければならない。
そのためには、スクアーロが病みつきになるほど、自分と寝ることは気持ちが良い事だ、と彼の脳裏に刻む込まなければならなかった。
勿論、ディーノはすでに大人であり、彼ほどの美貌の持ち主で、しかもマフィアのドンともなれば、経験は数知れず、数もこなせば技術も向上していた。
スクアーロはそれに対して、ストイックな生活を送っているようであり、彼の背後からいかなる女性の匂いもしない。
つまり、スクアーロはそれだけザンザス一筋なのであり、剣技に全てを掛けているのだろう。
……だから、こと性技に関しては、ディーノの方が圧倒的に有利なはず。
その有利さを活かして、なんとしてもこの銀色の鮫を網に捕らえ、自分の元へ自ら泳いでくるようにさせなければいけない。
「スクアーロ……」
優しく心に染み入るような声で甘く彼の名前を呟いて、ディーノはスクアーロの上に覆い被さると、敬愛を籠めて彼の唇に啄むようなキスを落とした。
「愛してる…オレがいる、スクアーロ……」
スクアーロがくすぐったそうに身動ぎする。
濡れた銀の瞳がディーノを見上げてきて、数度瞬いた。
「馬鹿な事言ってんじゃねぇ……」
口端を微かに上げて笑う様が、かなり気を許している彼の心情を垣間見せる。
ディーノは視線を合わせてにっこりと微笑むと、スクアーロの首筋に顔を埋めた。
爽やかで甘いスクアーロの匂いに陶然となりながらも、耳の下に口付け、食むように唇を動かし、時折強く吸い付いて薄赤い痕を点々とつけていく。
鎖骨まで降りて、白い肌に舌を這わせ、更に顔を動かして、薄桃色に色づいた小さな乳首を口に含むと、スクアーロがびくっと肩を震わせた。
「跳、ね馬っっ…」
舌先で舐り、歯で軽く挟んでくりっと転がすと、スクアーロが息を弾ませ、胸を大きく上下させた。
薄桃色のそこは忽ち赤く腫れ、唾液に光って白い肌との対比がなまめかしく映る。
「…──…っ…く、すぐってぇ…」
どこか甘えを含んだ声に、ディーノは背筋が総毛だった。
情欲に霞む目を瞬いて、身体の中の衝動をやり過ごす。
スクアーロの手がそっとディーノの金髪を撫でてくる。
そんなたわいもない愛撫にも泣きそうな程感激している自分がいた。
スクアーロが愛しい。
感動が全身を揺るがし、感激の余り涙を落としそうになってディーノは堪えた。
愛しい気持ちは本物だ。
スクアーロが欲しくて欲しくてたまらず、卑怯とも言える罠を張って彼を少しずつ罠に落としていった自分ではあるが、それでも動機は彼を愛しているという、切実かつ純粋なものだった。
スクアーロが自分の方を向いてくれないから、こんな手段を執らざるを得なかったが、それでもスクアーロを愛している事には代わりがない。
いや、こういう手段を執ってまでも、彼が欲しい。
それほど自分はスクアーロを欲している。
ぷくりと勃ち上がった乳首は熟れた桃色をしており、唾液で濡れて微かに震え、それを見るだけでも全身が身震いした。
下半身に痛いほど血が流れ込む。
必死で衝動を堪え、ディーノは丁寧に乳首を舐り、時折吸って軽く甘噛みしながら、スクアーロの興奮を煽った。
程なくして、身体の正直な反応に負けたスクアーロは焦れったそうにディーノの髪を引っ張ってきた。
「早くしろぉ…ンなだらだらやってんじゃねぇよ…」
強請る声音は甘く欲情の色を含んでおり、掠れて耳に響く其れはどんな音楽よりも甘美で、過去に抱いたどんな女の声よりも淫靡だった。
いや、比較など出来ない。
スクアーロだからこそ、彼の声で強請られるからこそ、ディーノの身の裡は燃えたぎった。
ディーノは慎重に顔を動かし、スクアーロの雪よりも白く滑らかな絹のような肌に舌を這わせながら引き締まった腹を舌で舐め、そこから濃い銀色のふっさりとした茂みへと顔を移動させていった。
緩く渦巻いて室内照明に輝く陰毛は頭髪より濃く、しかしどこまでも清楚で美しく、その中心で既に勃起しきり、丸く鮮やかなピンク色をした性器は、先端から透明な雫を溢れさせていた。
「───……」
声にならなかった。
スクアーロの其処は、ディーノの脳髄を焼き、目をくらませた。
「スクアーロッ…!」
堪えきれずに喉奧で唸るように声を上げながら、ディーノはスクアーロのペニスにむしゃぶりついた。









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