◇浮木(ふぼく)  5   








スクアーロの熱を、喉奧までぐっと咥えこむ。
体温を感じさせない彼にしては熱く、張り詰めた弾力のある肉塊の感触に、ディーノは陶然となった。
歯を立てて返す弾力を味わい、裏筋の血管を擦り、舌で肉筒を舐め回し、雁首をぐるりと舌先で刺激する。
スクアーロが明らかに快感を感じているように身動いだ。
「う゛…ッ…ン…は、ね、うまッッ……う、あ゛ッッ…」
彼の喘ぎ声が耳に入った途端、瞬時に体温が数度上昇するような衝撃を覚えた。
身体が震え、くらりと眩暈がする。
ぞくぞくと瘧にでもかかったかのように全身が細かく震え、身体がかぁっと熱くなる。
スクアーロを咥え込んで上下に顔を動かしながら、真っ白い内股を両手で押さえ、大きく開かせる。
抵抗無くしなやかな脚が開き、屹立した美しいペニスだけではなく、その下の張り詰めた可憐な陰嚢、それからその奧の密やかな慎ましい入口までが露わになる。
そこは影になってよくは見えなかったが、スクアーロの美しさに比例して淡く色づき、たとえようもなく可愛らしく窄まっていた。
もう、これ以上我慢できるとは思えなかった。
が、ディーノは死にものぐるいで耐えた。
決してスクアーロに痛みを感じさせてはならない。
あくまで、自分との行為は気持ちよく安心できるものだ、と認識して貰わなくてはならない。
スクアーロを頬張った口を窄め、肉棒を扱きながら、ディーノは手を伸ばして先程取ってきたローションを手にした。
透明なピンク色をした、仄かに甘い匂いのする液体を右手に垂らし、人肌に暖める。
指先にたっぷりとつけて、ディーノはその指をスクアーロの後孔へ持っていった。
注意深く、襞に囲まれた秘密の入口を探り当てる。
ペニスを強く吸ってスクアーロの意識を前に集中させ、その隙に指先をつぷりと埋め込んでいく。
「──っう゛お゛ッッ!」
スクアーロが驚いたようにベッドの上できゅっと背中を反り返らせた。
入口のきつい括約筋を乗り越えて指が入ってしまえば、あとは柔らかくうねる熱い粘膜がディーノの指を歓迎してきた。
指が溶けるのではないかと思うぐらいに濡れてとろりと粘膜が纏わりつく。
一気に指の根元まで深く突き入れ、抵抗する時間を作らないようにと、内部で指をぐるりと掻き回す。
慎重に、しかし急いで内壁の向こう、痼る部分を探り当てて、そこをぐっと指先で突く。
「…ぁあ゛ッッ!」
スクアーロがひゅっと息を飲み、ディーノの身体を挟んで両足に力を入れてきた。
それに構わず、ペニスを強く吸い上げ、上下の歯で張り詰めた熱い肉塊を引っ掻くように扱く。
同時に、後孔に入れた指にもう1本の指を添え、ぬるりと差し入れては2本で内部を掻き回す。
中は熱く柔らかくディーノの指を迎え、指がまるで蕩けてなくなってしまうような錯覚に囚われた。
なんと甘く柔らかく、淫靡な動きをするのだろうか。
夢にまで見た───いや、夢よりもずっと、現実は……予想だにしないほど甘美だった。
脳が沸騰し、何も考えられなくなり、スクアーロだけで占められる。
「あ、っあ゛……ンッぁ、ぁあう゛──ッッッ!」
指を内部で突き上げて、ぐりっと前立腺を抉る。
スクアーロが身も世もないというように白い身体をシーツに皺を作って捩らせ、次の瞬間、ディーノの口内に、熱く青臭い情熱の証が勢い良く放たれた。
それは甘露のようにとろりとディーノの喉を潤した。
ごくりと飲み込めば、胃の腑まで甘く溶けていくようだった。
誘ってきたとはいえ、恐らくスクアーロはこのような性的接触とは無縁の生活をしているのだろう。
あっさりと射精した様子といい、愛撫に慣れないでどこか戸惑っている様といい、普段の不敵な暗殺者としての一面は微塵もなかった。
反対に、ただただ愛らしく美しく、ディーノを魅了した。
スクアーロに比べると、ディーノの日常は決してストイックではない。
美しさという点においてはディーノの容姿の方が万人受けする上に、ディーノは態度ももの柔らかで異性に親切ということもあり、相手には事欠かなかった。
特にキャバッローネのドンとなってからは、立場上当たり障り無く万便に女性と付き合う必要もあった。
だが、ディーノにとって心から欲しかったのは、スクアーロただ一人。
彼さえ手に入れば、他に誰もいらない。
学生時代から積み上げてきた積年の思いが今達成されようとしている事に、ディーノは我ながら恐れおののいた。
「スクアーロ……」
射精の余韻に浸りきっているスクアーロは、息を飲むほど妖艶だった。
白皙の美貌がうっすらと赤く染まっている。
銀色の長い睫が震え、瞼を閉じて半開きになった薄く赤い唇が艶やかに濡れている。
忙しく息を継ぐその唇から覗く真っ白い歯や、赤く蠢く舌にもどうしようもなく劣情の炎が燃え上がる。
───抱きたい。
その願いばかりがディーノの中で膨れ上がり、爆発寸前になった。
もう、少しも我慢できそうになかった。
ディーノは指を埋め込んだ部分に更にもう1本指を挿入した。
入口を丹念に解すと、ごくりと喉を鳴らす。
スクアーロはくったりとベッドに上に身体を投げ出し、瞼を閉じて余韻に身を任せていた。
その白い身体をそっと抱き締め、己のペニスにもローションをたっぷりとかけると、ディーノはスクアーロの両足を掴んで自分の肩に担ぎ上げた。
銀蒼の眸を薄く開いて、ディーノを見上げてくる表情が、年齢に似合わずあどけなく、それでいて驚くほど淫蕩だった。
瞬時、全身がかっと燃え上がる。
ぴたり、とスクアーロのアナルに自分のペニスを押し当てる。
温められたローションの甘い匂いを立ち上らせながら、慎重にゆっくりと、ペニスの先端をスクアーロの後孔へと沈めていく。
「──う゛、あ゛、ぁ…ッッ、……、ひッ…い゛、てぇ…ッッッ…!」
スクアーロが形の良い眉を顰め、苦しげに唇を開いて呻いた。
そんな表情にもゾクリと下半身が痛む。
興奮でペニスははち切れんばかりに膨れ上がり、がちがちに堅くなっていた。
その鋼鉄のような凶器を、ディーノは、一度息を吸うと、一気にスクアーロの体内へと突き進めた。
「あ゛あ゛あぁぁ──、う゛うう…ッッッッ!!」
スクアーロが白い喉を晒して、顔を左右に激しく振る。
銀の絹糸のようにさらりと流れる美しい髪がシーツに舞い、きらきらと室内照明を移して光り輝く。
狭い入口を突破するのは、ディーノにも痛みをもたらした。
が、そこで躊躇していると、中途半端な痛みのみをスクアーロに与えることになる。
ディーノはあえて根元まで深々とスクアーロに埋め込んだ。
スクアーロの全身が震え、眉がきゅっと顰められる。
しなやかな腕はシーツを掴んで、弓のように背中が反り返る。
そんな姿も淫靡で愛らしく、ディーノは唇を食いしばって暴発を耐えた。
「スクアーロ……っ、愛してる……」
優しく、柔らかい声で告げると、スクアーロがうっすらと銀蒼の眸を開いた。
「……い、でぇ、ぞぉ……ッッ」
「スクアーロ、好きだ……」
相手の額や眉、目尻、頬にキスの雨を降らせながら、労るように相手を抱き締めて囁く。
スクアーロの身体から力が抜けた。
愛を囁くのは、この際非常に有効な手段だ。
相手の身も心も解かし、快楽への罪悪感を払拭し、自分と繋がっているという実感を覚え込ませる。
「スクアーロ…愛してるよ…すげぇ、嬉しい……」
何度も何度も告白すると、スクアーロが頬を仄かに染めて潤んだ銀の瞳を向けてきた。
「何度も恥ずかしい事言うなぁ…おら、動けぇ…」
恥ずかしがっている様子がどうしようもなく可愛くて、ディーノは我慢できなかった。
「あ、あぁ……じゃ、痛かったら言えよ…?」
興奮に上擦った声で囁き、小刻みに少しずつ、動きを大きくしていく。
狭く熱く溶けてうねるスクアーロの内部からペニスを慎重に引き抜き、腰を落としてずぶっと体内へ進めては腰を回し、前立腺を刺激していく。
同時に右手を相手のペニスへと伸ばし、再度そこを握りしめると、腰の動きに合わせて緩やかに指を絡めて扱いていく。
タトゥの浮かぶ左手で相手の頬を撫で、額に貼り付いた銀髪をそっと払っては蜂蜜色の瞳を細めて相手に口付けする。
「…っ、あ─あ゛……ッッディー、ノ…ッッ……ぁ…ッ…ンあ゛ッ──イ、イイ…ッッッ!」
明らかに快感を感じているらしい声を上げて、スクアーロが顔を振る。
痛かったのは最初に貫いた時だけのようで、その後はディーノの動きに合わせて腰を振っては、両腕をディーノの首に回してしがみついてくる。
「スクアーロ…ッッ!」
視界を奪って煌めく銀色。
香しく甘い体臭。
精液の匂いさえも愛しく、ディーノはどこまでが現実でどこからが自分の見ている都合の良い夢なのか、分からなくなった。
もしかしてこれは全部夢なのだろうか。
長年思い続けたせいで、ついに白昼夢を見るようになってしまったのか。
───いや、違う。
これは現実だ。
現実に今、オレはこの手にスクアーロを抱き、貫いている───!
全身が燃え上がり、左腕のタトウが色鮮やかに浮かび上がった。
スクアーロの中に入っている部分からの快感が、電撃のように脊髄を走り抜け脳まで達し、脳内を瞬く間に侵してくる。
「く、ッ──あ゛、あ゛あッ、デ、ィノッッ……あ゛、ァす、げぇッッ……も、ッッと来いッッッ!」
スクアーロの切れ切れの喘ぎに、確実に快感と情欲が混じり合っているのを聞いて、ディーノは頭の中が沸騰した。
スクアーロのこんな声を聞ける日がくるとは……。
──信じられなかった。
だが、今、この腕に、彼を抱いている。
彼の中に入って、熱い情熱を共有している。
「ス、クアーロ…ッッッ!」
いくらこらえても、絶頂の階段を駆け上がる自分を抑えきれなかった。
激しく抜き差しし、深々と腰を突き入れて、ディーノは全身を痙攣させた。
貧血でも起こしたかのように視界が震え、目の前が暗くなる。
全ての熱情がペニスの先からスクアーロの熱い体内へと流れ込んで、歓喜の瞬間がやってくる。





スクアーロもほぼ同時に達したようだった。
腹に当たる熱い飛沫を、ディーノはうっすらと感じていた。
夢ではなかった。
今、自分はスクアーロを抱いたのだ。
感激に全身が戦慄いて、ディーノは美しい瞳から涙を滴らせた。










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