◇Vita Rosa(ヴィータローザ) 12   








「ディーノさんに悪いことしたかなぁ…」
自宅に戻って風呂に入りさっぱりとしてベッドに入ると、ツナはディーノのことが気になった。
考えてみると、自分の都合で振り回して、セックスまでさせて。
しかもディーノはその気になってしまっているし、それを断って帰ってくるとかかなり酷い人間のような気がする。
「あとでちゃんとリボーンに言いわけしてもらわなくちゃ。ディーノさんに申し訳ないよね…」
ベッドの中での優しいディーノを思い出すと少し胸が痛んだ。
「あ、でも、オレ、ゲイじゃないし…。つうか、遊んでもないしっ!」
ディーノに言われた言葉を思い出して憤慨してみる。
が、少し自信がなかった。
自分は本当に遊んでないと言えるのだろうか。
それに、…男とセックスして気持ち良くなっているのはゲイとは言えないのだろうか。
(あー……って、これから守護者の人たちとやるんだっけか…なんでそういうこと…。…っていうか、マジで獄寺君とか、山本とかと…?)
───あり得ない。
と頭を振りつつも、獄寺や山本を思い浮かべた瞬間、ズキン、と身体の芯が疼いたのを、ツナは感じ取って心中密かに狼狽した。
(やだやだっ!もう寝る…)
とりあえず寝るに限る。
その日は無理矢理毛布を被って目を閉じた。










それから数日。
ツナは真面目な学校生活を送った。
ディーノと逢った直後は、その後守護者と自分がどんな事をしなければならないかと考えて、きっとディーノとの行為の名残なのだろう、身体が変に疼いたりもした。
が、学校に行って普通に獄寺らや山本と接していると、ディーノとの事は、まるで夢のような、現実感のない出来事となっていた。
(そうだよねぇ。あんなのが日常とか考えられないし。…なんか、オレって、自分で自分の事がよくわからないや…)
学校の帰り道、獄寺や山本を別れて、自分の家へ入ると、ツナはふうっと溜息を吐いた。
やっと普通の日常が戻ってきた気がする。
ディーノとの事は…。
あのとき、ディーノには自分から理由を言ってはいけない、という事になっていたから言葉を濁して帰ってきてしまった。
その後リボーンに、なんとかしてくれと言った。
ディーノが定期的に逢いたいと言っているからうまく断ってくれ、と。
きっとリボーンはディーノになにか言ったのだろう。
その後連絡がない。
ないのはほっとするようでもあり、それでいて、なんとなく拍子抜けした気分だった。
更にはディーノに次逢った時どうしたらいいのか、とツナは少し悩んだ。
(考えても仕方がないや、っていうかさ、なんでオレってこういうオレっぽくないことしてるわけ、変じゃない?)
自分でもそう思う。
だいたい、こうやって普通に学校生活を送っていればあんなこと……。
(あんな事するなんて、なんかオレじゃないよ…)
自分がシャマルやディーノとしてしまった事を思い出して、かっと頬に血が昇る。
学校の保健室でシャマルに逢う事はあるが、そこはシャマルだけあって大人である。
すっかりあの時とは違って大人の態度で接してくるので、ツナも最初は身構えていたが、すぐに緊張が解けた。
全く……。
……どうしたらいいのか分かんないや…。
だってさぁ、オレって、どう考えても、ああいう事向いてるような人間じゃないもんね……。
肩を竦めて部屋に戻り、ベッドにごろりと横になって天井を見る。
「おい、ツナ」
突如そこにリボーンが声を掛けてきたので、ツナはぎょっとした。
「な、なに?」
「明日で学校が終わりだな。次の土曜日はいよいよ守護者とやるぞ」
「…えっ、ほ、ホントにやるのー!?」
「何言ってるんだ、折角二人も練習をしたんだし、もうツナだってベテランだろ」
「ベ、ベテランってなにそれ、そんな事ないじゃん!」
「何言ってる。ディーノだって、すっかりその気になってたぞ。すげぇじゃねぇか、あのディーノをその気にさせるなんて、さすがボンゴレ10代目だけあるな、ツナ」
「へ、変な所で褒めないでよ、恥ずかしいんだから、やめてー!」
「お前がこんなに素質があるとはオレも思っていなかった。これなら契約も滞りなくすぐに済みそうだ」
「そんな勝手に進めないでよ、もう無理、無理だったら!今まで大人の人が相手だったから、なんとかなったんだってばぁ」
「つべこべ言うな、ツナ」
「だってぇ!」
そりゃ一週間前だったら、ディーノとヤったばかりで名残があったから、まだできる気にもなっていたかもしれないが。
一週間普通に中学校生活を送っていたら、また元の自分に戻ってしまったと思う。
しかも、今度はいよいよ守護者と……という事は、今までみたいに、大人の人が相手でリードしてくれるとか、上手に進めてくれるとか、そういうのはないわけだ。
自分がリードしたりなんだりしなくてはならない…
なんて、無理に決まってるってー!
はぁ、と溜息を吐いてベッドから起きあがると、リボーンがしれっとして声を掛けてきた。
「明日の最初は笹川だぞ」
「え、……ええ────、お兄さん!!?」
「そうだぞ、ツナ」
「ちょ、ちょっと待ってよ、お兄さんって、最初っからグレード高すぎだよっ!無理っ、無理無理!」
「いちいち文句言うな。明日は笹川と待ち合わせだぞ」
「え、ど、どこで?」
「どこって勿論ラブホテルだぞ。ヤるのが目的なんだからな」
「ええッ!お兄さんがラブホとか来るわけないじゃん!!リ、リボーン何考えてんのさー!」
「そういう心配はしなくていい。明日は予約したラブホまでタクシーで行くぞ。ツナも早く寝ておけ」
「ちょ、無理だってば!ね、ねー。オレの部屋でいいよ、ラブホとかオレ行った事ないし!」
「行った事ないからいいんだぞ。新鮮で楽しいだろ?」
「楽しくないってばー!お兄さんがなんて思うかっ!」
「そこは大丈夫だからツナは明日に備えて寝ろ」
「む、無理っ…ねー、リボーン……って、もう、寝てるし……」
スピー、と鼻提灯を膨らませて寝てしまったリボーンを前に、明日の難関を考えて、ツナはただ項垂れるだけだった。










次の日。
「こら、もう行くぞ!早く支度しろ」
昨日遅くまで眠れなくて漸く明け方に少し眠ったばかりのツナは、リボーンの声で無理矢理起こされた。
「……あ、……え、っと……あー…」
「タクシーが来てるぞ。すぐに着替えて出掛けるぞ」
叩き起こされて、ツナはごしごしと目を擦った。
「あ、あれって……って、リボーン、なにその格好!!」
リボーンを見ると、頭に象の帽子を被っている。
「なにってパオパオ師匠だぞ?ラブホまではオレも一緒に行くからな」
「ええっ─!……て、なんでパオパオ師匠なの?お兄さんになんて説明するのっ?」
「笹川を誘惑するのはお前の仕事だからな、オレはしらねーぞ。ラブホに入ったら頑張れよ?」
「ええー!そ、そんな無責任な……っっ!」
「五月蠅い、行くぞ!」
リボーン相手に文句を言っても始まらない事は分かり切っているのだが。
結局ずるずると引きずられるようにして、ツナは家の前で止まっていたタクシーに連れ込まれた。









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