◇お年玉  1







山本はウキウキしていた。
何しろ、隣には憧れの銀色の剣士、あの暗殺部隊ヴァリアーの副長のスペルビ・スクアーロがいるのだ。
一緒に歩いている。
しかもスクアーロと来たら、和服姿だ。
凄く似合う。
銀色の長い髪はそのまま垂らして、地味な紺色の着物を身に纏っている。
二人で歩いて、これから初詣に神社に向かうところだった。
朝早く、まだ息も白く凍るように寒いが、山本もスクアーロもそんな事は苦にならない。
暑さ寒さにも身体がすぐ慣れるように鍛えているからだ。
だから寒くはない、が、動悸がする。
初日の出はもう終わったが、朝からからりと晴れた青い空に、眩しい冬の陽射しが、スクアーロの銀色の髪をきらきらと輝かせている。
それが目に入って眩しい。
綺麗だなぁ、と山本は感嘆し、そして仄かに頬を染めた。










スクアーロが日本にやってきたのは昨日。綱吉がザンザスに頼んだからだった。
指輪戦から数年経って、両者の関係も和やかなものになり、綱吉も山本も高校に進学した。
綱吉や山本がイタリアに行く事は何回かあったが、ザンザスが日本に来る事はない。
かわりにスクアーロが、どうやら彼は日本贔屓らしく、年に数回はやってくる。
それで綱吉が、今回山本のために、わざわざザンザスにスクアーロを日本に寄越してくれるように頼んだのだった。
もちろん山本の名前は出さない。
ザンザスの名代として、綱吉に会いに来たのではあるが、実際は特にスクアーロはやることはない。
スクアーロが日本に来ると、歓待役はたいてい山本だったから、今回も山本が歓待して、それからちょうど新年だったから、というので、スクアーロの方から、初詣行かないか、と山本を誘ってきたのである。
スクアーロは並盛ではなくもっと都会の瀟洒なボンゴレ系列のシティホテルに泊まっていたので、山本がそこに赴いた。
元旦の朝早くて寒かった。
ごく普通の、男子高校生らしい格好で赴いた所、出てきたスクアーロがばっちり着物を着こなしているのに驚いた。
「あ、あけましておめでとうっす、スクアーロ。…それ、どうしたんだ?」
と聞くと、
「う゛お゛おぃ、あけましてだぁ。これかぁ、こりゃぁ、オレが自分で着たんだぜぇ、似合ってんだろ?」
「え、スクアーロ、自分で着物とか持ってて、しかも着付けもできんのか?」
「あ゛あ?勿論だぁ。文化を知るってのは、なんでもできるようにならなくちゃ駄目って事だろうが」
という返事が返ってきて山本は内心驚愕した。
さすがスクアーロだ。妥協がない。
ばっちり着こなしたスクアーロと共に歩くと、初詣に来た周囲の善男善女たちがちらちらと見る。
それが誇らしくもあり、また自分がまるっきり普通の格好をしているのが恥ずかしくもあった。










ホテルの近くの神社は、境内は人が多くごったがえしていたが、背後の杜の中へと入ると寒いせいもあってか、殆ど人影が無くなった。
きりっと冷えた空気に針葉樹の高い樹から木漏れ日が差し、鳥の声が時折聞こえる。
深閑とした中を二人で歩いていると、山本はなんだか別世界にいるような気がした。
「スクアーロが来てくれて嬉しいぜ」
「あぁ?また変な事言ってやがる。任務で来たんだろうがぁ、任務でなぁ」
「まーそうだけどさ。でも嬉しいんだ。こうやって一緒に歩けるし」
スクアーロが眉を顰めた。
「一緒に歩くだけじゃしょうがねぇだろ。どうだ、剣の稽古でもすっかぁ?」
「あ、あぁ、してぇけど、さすがに今日は元旦だし、ここ神社だし。竹刀とか持ってねーし」
スクアーロが肩を竦めて豪快に笑った。
「まぁそうだなぁ。剣の稽古だけじゃなくても、気配を消すとかよぉ、体術とか、いろいろ修行はあるぜぇ?」
「じゃあ、帰ったら、すこしお願いしてもいい?オレんちの道場とかで」
「おー、初稽古、だなぁ」
「スクアーロってさ、いろんな言葉知ってるんだね」
「まぁなぁ、その国の文化はいろいろ調べてっからよぉ」
また密かに感心する。
山本もイタリア語を目下勉強中ではあるが、なかなか、学校の勉強もままならず、更に野球部に入って毎日遅くまで練習もしているから、どうもどれも中途半端になってしまっている。
スクアーロなら、きっとどれをやってもばっちりこなして、しかも余裕なんだろうなぁ、などとぼんやり考える。
格好いいよなぁ……。
元々七カ国語しゃべれるんだもんなぁ、頭だっていいんだろうし、綺麗だし、強いし……。
などと考えていたらぼーっとしていたらしい。
スクアーロに怒鳴られた。
「う゛お゛おぃ、何ぼやっとしてる。…そういやテメェ着物は着ねぇのかぁ?」
「あ、うん、……持ってるんだけど着てこなかった。スクアーロが着てるなら着てくればよかったな。スクアーロ、ホントちゃんと着てるからびっくりしたぜ」
「勉強してきたからなぁ、これで着方はいいんだろうぉ?」
杜の奥深くまで歩いてきたらしい。
周囲には誰も居なくなった。
深閑とした新鮮な冷たい空気、きらきら光る日の光、静かな雰囲気に煌めく銀の髪。
思わず見とれる。
「しかしよぉ。下着穿いてねぇとすうすうするぜぇ」
神聖な空気をぶち壊すような台詞に山本ははっと我に返った。
「え、何も穿いてねーの?別に下着穿いててもいいんだぜ。褌っていう手もあるし」
「お、褌か悪くねぇなぁ。次は褌穿いてみっか」
「……ホントに何も穿いてねーの?…寒くねー?」
なんか気になってスクアーロの腰の部分を凝視してしまった。
と、突如スクアーロが山本の右手を掴んで、ぐいっと着物のあわせから手を股間へ直接に差し込ませてきた。
(……………っ!!)
ふにゃ、と暖かく柔らかい器官をダイレクトに掴んでしまい、山本は仰天した。
「ス、スクアーロッ!!」
「ほら、穿いてねーだろぉが?男らしーだろ?」
変なところでスクアーロがふふん、と胸を張る。
──それにしても……。
右掌にちょうど……どうやらスクアーロの陰嚢が当たっているらしい、柔らかくふにゃっとした感触がする。更に親指あたりにはペニスの根元だろうか…。ちょっと芯のある長い物が…。
更に人差し指や中指の先は…奥まった襞に触れている感じがする。
(………………)
かぁっと頬が赤くなって山本は俯いた。
手をすぐ抜かなければ。
着物の袷も乱れてしまうし、なんといってもちょっとまずい…。
とは思うものの、手が抜けない。
それどころか、手から伝わってくる温かいスクアーロの性器の感触に、一気に体温が上がったようで、さっきまで痺れるように寒かったのが、今は火照って熱いぐらいになってしまった。
「ん゛?どうしたぁ?ほら、ちゃんと穿いてねーだろぉ?」
スクアーロが首を傾げて山本を覗き込んできた。
(スクアーロって……こういうとこ、なんでこうなんだろう…もー……!)
そう、本人は全然何の思惑もないのだ。
ただ、証明してみせただけなのだ。
素直というか、何というか……山本は妙にイラっときた。
山本は元々スクアーロを慕っている。好きだ。恋している、と言ってもいい。
スクアーロだってその気持ちが分かってないはずはない…とは思うが、実は分かってないのか。
こんな事してきて、無意識に誘ってるのかと思ってしまう…けど、本人にはそんな自覚はないのだ。
無性に腹が立ってきた。
苛々するような、居ても立っても居られないような、なんとも表現しようのない気持ちに駆り立てられる。
(…………)
「なぁ、スクアーロ」
山本は殊更無邪気を装った。
「おー、なんだぁ?」
「……外人さんのココって、オレ見た事ねーんだ。……見せてもらって、イイ…?」
「あ゛あぁ?」
「……駄目?スクアーロならさ、そういう細かい事気にしない豪快な性格だからさ、見せてくれっかなって思って」
内面を見せないように表面上は純粋に好奇心、という感じの表情をして。
スクアーロにお願い、というように上目遣いにお願いしてみる。
スクアーロがふふん、と鼻で笑った。
「なんだぁ、ンなとこ見て面白いのかぁ?まぁ、いいぜぇ!どうせ減るもんじゃねーしなぁ!」
さすが、スクアーロ。
頭がいいのか悪いのか。
彼は返答するなり、躊躇もせずにがばっと着物の裾をからげ始めた。
「誰もいねーから良かったぜぇ。…ほら、これでいいかぁ?」
森の中。きらきら光る綺麗な銀髪。
空の色と光を合わせたような透明な美しい瞳。
渋く落ち着いた、髪の銀色を引き立てるような色の着物。
そして下半身は………。
(この人、本当に何にも気にしてねーんだな……)
仁王立ちになって足を肩幅ぐらいに広げ、両手で着物の裾を掴んで引き上げ、股間を輝く元旦の陽光に晒しているスクアーロを見て、山本は感動した。








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