キャバッローネの館での耐え難い悪夢のような一時の後、スクアーロもザンザスも監禁から解放され、ヴァリアーに戻ることとなった。
その別れ際、ディーノはスクアーロに、
「これからはザンザスを思いきり抱けるだろ、もう我慢しなくていーんだからな?」
と皮肉めいた台詞を残した。
スクアーロがザンザスを密かにそういう対象として見ていた…。
それは、ザンザスのあずかり知らぬ所であった。
それが、ディーノの策略によって暴かれてしまったのだが、俯いて唇を噛んでいたスクアーロは、その時のディーノの言葉に一言も反論しなかった。
──しかし。
スクアーロはその後一切、ザンザスに触れようとはしてこなかった。
前の通り畏敬と敬愛の念を持って接してはくるものの、二人きりになっても決して近寄ってこない。
それは徹底していた。
以前にも増してザンザスには忠誠を誓い、恭しく最大の礼儀を持って仕えている。
ザンザスが歩けば背後に付き従い、ザンザスが食事をするときには給仕をし、いつも頭を下げている。
しかし、それ以上は近づかない。
ザンザスに触れようなどとは絶対にしてこない。
スクアーロは、ディーノの館での一件を、全て無かった事にして忘れ去るつもりらしかった。
一方ザンザスはと言うと、スクアーロのように簡単にはいかなかった。
一度抱かれた身体は、スクアーロを、……男の身体を求めていた。
あの時──ディーノの館で輪姦された時、ザンザスには媚薬が使われた。
それはザンザスの身体に微妙な影響を与えた。
元々薬には感応しやすい体質だったが、ディーノが処方した媚薬に含まれる成分が、8年の眠りの後目覚めて不安定だったザンザスの精神や肉体を、微妙に作り替えたようだった。
確実に前よりも──8年前にはそういう関心も欲望も、勿論無い事はなかったが、易々と制御できるものであったのに対し──あの出来事があってから、ザンザスは自分の肉体の暴走を止められなくなった。
それは肉体的なレベルで如何ともしがたい欲望であって、理性ではどうする事もできなかった。
昼間はまだ仕事に紛れて誤魔化していられる。
が、夜になって寝室に入り一人になると、昼間我慢していた分身体が火照り、股間は火傷するほどに熱を持って勃起して、触らずには居られなかった。
それだけではなく──一人で慰めてもどうしようもないような疼きと飢えが身体を支配して、ザンザスは苦悶した。
ペニスを慰めるだけでは到底満足できない、深い飢餓と疼き。
体内深く擦られ穿たれ、突き入れられたい、という暗い欲望。
あの時……ディーノの部下に犯され、それからスクアーロとディーノにも犯された時、今まで生きてきて初めての、それも圧倒されるような絶大な快感に、ザンザスは全身を支配された。
屈辱さえもが快感にすり替わって、辱められればられるほどに身体が火照り、快感に身体中が狂喜した。
次から次へと自分の内部に押し入る男たち。
ずしんと突き上げられる、甘く重い衝撃。
痛みなど微塵も感じず、ただただ名状しがたい快楽に支配される心と身体。
あの時の快感を思い出すと、ザンザスは震えが止まらなかった。
一人でペニスを慰めているだけでは、到底我慢できない。
後ろを………尻の中、身体の中を、思う様抉られて、熱く爛れている内部を掻き回されたい。
そうしてもらって初めて、深い快楽に我を忘れる事ができる。
満足する。
しかし、ヴァリアーにはそれをしてくれる人間が誰も存在しなかった。
さすがに、スクアーロ以外にそんな事を要求できるはずもない。
スクアーロ以外の他人に自分のそんな恥ずかしい性癖が知られる事だけは、どうしても我慢できない。
死んだ方がマシだ。
が、その、唯一の可能性であるスクアーロは、決してザンザスに触れてはこない。
「う……ッく……ッッン…ッ!」
寝台の上でもどかしげに寝着のズボンを脱ぎ、勃起した男根を苛立ち紛れに力強く握りしめ、先端を爪で引っ掻く。
ズキン、と針で刺されるような鋭い痛みが脳髄まで突き刺さってきたが、それでもザンザスは発作のような情欲を鎮められなかった。
苦し紛れに、ディーノから渡された媚薬のカプセルを口に含む。
依存性があると自分でも分かっていたが、それも止められなかった。
カプセルを嚥下すると、即効性のあるそれが効いて、一気に身体が熱くなり、敏感になってぞくぞくと震えてくる。
ペニスを弄るだけでも、なんとか自分の抑えがたい衝動が充足していくのが分かる。
赤く腫れ上がるほどにペニスを弄り、丸くぬるりとした先端に何度も爪を突き立てて鮮血を滲ませ、そうしてザンザスはようやく満足した。
絶頂と共に真っ赤に膨れた先端から、血の混じったピンク色の精液がほとばしり出、尿道口がズキンと染みる。
「……はァはァ……く…ッッ………ッ…は…」
肩で大きく息をしながら、ザンザスは前のめりにベッドに沈み込んだ。
思うようにならない身体が厭わしかった。
誰かに尻を貫いてもらいたくてたまらない自分が、……淫猥な肉体が呪わしい。
だが、───我慢できない。
一度、スクアーロに無理矢理触れようとした事がある。
部屋に呼びつけて引き寄せ、有無を言わさず圧し掛かった。
しかし、スクアーロには深い苦悩の表情で拒まれた。
それも、申し訳ない、という身も世もないような様子で拒まれ、圧し掛かったまま、ザンザスはそれ以上何もできなくなった。
いくら身体が疼いていても、さすがに殉教者のようなスクアーロを犯す事はできなかった。
自分のプライドが、存在価値が、そこで全て粉々になってしまうように思えた。
自分が自分でなくなる……、壊れてしまうのではないか、という恐怖で、全身が凍り付いた。
自分の肉欲よりも、その恐怖は勝った。
スクアーロが身体では抵抗せずただ顔を背け身体を堅くしている様にも、……まるで諦めたように耐えているのにも傷付いた。
深く傷付き、そしてそんな自分が耐え難く、ザンザスは懊悩した。
スクアーロは、ザンザスを犯した事を非常に深く後悔しているのだろう。
ザンザスにとってスクアーロは、表だっては決して言わないものの、何物にも代え難い、大切な存在である。
だからこそ、それ以上無理無体な要求はつきつけられなかった。
そんな事をしてしまう自分が、耐えられなかった。
いきおい、……二人の間には微妙な遠慮と雰囲気が漂うようになった。
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