◇Vita Rosa(ヴィータローザ) 17








次の週も、表向き、ツナはいつもと同じように何事もなく学校生活を続けた。
いつものように朝登校し、五教科や体育や音楽に悪戦苦闘し、放課後になって帰宅する。
しかし、頭の中ではツナは今までになくいろいろと考え悩んでいた。
この間のランボとの一件、それからその前の笹川との一件。
リボーンが守護者との契約が必要なのだと言えば、それは本当にその通りなのかも知れない。
破天荒とは言え、あの家庭教師の言う事に嘘はないからだ。
――しかし。
だからと言って、まるで強姦するようなやり方や、相手を騙して無理矢理、と言うのはどうなんだろう。
確かに目的を達成するには手っ取り早くて確実な方法なのかも知れないが、でもそういう事をする度に自分の何かがすり減っていくような気がする。
(いや別にその…、うん、みんなとラブラブになりたいとかそういうんじゃないんだけどさ、男同士だしね…)
でも、もう少し心の通った暖かなやり方があるんじゃないか。
例えば…、最初のシャマルやディーノの時は相手が事情を知っていたからというのもあるが、比較的和やかに、まぁ変な意味楽しくできたような気がする。
どうせやらなければならないのだったら、ああいう風に和やかに相手も楽しんでやってもらいたい。
(なーんてね…)
贅沢なのかなぁ…。
でも、どうなんだろう。
もうやめようかな……、いやいや、でもリボーンの命令は絶対だしなぁ。
セックスじゃなくてぼこぼこに殴られるっていうのをやってもらうってのはどうかな。
……いや、それは怖い。
セックスと暴力とどっちがいいっていったら、やっぱりセックスになっちゃうか。
などと授業の終わった放課後の教室で一人バッグに教科書やノートを詰め込みながら、クラスメイトたちがみんな帰ってしまった後も一人うじうじと悩んでいると、がらっと教室の前の扉が開いて、
「お、ツナじゃねぇか、まだ帰ってなかったのか?」
と明るい声がした。
「山本、どうしたの?」
「あぁ今日か?実はさ、今日は部活休みにしたんだ。今日から親父がちょっといねぇもんでさ、早くうちに帰って色々家のことしねぇとな」
「ふーん…山本って偉いよねぇ」
「ツナももう帰るんだろ、一緒に帰らねぇか?」
「うん」
山本が自分の机の所のバッグを手にとってツナを振り返ってくる。
ツナもうんと言って山本と一緒に教室を出た。









並盛中学校からツナの家までには少し寄り道になるが、途中に山本の家である竹寿司がある。
一緒に帰ると言う事で自然竹寿司への道を歩きながら、ツナはぼんやりと山本を見つめた。
山本ともやらなくちゃいけないんだよなぁ、あーあ…
山本の事もランボみたいに騙し討ちをするのかな。
いやいや、そういう事はできないよなー。
だって山本だもんな…。
っていうか、山本とかどうやったら誘えるわけ?
わかんないよなぁ…。
山本は野球部のエースでもあるし、それから背も高く顔立ちが良く愛想も良いことから、女生徒にとても人気がある。
はっきり言って、ツナなんかとは比べものにならない。
というか比較すること自体おこがましい。
クラスメートや同じ中学校の女子生徒だけでなく地元の高校生にも人気があるらしく、よく街を歩いていると声を掛けられているらしい。
そんな話をクラスメートから羨望混じりに聞かされている。
そういう点では山本は自分の守護者であるとは言え、普段の生活でははっきり言って行って別世界の人間とも言える。
そんな山本が自分を慕ってくれて親友になってくれているのは非常に嬉しいことである。
「ツナ、ちょっとうちに寄っていかね?親父いねぇからよ」
「あ、うん、そうだね」
昔の事を思い出していたら、なんとなく平和な気持ちになってツナはにっこりと笑った。









「お邪魔しまーす」
親父さんがいないという事で、竹寿司は今日は閉めていた。
裏口から上がって、山本の部屋のある二階へ上がる。
階下の台所から山本がペットボトルのお茶と、煎餅を持ってきた。
「あ、ありがとう、山本って、まめだねぇ」
「まぁうちはさ、お袋がいねぇからな。親父とオレで家事とか分担してるわけだし」
「えらいよねぇ。オレなんかとは大違いだな…」
「ん、どうしたどうした?最近にしちゃ珍しく落ち込んでね?」
「そうかな」
「つうか、最近ちょっとなんか、落ち着きがないっていうか、…なんかいつもと違うのな、どうしたんだ?」
山本が真面目な顔になってツナの顔を覗き込んできた。
「うーん……そう見える?」
「あぁ、ここ二週間ぐらいかな?」
(山本、結構鋭い…)
ここ二週間ぐらいといえば、ツナが笹川やランボと契約をしていた期間である。
(うーん、どうしようかなー…)
今いろいろと悩んでいる事を山本に言ってみたら、もしかしたら何か意見をしてくれるだろうか。
いや、でも、山本は一応自分の相手候補なんだし、そんな事を聞かされて、引かないだろうか 
「おーい、どうした?ツナはなんだかんだ言って行動派だろ。悩みがあったら自分で何でも解決してきたじゃねーか」
「うーん、そ、そう?そんなこと無いよ、ダメツナだし…」
「駄目駄目って言うけどさ、お前が一番すげぇとオレは思うのな。オレたち一番お前の事頼りにしてんだぜ?」
「えー。そうなの…?」
褒められると結構嬉しくなる。
自分の事を10代目と言って盲目的に慕っている獄寺はちょっと別格だが、それ以外の守護者となると山本が一番頼りになるかも知れない。
ツナは思い切って、今、悩んでいる自分の事を話してみる事にした。









「っていうわけなんだあ……」
お茶を飲み煎餅をぼりぼりと囓りながら、ツナがぼそぼそと途切れ途切れに話した打ち明け話を、山本は目を丸くしたり眉を寄せたりしながら真剣に聞いてくれた。
「それで、いろいろね、うん……どう思う、山本?」
「どうって、そうだなぁ…」
全部聞いて山本がうーんと考え込む。
「いや、ツナがそんな事してたなんて、全然気付かなかったぜ。まさにびっくりだな」
「…オレの事、不潔だと思う?」
心の中でずっと不安に思っていた事を思い切って聞いてみる。
山本が肩を竦めて首を振ってにかっと笑った。
「いや、そんなことないよ。いろいろ事情があるんだろうし、それにツナは責任感が強いからな。小僧が言ってきた事をちゃんと守るやつだろ?」
「うーん………。はぁ、どうしようかな。…なんか、自分がどんどん汚くなってくような気がするんだぁ…」
「あと4人か……」
「そうなんだよねぇ。ってか、半殺しにしてもらっちゃおうかなぁ、とかも思うんだぁ」
「痛いの嫌いだろ?ツナ」
「まぁそりゃそうだけど、究極の選択だよ」
「小僧から次誰とかと言われてんのか?」
「ううん、まだ。まぁ今日金曜だからねぇ、今日の夜か明日には言われるかも知れないけど、やりたくないよ。すごく自分が汚い人間に思えるんだ…」
「ツナ」
不意に山本がツナの手を取ってきたので、ツナは一瞬びっくりして目を大きく見開いた。
「オレはお前が汚いとか思わないぜ?ツナは一番頑張り屋で、人をいつも元気づけてるじゃねぇか?すげぇって思ってる」
「うーん……」
「オレの事だって元気づけてくれたろ?オレなんてさ、いっつも誰かからすげぇとか格好いいとかさ、そんな事言われてっけど、本当はそんな事ないんだ。でもみんなオレの虚像しか見てねぇ。だから、他の人の前じゃ、そういう振りをして表面上うまくやっているけど、ツナの前だと情けないオレとかもさらけ出せるからさ、すげー安心なんだ」
「いや山本は元々強いし、なんていうか、オレとは違うと思うんだけどなぁ」
「ツナだってオレと違うのな。なぁツナ…」
「ん、なに?」
「残りの4人の中にオレも入ってるだろ?」
「あ、うん……」
不意に話しがそっち方向に行ったのでツナはどきっとした。
ぱちぱちと瞬きをして、やや視線を逸らして気まずそうに頷く。
「オレとはどうするつもりなんだ?オレに半殺しにされたいの?」
「え−、…そんなのまだ考えてなかった……。痛いかな…」
「はっきり言うけどさ、ツナは勿論本気になれば一番強いけど、オレだってスクアーロに勝ったぐらいには強いんだぜ?だから半殺しって言ったらハンパじゃねーよ?」
「うーん……そうだよね……」
「他の奴らだってみんなそうだろ?」
「あーあ。そうだよね、怖いなぁ、痛いのは怖いよ…」
「だったらさ、やっぱりエッチの方なんじゃね?なぁ、ツナ…小僧から別になんにも言われてねーんだったら、オレで試してみねぇ?」
「……え?試すって?」
「騙し討ちみてぇのじゃなくてさ、なんていうのかな、…ラブラブって言うのも変だけど、なんかそういうのの楽しみ、みたいのを教えて欲しいんだよな」
「えっ、でも山本ってさぁ、あのー、……いろいろ噂聞くんだけど…?女の人といっぱい経験があるんでしょ?」
「え、なんだよ、それ、どこで聞いてきたんだ?」
「いやあ、結構みんな言ってるよ?羨ましそうに…」
「ハハハハハッ」
山本が頭の後ろに手をやって短髪をかきまぜながら笑った。
「そんなの噂だけだろ?してねーしてねーって」
「ほんとに…?」
「ホントホント。だいたい普通は野球しててさ、そうじゃねー日は寿司屋の手伝いだぜ?」
「でも、山本いろんな子に告られてるだろ?」
「あぁ、そりゃ告られてはいるけどさ。オレ、女別に好きじゃねーし、みんな断ってるし」
「もったいない!そんなものなの?」
「なんだか面倒くせぇんだよなぁ、それより野球やっていた方が楽しいぜ。剣とかもさ」
(うーん、さすが山本。オレみたいに欲しくても手に入らないんじゃなくて、いくらでも手に入る状況で拒否するっていう所がすごいな…)
「でさぁ、男同士って、どうなの、気持ちいいのか?」
「……えっ?! そ、そうだね…まぁ、あの、…うん、すごくいいと思うよ……」
真面目に聞かれて、誤魔化すわけにも行かず、ツナはぼそぼそと俯いて言った。
「そうなんだ…。そりゃなんかすごそうだよなー。なぁツナ、じゃあ、今からやらねーか?」









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