◇Vita Rosa(ヴィータローザ) 18








「えー!今からってここで?」
思わず驚いてツナは大声を出してしまった。
「今日、親父も誰もいねーから大丈夫だぜ?」
それに対して山本はからっと明るく言ってくる。
(い、いや、山本、そんな明るく言われても…)
「どうすりゃいいんだ?」
畳みかけるように聞かれてツナは口籠もった。
「ど、どうするってそうだね…」
突然やろうと言われても……ってどうしたらいいのっ!
エッチをするにはいろいろと準備が必要だ。
例えばローションとかクリームとか、とにかくなんでもいいが、尻をほぐす物がないとできない。
(山本と、とか…?えっ、マジで…?)
心の準備が出来ていない所に言われて、胸がドキンとする。
しかし当の山本はあっけらかんとした様子で、ハハッと笑った。
「服脱げばいいのか?」
「え……そうなんだけど、なんか即物的だよ…」
「じゃあ、っていうか、まず風呂か!あ、ちょっと待ってくれ、今風呂沸かしてくるから」
「あ、山本!」
と呼びかける間もなく山本が階段を下りていってしまって、ツナは呆気にとられたまま山本を見送る羽目になった。












「あー、いい湯だった。明るいうちに入るのも悪くねーな」
「う、うん、そうだね、ありがとう…」
風呂上がり、ツナは山本が貸してくれたTシャツに短パンで涼んでいた。
何故か話がとんとん拍子に進んで、良いのか悪いのか、山本のうちの風呂にまで入ってしまった。
このままだと確実に山本とセックスをする展開になる。
(って、山本と、セ、セックス……?)
考えてみたら、今までの相手というのは――シャマルやディーノは普段滅多に接触しない大人だから、あまり気にせずに相手に任せていれば良くて、その点気楽だった。
その後の笹川やランボも、考えてみると、同学年じゃないからその分気恥ずかしさというのは減る。
(けどさ、山本だよ……)
山本は同学年、どころか、同じクラスだ。
ツナからすれば尊敬できる友人であり、親友でもある。
そんな間柄に、突然セックスとか、入れるのは……。
(なんか、抵抗があるというかなんというか…)
「ん、どした?気がすすまねーの?」
「え?いや、そうじゃないんだけど…」
うん、そうじゃない。
山本とセックスするのは嫌じゃないと思う。
山本なら自分に優しいし、きっとセックスとかも上手いと思う。
やった事が無くても、山本だったらなんでも上手にこなすだろうと思える。
今までのセックスを思い出しても、みんな気持ち良かった。
気持ち良くてうっとりして、夢見心地で、それでいて身体がじんと疼いて、今までの自分とは全く違って、なんか身体ごと天国にいっちゃうような、そんな感じだった。
そういう体験を山本と持てるってのは、はっきり言って楽しい、とは思うけど…。
(…うーん…)
でも、身体の方は喜んだとしても、なんか心の方が微妙だ。
(だって、山本はオレの事別に好きでも何でもないもんなー)
…好き、とかそういうの、考えるだけでもちょっと恥ずかしい。
このセックスは、守護者と自分との契約なのであって、そこに好きとか嫌いとかそういう感情を入れる事自体、おかしはな話なわけだ。
――でも。
ちょっとナーバスな時期なのかも知れない。
それとも、身体だけ気持ちいいことを覚えてしまって、精神的には全然進歩していない自分が辛いのだろうか。
(だってオレ、好きな人とこういう事するとか、なんかそういうの想像できてないもんなー)
ツナが難しい顔をして黙り込んでいると、山本がにかっと笑ってツナの頭を撫でてきた。
「嫌じゃないなら、しねぇ?オレさ、なんかこうちょっとわくわくしてるんだけど」
「えっ、わくわくしてんの?…っていうかさ、オレ、下手だからさ、がっかりされたらやだな…。きっと山本の事満足させられない気がするし…」
「ハハハッ、つまんねーこと考えてんのな、ツナ」
山本がツナの頭をぐりぐり撫でながら顔を覗き込んできた。
「そんなのさ、実際やっている間に考えればいいんじゃね?実践あるのみだろ?野球だって剣だってさ、最初からいろいろ考えたら、勝つものも勝てねーぜ。実際やってみて、そこでなんとかなるもんだからなっ」
(さすが山本……、度胸あるよなぁ…)
山本の強さが分かった気がした。
そういえばリボーンが山本の事を『生まれながらの殺し屋』とか言っていたけど、この度胸の良さとか実践タイプな所とかすごくマフィア向きなのかもしれない。
「まず、キスから…?だよな?していい?」
「えっ……う、うん…」
やたら積極的な山本にたじたじとなる。
山本がツナの顎に手を掛けてきた。
くい、と上向かされて、思わず目を見開くと、間近に山本の端正な顔が迫ってくる。
(うわっ…ちょ、ちょっと…)
いつもへらへらとしている山本が真面目な表情を見せているものだから、どきどきした。
真面目な山本はすごく端正で格好いいからだ。
女の人にモテるの分かるなぁ…。
だって、真面目にしているとこんなに格好良くて整っていて、それでいて、へらへらしてると人当たりが良くて明るくて。
女性にモテる要因全部満たしてるし…。
ぼーっとして山本の顔を見ていると、その顔が近付いてきて、柔らかくふわっと唇が重なった。
「………っ…」
あ、なんか…すごく、どきどき、する…。なんだろう、これ…。
すぐに唇が離れる。
「こんな感じでいいのか?」
耳元に囁かれてぞくっと身体が震えた。
(うわ、結構その気になれてる、オレ…?)
意外に山本はムードを作るのが上手なのかも知れない。
二人だけで、山本の部屋で。
しっとりしたキスをされて。
相手は格好いい山本だし…。
「あ。うん…。山本、上手だね…」
思わずぼおっとしたままそう言うと、山本が片目を瞑って笑った。
「でも誰かとした事はねーぜ?やっぱりなんでも実践じゃね?…もっと、していい?」
「うん…」
再び、山本の唇が触れてきた。
やんわりと触れ合ったかと思うと、強く押しつけられ、それから山本が顔に角度を付けて深く合わせてくる。
それに応えて唇を開くと、ぬるり、と山本の舌がツナの咥内に入ってきた。
ツナの咥内をまさぐるようにそれは動いて、それから味蕾を擦りつけてくる。
「……ンっ……っ…」
上手い。
はっきり言って、すごく上手い気がする。
ディーノやシャマルとしたキスに勝るとも劣らない感じだ。
これでキスをした事がなくて、現在実践中とかだったら…山本ってすごい才能ある…。
「…っ…ん…、……」
山本の舌がツナの舌に絡まってきて、擦ったり引っ張ったり蠢きながら、強く吸われた。
思わずくぐもった呻きを漏らしてしまって、その自分の声が耳から入ってきて赤面する。
吸われて、下半身が熱を持ってくるのが分かる。
山本の手が、ツナの腰を撫でてくる。
その手が背中を登り、背筋をなぞってから腰骨を撫で、そこから尻に這わせられる。
(…山本って……)
どうしよう、すごく興奮してきた。
身体だけじゃなくて、なんか心まで、どきどきしていて、まるで恋人同士がこれから初エッチします、みたいな感じだ。
(…べ、別に、山本はオレの事好きでも何でもないんだから…)
胸がときめいてしまって、ツナは慌ててそう心の中で考えた。
「……ツナって、可愛いのな…」
唇をゆっくりと離した山本が低い声で囁いてくる。
(ヤバっ!ちょっと待った…そんなセリフ言われると、困るって……)
かなり身も心もその気になってしまっている。
身体の芯が蕩けて、そこに山本の甘いセリフが入ってきて更にとろとろになる。
ツナは内心狼狽した。









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