◇ヤキモチ 2   







いくら悩んでも、自分の気持ちがすっきりする訳でもない。
山本の事を好きだ、と自覚してしまった以上、その気持ちが無くなるわけでもない。
いや、無くなるどころか、考えれば考えるほど、山本の事ばかり気になるようになってきた。
ヴァリアー本部で書類仕事をしていても、ふと気が付くとぼんやり、山本の事を考えていたりする。
今どうしているだろうか、とか。
山本の笑顔だとか。
自分の名前を呼ぶときの声とか。
――結局、頭の中は山本の事ばかり、という訳だ。
気持ち悪いにも程がある。
いい年をして、だいたい自分は名前を聞いた人間は皆震え上がって怖がると言われている、ボンゴレ暗殺部隊ヴァリアーの副官なのだ。
自分の名前だって、聞けば皆が震え上がる。
剣帝としても名前が知れ渡っているし、それ以前から、スペルビ・スクアーロと言えば、血に飢えた暗殺者として勇名を馳せているのだ。
それなのに、今の自分のこの状態は一体どうなんだ。
自分よりも8歳も年下の、まぁ言ってみれば子供だ、しかも同性の相手に恋い焦がれている。
それもまるでこれでは乙女の初恋だ。
――我ながらあきれ果てて、どうしたらいいのか分からない…。
しかし、好きになってしまったのはどうしようもない。
今までこんな風に誰かを好きになる、という事が無かったから、戸惑っているのかも知れない。
好きになってしまったら相手が同じ男だろうが、年下のまだ子供だろうが、どうしようもないわけだ。
「……しょうがねぇ、日本に行くか…」
数日考えて、スクアーロは決心した。
とにかく、イタリアでうじうじ考えていても、なんの進展もない上に、考えているだけでは堂々巡りでますます内にこもってしまう。
考えるよりもまず行動だ。
山本に会ってみる事だ。
会って話せば、自分の気持ちだって少しは整理されるかもしれない。
好きという気持ちが収まるかもしれないし、もっと好きになって行くかも知れない。
けれどどっちにしろ、今のままの中途半端なうじうじした気持ちからは進むはずだ。
「ゔお゙ぉい、ボスさん、オレぁ1週間休みもらうぜぇ」
決心したらすぐに行動だ。
スクアーロはすぐさま懸案の仕事を超特急で終わらせて、ザンザスに休暇を申請した。
「あ゛ぁ、休暇だと…?」
ザンザスがじろっと睨んできたが、怯むような心の余裕もない。
申し訳ないが、今は心の中が山本の事でいっぱいなのだ。
「そうだぁ、休暇だぁ。申請出しといたからよぉ、よろしく頼むぜぇ!」
「……」
いつになく押しの強い様子にザンザスが眉を寄せて探るように自分を見つめてくる。
さりげなく視線をずらして、スクアーロは手をひらひらとさせるとそのままザンザスの執務室を後にした。










休暇が決まれば、あとは日本に行くだけだ。
電話で航空チケットを取り、旅支度をする。
支度といっても、今回は休暇で私的旅行だから、ヴァリアーの隊服も剣も何も持って行かない。
服装も普通の一般人と同じ、できるだけ目立たないように地味なカジュアルな服装にした。
髪は後できっちりと縛る。
サングラスを掛け帽子を被りゆるめのジーンズにジャケットを羽織れば、ちょっと洒落たイタリア人の若者が旅行に出掛けます、という風情になる。
荷物も必要最低限。
手荷物だけだ。
あとは金とカードがあればなんとかなる。
ヴァリアーの城から自家用車で空港に向かい、空港の駐車場に車を停めて小さな手荷物一つ肩にひっさげてスクアーロは飛行機に乗った。
ただの一般客として飛行機に乗って日本に行くのは初めてかも知れない。
今まで何度も日本には行ったが、剣の修行のためであったり、指輪争奪戦だったり、いつもマフィアである自分を忘れることなく、そして常に剣の使い手としての自分で日本に行っていた。
今回は、武器は一切持っていない。
たいてい剣を持って行く時には別便で送るか、もしくはボンゴレの特権として専用機に乗っていた。
今回は所謂一般の航空会社利用だ。
何も持ってはいないが、日本についてから、護身用のナイフ程度を買えば大丈夫だろう。
とにかく日本だ。
山本の所に行くわけだ。
行ってどうするとかそんな事までは考えていないが、とりあえず行けばなんとか今の膠着状態から少しは抜け出せるのではないか…。
小さな窓から遙か下界を見下ろしてスクアーロはそう思った。






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