◆Dendrobiums(デンファレ)◆ 2
そこにはソファにだらしなく身体を崩し、背凭れにくったりと背中を預けている白い身体があった。
(全部脱いだのかよ…)
見ると、ソファの前の床に、バーナビーの服が乱雑に放り投げてある。
普段なら絶対そんな脱ぎ方はしないはずだ。
出動時アンダースーツに着替えたり、帰ってきてシャワーを浴びて普段着に着替えたりする時に彼の所作を見る事があるが、いつもきっちりと綺麗に折り畳んでいる。
あれは表向きの姿で、本性は意外にだらしないのだろうか。
(にしても全部脱ぐことはねぇよな…)
はっきり言って目のやり場に困る。
と言うのも、バーナビーはきちんと座っているわけではなくて、背凭れにもたれかかりながら、足をしどけなく崩して開いていたのだ。
おかげで見えなくてもいい股間がばっちりと見えてしまった。
ちらっと見てすぐ目を逸らす。
ちょっとしか見なかったが、バーナビーのその部分が変化しているのに気付いた。
(やべぇ…)
悪いものを見てしまったようだ。
「…おじさん、なんかちょっと変なんですけど、僕…」
「そ、そだねぇ、バニーちゃん、だいじょぶ?」
我ながら後悔した。
きっと酒だけならこんなにならなかっただろう。
絶対薬のせいだ。
話し方もいつもと違う。
ちょっと子供っぽい。
(こいつ、結構素はガキくせぇのかもしれねえな…)
と思ったが、案外ガキではなかった。
「おじさん………」
「…は?」
ペットボトルを持ったまま立ち尽くしていると、バーナビーがふらっと立ち上がって寄ってきた。
「な、なんですか?」
視界が遮られる。
「んっっ」
(…あれ?)
視界いっぱいにバーナビーの端正な顔が迫ってきて、次の瞬間唇にねっとりとした熱い感触を感じて、虎徹は戦慄した。
「あ、なんかいい気持ちです、おじさん」
すごく機嫌が良さそうだ。
唇が離れて、驚きで固まっている虎徹に向かってバーナビーが笑い掛けてきた。
……可愛い。
はっきり言って可愛い。
いつもと全然違う。
あのすかした傲岸不遜な彼じゃなくて、なんか天使みたいだ。
いや天使だったらちょっと色っぽすぎるか。
(困ったぞ…)
「お、じ、さ、ん……?」
バーナビーが抑揚をつけてそう言いながら、虎徹を押し倒してきた。
「うぉ…!」
熱く火照った身体が擦り寄ってきて、重みがかかって体勢が崩れ床に尻餅をつくと、バーナビーがそのまま覆い被さってくる。
驚愕でぼおっとしていると、再度唇が塞がれた。
「ん………っ」
ふっくらとした濡れた熱い感触。
柔らかく食まれて、背筋が粟立った。
(やべぇ…)
押しのけようとする所を押さえ込まれ、更に深く口付けられる。
ぬるり、と軟体動物のように舌が虎徹の口腔内に入り込んできて、口腔内の粘膜を舌先で引っ掻くようにしながら動き回る。
「ん……んっ…う…」
ワインの残りだろうか、甘い味に頭の芯が痺れた。
呆然としたまま口付けを受けて、漸く離れた所ではっと我に帰る。
「お、おい、バニ、あの…俺…女の子じゃないんですけど…バニーちゃん?」
きっと、酒に酔うと言うか、箍がが外れると、いつも自制している分極端に振り切れるのか。
きっと自分を女性と間違えているんだろう。
(まぁこんなハンサムに迫られればどんな女だってうっとりしちまうだろうけどな…)
しかもキスうまいし…。
(………)
と、おいおい、何考えてんだよ?
自分も頬に血が昇った。
「ん?分かってますよ、おじさんでしょ?」
「…へ?」
間近で碧の瞳がすうっと細くなって、形の良い唇の口角が綺麗に上がった。
綺麗な笑みだ。
ちょっと怖い。
「お、じ、さ、ん…」
とても機嫌が良さそうに謳うように言いながら、バーナビが股間を擦り付けてきたので、虎徹はぎょっとした。
「え?ええ?おい、俺だって分かってんの?」
「分かってますよ、お、じ、さ、ん?」
(やば…こいつもしかして…男の方が好きなのか?)
考えてみると、バーナビーの性癖なんて想像した事もなかった。
女の子たちにすごい人気だし、彼もいかにも女の子の扱いに慣れているようだったから、考えてみた事もなかったが。
(…本当はどうなんだ?)
「ん……」
などと頭の中でぐるぐるしているところを、またキスされた。
バーナビーが首を傾げて深く虎徹の唇に吸い付いてくる。
(あー、キスうめぇなこいつ、ホントに…)
ついつい流されてしまいそうになる。
バーナビーの舌が虎徹の舌を捕らえて、巻き付くようにして吸い上げてくる。
吸われるままにバーナビーの口腔内に舌を伸ばすと、そこをやんわりと噛まれる。
ちゅっちゅっと軽いキスも何度もされて、思わず恍惚としてしまう。
(あーもしかして、気持ちいいかも…)
バーナビーがぐっとのし掛かってきて、股間同士が擦り合わされる。
虎徹の方は服を着ているから布地越しとはいえ、擦られたその部分が一気に発火して熱を持つ。
「んっ…!」
ボトムの中で急激に成長し布地を押し上げたそれに、バーナビーのペニスが直接当たる。
「あ……う…ちょ、ちょっと…駄目だって…言うか、その…気持ち良くてやばいって…」
くすっとバーナビーが笑った。
思わず顔を上げると蠱惑的な笑みに、虎徹は瞬きも忘れて彼に見入った。
(すげぇ…)
なんとなくそんな言葉が思い浮かぶ。
バーナビーの顔に意識を奪われている間に、カチャ、とベルトの音がする。
慌てて下を見ると、バーナビーが虎徹のベルトを外して中からペニスを引きずり出している所だった。
「うぉ…っちょ、ちょっと待った!」
「ふふ…」
バーナビーがにっこりと笑って、そこに両手を絡めた。
しなやかな指が虎徹のそれを掬うように握っては、やんわりと圧を掛けてくる。
動けないまま、バーナビーの指と自分のあさましく勃起してしまった息子を眺めていると、金色の頭がふわっと被さってきた。
「お、…うぉー!」
痺れるような快感だ。
目を丸くしたまま見下ろすと、バーナビーの形の良い唇が虎徹のペニスの頭をすっぽりと咥え込む所だった。
「お……お、おいおい…あ、う……!」
上目使いに見た碧の目と視線が合う。
思わず恥ずかしくなって自分が目を逸らしてしまった。
(な、なんで俺が…?)
くすっと笑う声が聞こえる。
「おいっ…」
窘めるつもりで目を向けると、今度はバーナビーは喉の奥まで虎徹のそこを咥えこむ所だった。
自分の色の濃いペニスと、バーナビーの赤い唇。
白い頬。
それらの色の対比が淫靡で羞恥がいや増す。
根元まで熱く柔らかい粘膜に包まれたかと思うと、バーナビーが頬を窄めて裏筋に歯を立ててきた。
「う…!ちょ、ちょっと…っ」
凄い。
気持ち良すぎる。
ここの所、ご無沙汰だった。
自分でもしていなかったから、溜まっていた事は溜まっているのだが、それにしてもこんな…。
「あ、…く…ちょ、っと……よせって…!」
などと口では言うもの、そこは欲望に正直だ。
気持ちが良くて、バーナビーの顔を払いのけることができない。
それどころか腰を突き出して、彼の口の中にもっと突き込んでしまいそうになる。
「あ…、…く…っっ!」
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