◆HONESTY◆ 11








相変わらず虎徹は、誘えばバーナビーのマンションに来て、セックスをしてくれた。
バーナビーを労るように優しく抱き締めてくれる。
そのまま優しいセックスをしてくれる。
以前ならそういう風に身体が繋がれば、満ち足りた。
心の中に溜まったものが、全て浄化された。
それなのに、今はそうではなかった。
身体は満ち足りて快感を覚えるものの、心は反対に、どうしようもない寂しさに襲われた。
虎徹が優しければ優しいほど、寂しかった。
寂しくて胸をかきむしって慟哭したいほど、感情が高ぶる。
制御しきれない恐怖におののき、苦悶する。
そんな姿を見せるわけには、絶対にいかなかった。
やはり、無理があるのだろうか。
今のままの状態を続けられると思ったけれど、それは自分の買いかぶりだったのだろうか…。
心も体も、日に日に弱っていった。
食欲は無くなり、すぐに吐き気がして戻してしまう。
夜は眠れずに、睡眠薬の量がどんどん増えていく。
虎徹に抱いてもらえばもらうほど、耐え難い寂しさに心がずたずたになっていく。
もうダメだ。
耐えられない。
バーナビーは苦悶した。
―――どうしよう……。
ベッドで隣に虎徹が寝ている姿を眺めながら、堪えきれず唇を噛んで泣く。
彼が愛おしい。
こうして寝顔を見ているだけで、幸せで堪らない。
なのに、幸せな分だけ寂しくて、やはり堪えきれなくなる。
心が引きちぎられて、どうにかなりそうだった。
「おじさん…おじさん…」
虎徹が目を覚まさない程度に、小さい声で呼びかける。
呼んでいるだけで涙がぽとぽとと滴り落ちる。
…………彼が好きだ。
愛されたい。
今みたいに、同情で優しくされるのではなくて。
彼が心の底から自分を愛してくれて、……愛の証明として、抱かれたい。
そんな事望むなんて………なんて、分不相応なのだろう。
厚かましいにも程がある。
そんな望みを抱いているから、こんなに苦しいのだ。
最初から無理な事は、分かっていたのに。
そうは思っても、やはり彼の心が欲しくてたまらない……。
その気持ちは、抑えられなかった。
愛している、と言ってほしい。
お前が大切だよ、と囁いて欲しい。
大好きだ、と言って、身体を繋げて欲しい。
彼の心が、……欲しい。
「おじさん……」
虎徹の裸の胸に、おずおずと頬を擦り寄せる。
暖かな体温にどうしようもなく寂しさが溢れてきた。
バーナビーは無理矢理虎徹から自分の身体を引きはがすと、ベッドの端にうずくまって身体を丸めた。
―――ダメだ。
もう無理だ。
こんなに苦しいのには、もう耐えられない。
耐えられると思っていたけれど、ダメだった。
そんなに自分は強くない。
……でも、どうしても、虎徹を失うことはできない。
虎徹を失うことはできないが、このままでも自分は破滅する。
我慢できなくて、…堪えきれなくなって、……虎徹に好きだ。と言ってしまうだろう。
言ってしまったら、そこで終わりだ。
恐ろしくて身体が震えて、バーナビーは自分で自分の身体を抱き締めた。
このままでは、確実に虎徹に告白してしまう。
好きだ、と言ってしまう。
そして、全てが終わってしまう。
そうならないためには―――、取れる手段は一つしかなかった。
こんな風に虎徹とセックスをする関係を、解消する。
……それしかない。
以前のように、仕事上の相棒というだけの関係に戻る。
虎徹にこうやって抱いてもらっているから……、だからこそ、更に彼が欲しくなって、我慢できなくなるのだ。
虎徹に抱いてもらっている時の幸せな気持ちが、その分だけ寂しさや苦しさ、欲望に繋がっているのだ。
そのこともバーナビーは痛感していた。
だから、こういう関係を全部やめてしまえばいいのだ。
そうすれば、自分は元の独りっきりの孤独な人間に戻る。
それはそれで身を切られるように辛い。
が、虎徹を失うよりはマシだった。
一人っきりに戻っても、また仕事上では虎徹がいる。
前のように、一緒に仕事をしていける。
…………それだけで、いいじゃないか。
それなら自分は、なんとか自分を制御できる。
自分を制御しきれなくなって、全てを破壊してしまうより、いい。
孤独で寂しく空しい日々であろうとも、仕事の時には虎徹に会える。
それならなんとか、自分は生きていける。
虎徹が自分の人生の中にいてさえくれればいいのだ。
それ以上、何を望むことがあるだろうか。




―――そうしよう。




自分を守るためにも、そうしなければならない。
涙が後から後から溢れてくる。
辛い。苦しい。……息が吐けない。
でも、そうしなければならない。
そうしなければ、自分が壊れてしまう…。
悲しくて寂しくて、涙は止まらなかった。
シーツに顔を埋めて、バーナビーは慟哭した。




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