◆スクープ☆ヒーロー恋愛事情◆ 9
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涙に暮れた目を上げると、バーナビーがわなわなと震えていた。かなり怒っているようだった。
(あぁ、怒ってる……。そうだよな、怒るよなぁ…)
表情がいつになく厳しくて、虎徹はびくっと後退った。
「全く、あなたが連絡してくれたから良いようなものの、それが無かったらあそこでそのままあなた、あの社長に犯されていたんですよっ。分かってんですか?…ったく、一体何を盛られたんです…?」
バーナビーが鋭い調子で詰問してくる。
確かにその通りだった。
バーナビーに助けを求めなかったら、そしてぎりぎりのタイミングでバーナビーが来てくれたからいいようなものの、もし彼が来られなかったら、――自分はあのままあの社長にレイプされていた所だったのだ。
「筋肉弛緩剤、だって言ってた…」
眉をぎゅっと寄せてバーナビーが虎徹を睨んでくる。
「…ごめんな…」
「別に僕に謝る必要はないですよ。それにしても本当にあなたって人は…」
バーナビーががっくりと虎徹の隣に腰を下ろして、両手で頭を抱えた。
虎徹はどうしたらいいか分からなかった。また涙が溢れてきた。
安心して気が緩んで、張り詰めていた気持ちが途切れたからかもしれない。
それに、さっきもう少しで犯されそうになって、自分の気持ちがはっきりと分かったというのもある。
自分はバーナビーが好きなのだ。
大好きで大好きで、……バーナビーだって自分の事を好きだというのが分かっているのだから本当なら相思相愛で嬉しいはずなのに。
――どうしたらいいんだろう。
怒っているバーナビーに、なんとか怒りを静めてもらいたかった。
バーナビーに嫌われていない、とは思うが、はっきり聞きたかった。
不安だった。
泣くな、と思ったが後から後から涙が溢れてくる。
全く、いい年をして恥ずかしいにも程がある。
この間だって泣いてバーナビーに呆れられたのに、また泣いている。
そう思ったが、感情が溢れてきてどうしようもなかった。
身体がまだ重くて動かせないだけに、虎徹は顔を覆うこともできなかった。
鼻をすんすん啜り上げ、目元を腫らして嗚咽を漏らしていると、バーナビーが顰めていた眉を戻し、しょうがないな、と言うように表情を和らげた。
そのままゆっくりと手を伸ばして、虎徹の髪を撫でてくる。
「もう泣かないでください、虎徹さん」
柔らかな調子の声で、彼がもう怒ってない事が分かった。
ほっとすると更に涙が溢れてきて、虎徹はしきりに瞬きをした。
「バニーちゃん、ごめん…」
「いいんですよ、もう。あなたが僕に連絡をしてくれて嬉しかったです。あのまま連絡がなかったらと思うとぞっとしますよ。良かった…」
重い手を震えながらようやくの事で上げて、虎徹はバーナビーの手に触れようとした。
「なんですか、虎徹さん」?
バーナビーがその手を反対にそっと握ってきた。
「バニー、俺さ、…さっきヤられそうになった時、お前の事ばかり考えてた…」
嗚咽混じりでなかなかうまく言えないが、ここでちゃんと言わなくては。
自分がどんなにバーナビーの事を好きだったか、それを悟ったか、――その事を。
「僕の事をですか?」
「うん。…俺、どうしても嫌だった。もしあそこでヤられてお前に嫌われたらって思うと、どうしようって…」
バーナビーが握っていた虎徹の手を宥めるように撫でてきた。
「バニーちゃん、怒ってない?」
「もう怒ってないですよ」
「俺、バニーちゃんに嫌われたらどうしようって……」
「嫌われたくなかったんですね?」
「うん。…ヤられるのも嫌だったけど、それより、バニーちゃんに嫌われたらどうしようって方が怖かった。あんなに忠告してくれたのに…」
「虎徹さん…」
「バニーちゃん、……バニーちゃん、俺の事、まだ、好き…?」
問い掛けるとバーナビーが眉尻を下げて微笑んだ。
「えぇ、もちろんですよ。そんな当然のこと、聞かなくても分かるでしょ?」
「良かった…」
ほっとするとまた涙が零れた。
「俺も。……俺もさ、バニーちゃん。………お前の事、好きだ…」
「……え…?」
バーナビーが真顔になる。
「さっき分かったんだ。ヤられるのよりもお前に嫌われる方がずっと怖かった。だって俺、お前に嫌われたら、どうしていいかわかんねーよ。バニーちゃんの事が好きなんだ…。さっき分かった。ヤられそうになった時さ、俺、バニーの事ばっかり考えてたから…」
「虎徹さん……本当ですか?」
「うん、俺さ、前からきっとバニーの事好きだったんだ。でも認めるのが怖くて、考えないようにしてたのかもしれない。……なぁバニー、俺の事、どのぐらい、……好き…?」
一気に胸の内を告白して、おずおずとバーナビーを上目遣いに窺う。
バーナビーが瞳を細めて上体を屈めてきた。
「虎徹さん、本気にしちゃいますよ?」
「うん、本気にしてよ。本気にして、……もっと、…なぁ、バニー、……俺に、キスして、くれねー…?」
「誘わないでくださいよ、虎徹さん」
バーナビーが困惑する。
「僕だって、今、いっぱいいっぱいなんです。あんなにしどけない格好をしているあなたを見て、僕がなんともないと思っているんですか?あなたを抱きたくて抱きたくて、我慢できない程なのに…」
「…バニーちゃん、お願い。…抱いて…?」
「虎徹さん、………」
バーナビーが本当に驚いたようで、翡翠の双眸を大きく見開いた。
「そんな…。…雰囲気で言ってるんじゃないんですか?」
「そんな事ねーよ」
重い腕を上げて、バーナビーの首に両手を回す。
「バニー、……好きだ。…お前に嫌われる前に、気付いて良かった。…お前がまだ、俺の事、好きでいてくれて良かった…。間に合った…」
「何言ってんですか、虎徹さん。どんなあなただって好きですよ」
「でも…」
「大丈夫。心配要らないです。…僕、あなたに首ったけなんですから。……バカですね、心配したんですか?」
「うん…。だって俺って鈍くて気付かなくて、お前にいろいろ酷い事してなかったか?」
「いいんです、そんな事気にしなくて。今あなたはこうして僕の腕の中にいるじゃないですか。……僕の事を好きって言ってくれましたよね」
「ん、…好き…」
「どのぐらい、好きなんですか?」
バーナビーが低い声で耳元に囁いてくる。
息を吹きかけられた耳朶がじんわり熱くなって、虎徹は思わず身体を震わせた。
「すげぇ好き。…バニーがいないと生きていけないぐらい。……なあ、バニー、抱いてくれよ。……なんかすげぇ身体が熱いんだ…」
そう言って、甘えるように頬を擦り付けてみる。
バーナビーがごくりと喉を鳴らして、それから噛み付くように口付けをしてきた。
―――イメージイラスト―――(小野ユーレイ様よりいただきました)
「んぅっ……んん……んッッ!」
先程フーゲンベルク社の社長にされた時は嫌悪感で鳥肌が立ったのに、バーナビーとのキスはまるで違っていた。
得も言われぬ至福感が溢れてきて、虎徹は力の入らない腕でバーナビーにしがみついた。
「バニー、…バニー…っ」
切れ切れに名前を呼びながら、自分から唇を開く。
開いた途端にバーナビーの舌が咥内に侵入してきた。
入ってきて、顎裏の粘膜を舌先で擦るようにして刺激しながら、自分の舌に裏側から巻き付いてくる。
バーナビーの舌の熱さに自分の体温が混ざり合って、甘くじぃんと痺れた。
「んっ……んん……っ」
こくり、と唾液を飲み下して、それでもまだ足りなくて、バーナビーの舌を啜る。
暫く啜ってから唇を離すと、唾液が唇の端から滴り落ちた。
間近で見るバーナビーの瞳は燃え上がるようで、目が離せなくなる。
「虎徹さん……」
バーナビーが情欲を押し殺したような声で囁いてきた。
ぞくっと腰骨から下が疼く。
少しずつ薬が切れてきたのか、気怠く重いながらも手足が動くようになってきた。
頭の後ろに回した手で、バーナビーの項を撫でる。
そうしながら、涙で潤んだ目をバーナビーに向けると、バーナビーも間近でじっと見つめてきた。
「虎徹さん…愛してます…」
愛している、という言葉がストレートに虎徹の耳から脳に達し、瞬時に身体が火照る。
ものすごい至福感が込み上げてきて、虎徹は自分が制御しきれなくなった。
涙がまた溢れてきて、どうしようもなくて、バーナビーにぎゅうっとしがみつく。
「俺も、…俺も、バニー…、愛してる…」
「…抱いていいんですね?」
「うん。…いい、っていうより、俺がして欲しいんだ。……バニー、…抱いて…」
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