◆幸せな二人◆ 1





窓の外は、満点の星空。
その下は百万ドルの夜景と謳われるシュテルンビルトの街の光。
様々に煌めく光の洪水を、俺はぼんやりと見下ろしていた。
ここはバーナビーの部屋だ。
一年ぶりの部屋。
以前はよくここに来ては泊まっていったものだ。
その部屋に1年ぶりに入った。
シャワーを浴びてバーナビーが出してくれたバスローブを羽織って、バーナビーがシャワーを浴びに行っている間、所在なく、落ち着かなく窓際に座っている。 .
一年前、俺はバーナビーに別れを告げて、オリエンタルタウンに帰った。
能力の減退は如何ともしがたかったし、身体も傷ついていた。
最後にマーベリックを倒し、諸悪の根源をシュテルンビルトと、そしてバーナビーの前から消し去る事ができた。思い残すことは無いと思った。
バーナビーの前から姿を消す事については、それがバーナビーのためだと思った。
バーナビーは『いつまでも待ってます』と言ったが、それはバーナビーのためにはならない。
俺の事なんか忘れて、可愛い女の子と幸せな恋愛をして欲しい。
そう思った。
その後、俺がヒーローを辞めてすぐバーナビーもヒーローを辞めたらしい。
バーナビーはヒーローを辞めて、アポロンメディア社の内勤の仕事をメインにしたようだ。
ヤツのことだからどんな仕事をしても勤まるとは思ったが、でも勿体ないと思った。
俺が能力の減退でヒーローを続けることができなかったからこそ、バーナビーにはその分ヒーローを続けて欲しかったというのもある。
けれど、それはバーナビーの人生だ。
俺が口出しする事じゃない。
でも、オリエンタルタウンでは俺は何もすることがなかった。
家業の手伝いをしながら傷ついた身体を治したが、それだけだ。
1年経とうかという頃には、俺はシュテルンビルトへ戻りたくて仕方がなくなっていた。
シュテルンビルトへ、というよりは、ヒーローに、だ。
『お父さん、行っておいでよ』楓には気付かれていたようだった。
苦笑してそう言われた。
ヒーロー二軍の指導役としてアポロンメディア社に復帰してすぐ、きっと俺が復帰したのを聞きつけたからだろう、バーナビーと再会した。
それもお姫様抱っこという劇的な再会で。
その時思った。
あぁ、こいつとはもう離れられない。一生。
だって、俺はこいつを全身で欲している…。










「虎徹さん…」
シャワーから出てきたらしいバーナビーに、不意に背後から抱き締められた。
すげぇ、どきどきした。
どうしよう。
ここに来れば必然的にバーナビーとセックスする流れになる事は分かっていた。
実際、すげーしたかった。
昼間お姫様抱っこをされた時に既にもう、感情がバーナビーに向かって溢れていた。
一年ぶり…だからこそ、我慢できない。
この1年の間に、バーナビーはきっと誰か他のいい人を見つけて幸せな恋愛をするだろうと思っていた。
けれど違った。バーナビーは俺を待っていてくれた。
文句も言わず。
こうして今、部屋で二人きりになっても、恨み言も言わない。
1年だって待つのはしんどかっただろうに。
俺だったら、絶対ここで頬の一つも張っている所だ。
「……バニー」
変な声になってしまった。
恥ずかしい。
平静を装ったつもりだったけど、ダメみたいだ。
どうせ、バーナビーにはばれてるからいいか。
俺は両手を挙げて、バーナビーの首裏に回した。
ふわふわの金髪に久し振りに指先が触れた。
この感触が欲しかった。
改めて触れると1年離れていたなんて信じられない。
バスローブ越しに身体が触れる。
ぞく、とする。
いとも簡単に1年前の熾火が再び燃え上がってくる。
身体の奥底、腹の下あたりがずうんと熱く重くなる。
覚えのある感覚だ。
まるで内臓が発熱したように筋肉の下で熱く変化し、心臓の鼓動に合わせて熱せられた血液がそこから全身の血管に広がっていく。
すげぇ、興奮している。
はしたないと思う。
もう40近いのに。
今まで1年間、殆ど自慰もしない、性欲も覚えない、いわば仙人のような生活をしていたのに。
それなのに、昼間、バーナビーに抱き締められただけで、すっかり身体が作り替えられてしまったみたいだ。
「バニー……」
「虎徹さん、良かった。…興奮、してますね…」
ぐり、とバーナビーの膝頭が、俺の股間を押してきた。
勿論、俺のペニスはもう、バスローブの合わせからはみ出るほどに勃起していた。
そこを擦られて、思わず、
「ぁ…っ」
と、声を上げてしまった。
鼻に掛かった甘い声に我ながらぎょっとする。
どこから出してんだ、そんな声。
自分の年を考えろ、と思ったが、でもそんな声がまた出せると分かって反対に嬉しかった。
「可愛い、虎徹さん……また貴方を抱けるなんて、…ずっとずっと、待っていました…」
本当にバーナビーは待っていたみたいだ。
申し訳なくて、俺は泣きそうになった。
鼻の奥がつうんとなる。
俺がバーナビーの元に戻ってくるとか、そういう可能性が無い場合だってあったのに。
というか、その可能性の方が高かったはずなのに。
バーナビーはそれでも待っていてくれた。
俺は、どうなんだろう。
俺はバーナビーを試していたんだろうか。
バーナビーが俺を忘れずに待っていてくれるかどうか。
…分からない。
もしバーナビーが他の人と恋愛をして幸せになっていたのなら、それはそれであきらめがついたと思う。
きっとバーナビーの事を祝福したと思う。
もしバーナビーが俺から離れていたら…。
そう考えたら改めてぞっとした。
嫌だ。
それがバーナビーの幸せなんだって思っていたけれど。
いや実際そういう幸せの形もあると思うけれど。
でもそれじゃ俺が幸せじゃねーじゃねーか。
俺はバーナビーを誰にも渡したくない。
バーナビーは俺のものだ。
1年離れていたくせに、今強くそう思う。
離れていたからこそ、そう思うのかも知れない。
もう絶対、誰にも渡さない。
俺から手を離すこともしない。
バーナビーに手を離させだってしない。
…なんて、自信過剰にも程があるか。
でもそのぐらい、思ってたって、心の中で思ってる分には罰は当たらないよな。
こんなにも、今、バーナビーが欲しくて、身体が疼いてるんだから。
「バニー、も、…なぁ、ベッド、行こう…」
濡れた声で、バーナビーを誘う。
バーナビーがごくり、と唾を飲み込んで、俺をぐっと抱き上げた。
今日二度目のお姫様抱っこだ。
40近い中年のお姫様抱っこなんて、はっきり言って滑稽以外の何物でもないだろう。
けど、いい。
俺が気持ちいいから。
嬉しいから。
バーナビーが嬉しそうだから。










ベッドに行くと、静かに降ろされた。
ひんやりとしたシーツが心地良い。
バスローブの紐を解かれて、合わせを開かされる。
俺は瞳を細めてバーナビーを見上げ、ゆっくりと脚を左右に広げた。
中心は既に勃起しきって、ぷるぷると丸い頭を震わせて、先走りを滴らせている。
それを見せつけるように。
「…すごい、…もう、こんなに…」
バーナビーの声が上擦る。
そういうバーナビーだって、きっちり着込んだバスローブの厚い布地をペニスが押し上げてる。
「お前も脱げよ…」
そう言ってバーナビーのバスローブの紐を引っ張る。
しゅる、と解けると、バーナビーがバスローブを肩から滑り落とした。
…1年ぶりに見るソレは、凄かった。
色こそ淡い綺麗なピンク色だが、でかくて長くて、えらのはった部分を頻りに揺らして存在を主張している。
唾が溜まって俺は無意識にそれを飲み込んだ。
興奮、する。
バーナビーのペニスを見ながら、思わず舌で下唇を舐めた。
食いつくような視線に、バーナビーがふっと笑った。
「虎徹さん、すごい目ですよ。…嬉しい…」
だって、しょうがねぇだろ。
本当はお前の事がすげー欲しかったんだから。
おじさん、1年間禁欲してたんだよ。
おじさん、実は好きな人とじゃなくちゃ興奮しないたちなんだ。
1年間会わなかった、好きな人が目の前にいて、その人とこれからセックスするっていうのに、興奮しないわけないだろ?
早く、欲しい。
ナカに。
1年間使わなかった、下腹部の奥が疼いた。
ずっと使ってなかったから、痛いかも知れない。
けれど、痛みも感じたかった。
ってこれじゃまるで初体験みたいだな。
この年でかよ。
我ながら呆れたが、でも、ぞくっとした。
バーナビーを見上げると、バーナビーも興奮が抑えきれないようだった。
「ごめんなさい、虎徹さん、僕もう我慢できないです。…すぐに挿れていいですか?」





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