◆茨の冠◆ 19
何故だろうか。
虎徹が自分より他のヒーローと仲が良いのは前々から知り合いなのだから当然だろうし、別に虎徹が自分に秘密を持っていても全く不思議ではない。
……が、気に入らなかった。
何故なのかとよくよく考えてみてバーナビーは、虎徹が自分に対して秘密を持ってはいけないとか、虎徹はまず第一に自分と仲良くすべきであって、自分をのけものにして他のヒーローと仲良くするのは許せない、と考えている自分がいるのに気が付いた。
そこに気が付いて、我ながら愕然となる。
この、虎徹に対する独占欲じみた感情はなんだろうか。
不可解だ……。
そう考えて日々過ごしてみると、自分がいかに虎徹を独占したがっているか、バーナビーはそれを自覚した。
虎徹が他のヒーローと話しているのを見ると、心の中が不快になる。
自分に対してだけ笑顔を向けて欲しい。
いや向けるべきだ。
向けない虎徹は許せない。
いつの間にかそんな考えを抱いている自分に気が付く。
虎徹を自分の家に呼んで抱き合えば、虎徹は蕩けるような笑顔に優しい愛撫、情熱的なセックスをくれる。
肌が触れ合い身体が繋がるときの充実感や幸福感。
虎徹を自分だけのものにしているというぞくぞくするような喜び。
虎徹がくれるそれらのものはバーナビーを幸せにしてくれる。
それでいてやはり、日中虎徹がたとえばアニエスと仲良く話をしていたり、ブルーローズとふざけていたり、それだけではなくスカイハイと親しげに話しているのを見るだけでも、不快になってしまう。
――これは、なんだろうか。
なぜ虎徹を見ると、そのように思ってしまうのか。
自分は、虎徹の事が好きになってしまったのではないか……。
好き……という単語を心の中に思い浮かべると、すとん、とそこに自分の今の気持ちがあてはまるような気がした。
バーナビーは今まで他人を好きになるという経験がなかった。
というよりは好き、という感情そのものを持っていなかった、と言えるかもしれない。
人と深く付き合うという事も無かった。
4歳の時に両親を亡くして以来、常に他人と距離を置き警戒して、自分を守りながら生きてきたように思う。
学生の時も、それなりに友人はできてもそれはその時だけの友人であって、卒業後もずっと付き合っていくような親密な関係になった者は居なかった。
もしかしたら、相手の方は自分とそういう関係を築きたいと思ってくれていたかもしれない。
そういう掛け替えのない人間に出会っていたかも知れない。
けれど、自分の方でそれを拒絶した。
自分の心の中に他人が入りこまないようにしてきた。
自分には誰も必要無い。
というより、必要としてしまうのが怖かった。
誰かを頼ってしまったら。
自分の心の中に入れてしまったら。
そうしたらもしその者が自分の前から居なくなったとき、自分はどんな痛手を受けるだろうか。
そこまで深く考えてはいなかったとしても、無意識にそういう恐れがバーナビーに他人と距離を置かせていたのだ。
自分が他人と心からの親密な関係を築けない、という事に対しては、時折悩むことがあっても、しかし自分にはそれよりも重大な問題があった。
両親の復讐とウロボロスの調査、それが常に人生の一大目標としてバーナビーの頭の一番主要な部分を占めていた。
だから、バーナビーはその他のことに関して深く考える余裕がなかった。
考えなくても生きてこられた、というのもあった。
そんな事よりも両親を殺した相手を探し復讐する、という事が何よりも自分の生きる目標であり、それ以外のことに目を向けている暇も余裕も無かった。
ところがここにきてジェイクを倒した事で、長年の懸案であった両親の復讐に蹴りがついた。
自分がそれまで第一義の目標としてきたものを果たすことができて、それまで背負っていた重い肩の荷を降ろすことができた。
バーナビーは心の底からほっと安堵できた。
それまでの20年間、ずっと両親を殺した相手を探すということだけに自分のエネルギーを傾けてきたのだ。
それに片が付いて心の底からほっとしたものの、しかしバーナビーは自分の中にぽっかりと空白があるのを認めざるを得なかった。
|