◆茨の冠◆ 22








「え?だって、その…」
虎徹が戸惑ったように口ごもる。
バーナビーは、あまりの腹立ちに腸が引きちぎれるようだった。
虎徹の腕を乱暴に掴むと、そのまま有無を言わさずに部屋に引き摺り込み、寝室に連れて行く。
ベッドの上に虎徹の身体を放り投げるようにすると上から圧し掛かり、殆ど引きちぎるようにして虎徹の服を脱がせてゆく。
「バニー…?」
どう対応したらいいか分からないようで、虎徹がおずおずとそう言いながらバーナビーを窺うように見上げてきた。
酒臭かった。
その目線も酒臭い息も、自分がこんな乱暴な事をしても抵抗もしないことも、何もかもが憎らしかった。
腹が立って腹が立って、どうしようもなかった。
引き剥ぐようにして虎徹を全裸にさせると、驚きで縮こまっている彼のペニスを喉奥まで一気に咥え、乱暴な愛撫を加えていく。
むしゃぶりつくようにして舐め、吸い込めば、そこは生理的な刺激で勃起してきた。
虎徹のペニスをしゃぶりながら、バーナビーは同時に穿いていたボクサーパンツを脱ぎ捨てた。
空いている手を使って、自分の唾液をアナルに塗りつけていく。
だらだらと口端から唾液を零しながら後孔を濡らすと、虎徹の腰を跨いで、バーナビーは虎徹のペニスをアナルに押し当て一気に腰を沈めた。
「う……っ!」
殆どろくな準備もしないで繋がったから、引き攣れたような鋭い痛みがあった。
しかし、痛い方がましだった。
身体の中を嵐のように渦巻いている怒りが、少しは紛れるような気がした。
ぐちゅっ、と無理矢理腰を下ろす。
痛みに顔色を青ざめさせながらも、虎徹の腹に手を着いて腰を浮かし、激しく身体を上下に動かし始める。
痛みが頭に突き刺さり、それがだんだんと快感に変わってくる。
身体の中で暴れていた怒りがすうっと快感に置き換わっていく。
痛みと快感がぐちゃぐちゃに融け合って、得も言われぬ感覚となってバーナビーの全身を包む。
「あっあっッ、……ぅ…っ!!」
怒りが激しかった反動か、快感は絶大だった。
すうっと消えていく怒りがその大きさの分だけ快感になって、堪えきれなかった。
自分で淫靡に腰をくねらせ、前立腺に虎徹のペニスが当たるようにすれば、気を失いそうなほど強い快感が身体の中心を稲妻のように貫く。
「――あぁッッ!!
金髪を振り乱してバーナビーは身悶えた。
後ろからの快感が、電光石火の勢いでペニスを直撃してくる。
右手でほんの少し擦っただけで、バーナビーのそこはあっという間にはじけ飛んだ。
濃い白濁を、虎徹の腹に思う存分ぶちまける。
目の前がふっと暗くなる。
深い深い快楽の縁に、自分が沈んでいくようだった。
くらっとして、虎徹の胸に顔を落とす。
汗でしっとりとした肌を、彼に擦り付ける。
はぁはぁと肩で息をしながら、目を閉じて悦楽に浸る。
暫くそうやって、心地の良い快感と怒りがすっかり消えたある種爽やかなカタルシスに浸っていると、漸く理性が戻ってきた。
顔を上げる。
虎徹と目線が合う。
虎徹は驚いたように琥珀色の瞳を丸くして、バーナビーを見上げていた。
「……バニー、大丈夫か?」
殆どレイプまがいのセックスを強要してしまったにもかかわらず、虎徹は包み込むように優しい口調だった。










「虎徹さん……」
凶器のような怒りが静まり、我に返る。
バーナビーは呆然とした。
先程の自分は一体何だったんだろう、自分は一体どうしてしまったのだろう。
どう返答していいか分からず、呆けた表情で虎徹を見下ろす。
虎徹がそっと手を伸ばし、バーナビーの頬を撫でてきた。
「大丈夫か?」
「…………」
虎徹の両手がバーナビーの肩に掛けられ、包むように抱き締められる。
ちゅっと唇が合わさり、柔らかく押しつけられ、数度慈しむようにキスをされる。
優しい仕草に、心の底に暖かなものが溢れてきた。
「虎徹さん……」
何を言っていいか分からず、ただ名前を呼ぶ。
「どうした、バニー?」
虎徹は優しかった
自分を呼ぶその労るような口調に、心が癒されるのを感じる。
ひび割れた砂漠に優しい雨が降ったような心持ちだった。
すうっと優しさが染みこんでいって、ひび割れてかさかさだった心があっという間に潤うようだった。
幸せだった。
「虎徹さん………」
「…ん?」
虎徹は何も聞かなかったし、責めもしなかった。
頭を撫でられ、何度もキスをされる。
唇が触れ合うだけの優しいキスに、涙が出た。
このままずっと、虎徹と繋がっていたい。
幸せがとめどなく溢れてきた。
離れたくない。
どうしてこんな風に心の状態が上がったり下がったりするのだろうか。
怖かった。
「虎徹さん、虎徹さん……」
名前を呼ぶ度に虎徹が応えて、唇を柔らかく押し当ててくる。
雛鳥が親に向かって口を開けて強請るように、ひたすらバーナビーは虎徹の名前を呼んで唇を重ねた。




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