◆ちかん☆プレイ◆ 2
まぁ付き合ってるって事になるんだろうか。
傍から見れば恋人同士ってやつだよな。
バニーもそのつもりだし、俺も結局あのときのバニーの告白を受け入れたわけだから、まぁ、恋人同士。
恋人同士………。
なんて真面目に考えると、恥ずかしくてどうしようもなくなる。
バニーのスペックと俺のスペックを比べたら、バニーの方が高すぎてどう見ても釣り合わない。
釣り合わないっつうか、まず、俺とバニーをそういう関係として繋げるって事自体がおかしい気がする。
バニーはイケメンで格好いい美形だし、頭も良ければ運動神経だって抜群、おまけにネクストでヒーローだ。
更に親の遺産があって金持ちらしい。
ゴールドステージにすげーマンションを持ってるしな。
元々人気があったけど、ジェイクを倒した事でシュテルンビルト市民に広くバニーの顔と活躍が知られるようになり、人気はますますうなぎ登り。
最近はテレビや雑誌の取材も多く、出る度に女の子たちにきゃあきゃあ言われてヒーロー事業部にはファンレターやプレゼントが山だ。
一般人だけじゃなくてタレントや女子アナとか、だいたい若い女の子はバニーに夢中だ。
バニーの外見やスペックに惹かれるってだけじゃない。
バニーのにこやかな笑顔や如才ない会話、いかにも育ちが良さそうな上品な物腰、そんなのに接したら誰でも夢中になっちまうのはよーく分かる。
そんなバニーの好きな相手が俺っつうのは一体どうなってんだろうな……。
この非の打ち所のないヒーロー様も、人を見る目がおかしいって事だろうか。
いや、でも俺だって別にその、……まぁバニーの恋愛相手って事ではおかしいが、それ以外ではそれほど悪くないとは思うんだが。
でもとりあえず、バニーの好きな相手と言うには、俺はどう見てもおかしい事は確かだ。
しかし、バニーは他の女の子なんかには目もくれず、ひたすら俺一筋だ。
こそばゆくて嬉しい。
嬉しいって事は俺もバニーが好きなんだと思う。
この年になって10以上も年下の、しかも男に恋するなんて、とは思ったけれど、でも確かにバニーは可愛い。
可愛いし、キスをされれば胸がときめくし、好きですと言われればどきどきする。
だからセックスだって勿論、恋人同士だったらお互い身も心も一つになるってのが究極の幸せなんだから、して当然だ。
でも、まだこういう関係になって一ヶ月しか経ってないからな、痛くたってしょうがないよな。
いつも痛くて、まぁ時には涙なんか出ちまって、当然だが俺のペニスなんか、バニーが俺の中に挿入した途端に萎えちまってたりするわけだが、それでもバニーがいかにも気持ち良く満足しているようだから、俺だって精神的に十分満足していた。
けれどどうやらバニーは、俺のセックスの時の様子を密かに観察していたみたいだ。
俺は困惑して目線を逸らした。
「…でもほら、まだやりはじめたばっかだろ?俺、今まで尻に突っ込まれた事とかねーしさ。そのうち気持ち良くなるんじゃねぇかと思うよ?」
「僕がもっと上手だったらいいんですけど…すいません。あなたを見ると我慢が利かなくて、すぐ挿れたくなってしまうんです…」
「…あ、いやいや、いいから、そんな…っ」
綺麗な顔を切なそうに顰めてそんな直接的なこと言わなくてもいいから。
ほんと、バニーちゃんが気持ち良さそうなの見ているだけで満足だから。
――と言いたかったが、それでは全然フォローになっていない事に気が付いた。
どうしたらいいだろうか、と悩んでいると、バニーがベッドヘッドの引き出しを開けて一冊の本を取り出してきた。
「僕、ちょっと悩んで、こんな本買ってみたんです」
「…え?なにそれ…」
バニーが取り出した本をまじまじと見る。
『恋人との気持ち良いセックス』という題の結構分厚いハードカバーの本だった。
「……バニーちゃん、これ、どうしたの…。買ったの?」
「はい」
「…本屋で買ったの?」
「いえ、ネット通販です」
――あ、そう…。……良かった……。
こんな本、顔がすっかり知られているバニーが本屋なんかで買ったらとんでもない事になる。
通販で買ったって事を知ってちょっと胸を撫で下ろしたけど、でもやっぱりバーナビー・ブルックスJr.で通販しているんだろうから、それも問題な気もする。
などと思いつつ、その本を見る。
表紙は上品そうな若い男女の胸から上だけのショットで、といっても裸だが、幸せそうに頬を擦り寄せている写真だ。
真面目な本らしく、シュテルンビルトでも結構有名な精神科医が書いているようだった。
「へぇ…」
「ここに、こういう風に書いてあったんです」
そう言ってバニーがぱらぱらとページをめくった。
『もしかして、あなたの恋人はMかもしれません。セックスの時に盛り上がらないなぁと思って密かに悩んでいるあなた、たまには恋人といつもしていないようなプレイをしてみたらいかがでしょう。』
『例A――痴漢プレイ』
とあった。
『本当の痴漢は勿論論外ですが、そうではなくて恋人同士で痴漢プレイをしてみませんか。恥ずかしい気持ちやシチュエーションで、盛り上がる事請け合いです。いつも辛そうにしているだけの恋人もすっかり潤って、あなたを求めるようになりますよ?』
「えー……そ、そうなの…?」
精神科医が書いたのかもしれないが、かなりストレートだ。
バニーは真面目なやつだから、こんなのだってすげー真面目に読んじちまうんだろうなぁ。
「……………」
俺はちょっと眉を寄せた。
でもバニーは真摯な瞳で俺をじっと見つめてくる。
「虎徹さんも、もしかしたらすごく興奮して、気持ち良くなってくれるかもしれませんよね?」
「……でもこの本、男女の事じゃねぇの?」
「セックスには男女も何もありませんよ。二人で愛し合う行為をセックスって言うでしょ?」
さすがバニー……、言う事が格好いい。
俺なんかがそんな事言ったら、たとえばアントニオなんか噴き出してその辺転げ回って笑っちまうだろうが、バニーが言うと様になる。
格好良いやつが言うと何を言っても格好良いんだな、などとバニーの端正な顔を見ながらぼーっと考える。
「虎徹さん…」
バニーが顔を近づけて低く甘い声で囁いてきた。
「僕、あなたに気持ち良くなってもらいたいんです。あなたが気持ち良くなって、よがって僕を求めてきてほしいんです。……そういう風に望んでは駄目ですか?」
語尾が震えて、いかにも切なそうだ。
――あー、……分かった分かった。
そんな風に言われるとものすごく弱い。
なんつったってバニーちゃんの事好きだからね。
バニーが悩んでこんな本まで買ってそこまで真面目に考えてるんだったら、オッケー、バニーちゃんになんでも協力しちゃう。
それがまぁ、痴漢プレイでも。
……っていうか、痴漢プレイねぇ…。
まぁでもとにかく俺はバニーの切なそうな声に負けて、『痴漢プレイオッケー』と言ったのだった。
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